第3話 魔族

 三人がそんな話をしていると、もう一人初老のいかにも身分の高そうな男が足早に部屋に入ってきた。


 男は部屋に入って結衣の存在を確認すると

「おお、召喚に成功したのか!」と言ったものの、次の瞬間結衣の後ろに立つデリーターの姿に気が付いて驚いて固まった。気を取り直して女性の方を見ると

「召喚するのは一人だったのではないのかね?しかしまた変わったいでたちだなこれは…」そう言いながら男は今度はまじまじとデリーターの事を見ている。その不躾な様を見て女性の方ははっとする。


「失礼しました。そう言えば自己紹介がまだでした。私は宮廷魔導士のソフィア・クリスタルと言います。こちらは魔導士長のウォルター・ジファードです」そう言って結衣に向かってお辞儀をしたあと、今度は結衣たちを手の平で指しながら

「魔導士長、こちらが今回召喚させて頂いた結衣さんと、デリーターさんです。召喚したのは結衣さんだけなんですが、なぜかこの方も一緒に現れました」と、説明した。魔導士長のウォルターは困惑気味だ。


「ソフィア君、それはどういうことなのかな?」

「どうも彼女の創造ポイントから推測するに、そこのデリーターさんは結衣さんの創造物じゃないかと思われます」ウォルター魔導士長の問いにソフィアが答える。

「異世界の人間は召喚されてから、魔導書を使って創造を行うんじゃ無かったのかね。聞いていた話とは異なる様だ」そう言ってウォルターは少し考え込んでいる風だ。そうしてデリーターに話しかける。

「で、その創造物かも知れないデリ―ター殿はどのような能力をお持ちなのかな?君がトーナメントを戦うという事になるんだろうか」


「私に聞かれても困りますが、現在結衣さんが2万ポイントを所有しているのであれば、10日後の戦いまでに10万ポイントは超えますから、新たな創造をすることも可能だと思います」デリーターはそう答えた。

「まぁ今後どうしていくかは追々考えるとして…」ソフィアはそう言ってからウォルターの方を見る。


「あなたはどなたなのかしら?」突然のソフィアの言葉にウォルターは慌てて言い返す。

「何を言ってるんだソフィア君」

「魔導士長は私を君付で呼んだりしませんよ」ソフィアはそう言ってすぐに後ろに下がりウォルターと距離をとって身構えた。


 ウォルターは何かを話そうとしたが、その前にソフィアが動いた。

「ファイヤーイジェクション!」ソフィアが叫ぶとその前面には横に伸びる炎の柱が出現した。そうして炎がウォルターを包む。しばらくその炎はウォルターの周囲に留まりその身を焼き尽くす。


「あれって魔法ってやつよね?この世界では魔法が使えるってところは期待を裏切られなくて良かった」その場の緊張感には、我関せずという感じで結衣は隣に居るデリーターにそう話しかけた。

「魔法は存在しますが誰でもが使えるというわけでは無いようです。彼女はかなり上級の魔導士みたいですよ」彼はそう答えた。


 燃え盛る炎の中から声がする。

「せっかちですね…私が本当の魔導士長で、人前だからたまたまあなたを君付で呼んでいたならどうするつもりだったんですか?」

「本物の魔導士長だったらこんな魔法効くわけないでしょう。こっちも熱いから火魔法が利かないならさっさと消しなさいよ」ソフィアにそう言われて、先ほどまでウォルター魔導士長だったそれは右手の指をぱちんとはじいた。すると立ち上った炎のまわりには空気の渦が巻き、炎は一瞬のうちに消え去った。


 炎が消えて現れたのは、黒い毛におおわれた人型の獣だった。いや、結衣の中ではこれは悪魔というもののイメージだ。尻からは尾のようなものが生え、背中には蝙蝠のような翼もある。


「あれは何?」結衣はデリーターに聞く。結衣の考えたデリーターの設定では、彼は世界の事は何でも知っていることになっている。まるでネットで検索するように、何でも聞けば教えてくれることは創造主である結衣には分かっている。実に便利な存在だ。結衣の期待通りにデリーターは答える。

「魔族と呼ばれる魔王の創造物ですね。強い魔法耐性があります」


「魔族という事は魔王の手のものですね。さしずめトーナメント前の下見って所でしょうか。でも見られたからには生かして帰すわけにはいかないですね」そう言ってソフィアはローブの下から杖を持った右手を出し、前の方に掲げて何やら呪文を呟き出した。


「先ほどの火魔法は無詠唱で大した威力では無かったですが、今度のは結構凄いやつですよ」デリーターは結衣にそう言った。

「でも悠長に呪文なんか唱えてたら、その間に攻撃されるわよね」結衣とデリーターがそんな会話を交わしている最中、結衣の予想通り魔族はソフィアの方へ移動して長い爪を伸ばした腕で彼女に切りかかった。


 しかしその爪はソフィアに届くことは無く、透明の壁にぶつかるがごとく高い音を出してはじき飛ばされた。

「あの黒いローブが魔道着なんですよ。物理的な攻撃を防ぐように術式が施してある。魔導士は腕力が無い分防御用に色々な工夫を施しています」デリーターの説明に結衣はうんうんと頷いている。


 魔族の物理的攻撃を防いで、充分な時間をかけたうえで、ソフィアの上級魔法が発動した。

「ヘビーグラビティ!!」ソフィアがそう叫ぶと、魔族の体はまるで上から何かにおし潰されたかのようにぺちゃんこに潰れた。先ほどまで2m以上あった身長が、一気に10cmぐらいに縮まった感じだ。もはや原型は留めていない。

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