第2話 トーナメント
「あのーお取込み中あれなんですが、話を続けてもよろしいでしょうか?」女性は申し訳なさそうに言う。
「ああ、すいません。続けてください」結衣にそう言われて、女性は一つ小さく咳ばらいをしてから説明を再開した。
「この世界には七つの国が存在してまして、ある時それぞれの国がそれぞれに一人の人間を召喚するように神託が降りました。つまり七人の人間が異世界から召喚されことになります」女性はそう話しながら結衣の方を見るが、結衣はデリーターの方を見ている。女性はもう一度咳ばらいをしてから続ける。
「この七人に魔王を加えた八者でトーナメントを行うとの事です」
「トーナメント?」結衣はそう言って女性の方へと振り向く。やっと女性の説明に興味を持ってくれたようだ。
「そう10日に一度二者ずつが戦って最後に優勝者をめます。あ、心配しないでください優勝者が決まった時点で7人は自分の元居た世界に戻れるそうです」
「それって私が戦うって事ですか?」結衣が聞く。
「そうとも言えますが、違うとも言えます。結衣さんの目の前に魔導書がありますよね?」女性にそう言われて、結衣は足元に置いてある古い本のようなものの存在に気が付いた。拾い上げてパラパラとページをめくっていく。
「中には何も書かれていないようですが?」
「それは魔導書と言ってこの世界では魔法の元となる存在です。但しその魔導書は特殊で今のところ何も書かれていません。そこに召喚された人間が書いたモノが現実の存在になると神託で告げられました。いうなれば創造の魔導書ですね」
「ああ、私自信では無く魔導書に書いて現実化したモノに戦ってもらうという事ですかね?」
「そういう理解でいいと思うんですが、そちらの方…デリーターさんは結衣さんが魔導書に何も書いていないのに出現されましたよね。それがどういうことなのか普通なのか…他の国がどうなっているのかは私には分かりません」女性はデリーターの方を見ながらそう言った。
「他の国にも聞いて見ればいいんじゃないですか?」結衣は言った。
「七つの国は決して仲がいいというわけではありません。トーナメントでの勝敗が国の順列を決める可能性もあるので、どの国も自分の手の内は明かさないでしょう。私には他の国にも同じ神託が下っているという事しかわかりません。ただひとつ確実に言えるのは、もし魔王がトーナメントで優勝した場合、魔王がこの世界を支配するという事だけです」
「え、それはまずいじゃないですか、みんなで協力すればいいのに…」結衣が言う。
「色々と大人の事情があるんです」女性はやれやれと言った感じで答える。
「とにかく私はこの魔導書を使って、戦ってくれる人?物なのかな?を創造して最後…最初かも知れませんが魔王を倒せばいいんですね」結衣が言った。
「但し創造物自身が戦うには意思を持った存在でなければいけません。人というか生命を持つものを創造するには、創造物を依り代とする魂が必要だとも聞きました。例えば植物とか動物とか…それら命を持つ者からちょっとだけ分けてもらう感じですかね。まぁこの世界にも色々な生き物がいますから素材には困らないかもしれませんが…」女性は答えた。
「しかし一戦に10日として、…8者のトーナメントだと優勝者を決めるのに3回は戦わないといけないですよね。すると30日間は元の世界には戻れない。父が心配するだろうな…今から連絡はできないんですよね?」結衣が聞く。
それには突然デリーターが喋り始めた。
「この世界の時間の流れ方は、結衣さんの世界の時間の流れ方と全然違いますから心配には及びませんよ。30日間だと1時間くらいなものです」デリーターの説明に結衣が驚いている。
「どうしてあなたがそんなこと知ってるの?」結衣は彼に聞いた。
「私が世界のことは何でも知ってるという設定にしたのは結衣さんですよね?」そう言ってデリーターはニッコリ笑った。それはとてもやさしい笑顔だった。そうして彼は続けた。
「この世界に召喚された人間には最初に創造ポイントが12万ポイント与えられています。これから魔導書を使って何かを創造していくにはポイントが必要になります。必要ポイントは創造するものがこの世界でどれほど特異な存在であるかで変わってきます」いきなり饒舌に話し始めたデリーターを、結衣も女性も驚いた顔で見つめている。デリーターはそんな二人を気に留める様子もなく続ける。
「ポイントは一日に1万ポイントが付与されて蓄積されて行きます。ためておけるポイントには上限はありませんが、モノを創造するにはポイントの他に想像力が必要になります。10万ポイントもあれば生命体も創造できますが、大きな想像力が無ければ優れたものにはなりません。そう言った意味で想像力が強さに直結するわけです」これであってますよね?と言った感じでデリーターは女性の方を見た。
「あなたは何者なんですか?確かにあなたの説明は、私が知っている神託の通りです」女性は答える。そうして結衣の方を見る。
「何を作るのにどれくらいのポイントが必要になるのかは創造する立場である結衣さんには何となく分かると思います。自分が持つ残りのポイント数がどれくらいなのかも一緒ですね」女性はそう付け加えた。
そう言われるとなぜだか結衣には自分の持っているポイントがどれくらいなのかが感じ取れていた。漫画と違ってステータスウィンドウを開いたりはできない様だ。というか必要なさそうだ。お腹が空いたとか、ちょっと疲れたなとかそれぐらい自然な感覚で数字を知ることができる。そんな感じだった。しかし彼女はそこでちょっと怪訝そうな顔をする。
「何となくわかりましたけど、私の今持っているポイントは2万ぐらいだと思います。もしかして召喚時に10万ポイント使って、無意識のうちにデリーターを創造してしまったんですかね?」結衣が言う。
「さぁ私にも初めての事なので、良く分かりません。そちらの…デリーターさんは何か分かりますか?」女性がデリーターに聞く。
「自分に分かるのは世界の仕組みの事だけなので、それ以上の事は分かりません」デリーターは両手を上げて首を横に振りながらそう答えた。
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