第4話 デリート
「凄い魔法だね。あれじゃ流石に死んじゃったよね」目をキラキラさせながらそうい
う結衣にデリーターは答える。
「どうですかね。魔族には自由に形を変えられるものもいるみたいですよ。血も出ていないし」彼の言う事が合っていたことを知るのには、そう時間はかからなかった。
平たい皿のようになったその魔族は、ソフィアが放った魔法の効力が消えると一瞬のうちにまた元の姿に戻った。
その魔族は戻った自分の体を確認するように、手のひらで体のあちこちを触りながらこう言った。
「さてどうしますかね。ここまでの情報でも充分な気がするので立ち去るか、それとももう少し遊んでいくか…」魔族は結衣とデリーターを交互に眺める。自分の上級魔法が全く通じてなさそうな様子を見て、ソフィアは焦りを隠せない。
「彼はこのまま帰さない方がいいんですよね?」デリーターが憔悴しているソフィアにそう聞いた。ソフィアはうんうんと頷く。デリーターは魔族の方を向いてこう言った。
「まだ私についての情報は何も得ていないでしょう?帰る前にもう少し遊んで行かれた方がいいんじゃないですか?」そのセリフには魔族も合点がいったようだ。
「確かにこのまま帰ってもたいした報告はできそうにないですね。しかしさっきから気になるんですが、あなたのその肌みたいなもののツルツル感は何ですか?リザードマンとかドラゴンとも違うようだし…」
「そこは気にしない方がいいでしょう。この世界ではちょっと良く分からない感じだと思いますので」そう言いながらデリーターは魔族の方へ向かって無造作に歩いて行く。距離が詰まったところで、右手の平を広げて魔族の体に向かって突き出した。
魔族はそれを左手で受ける。しかし受けた瞬間デリーターの触った魔族の左手部分が消え失せた。衝撃が加わったとか、圧力を受けたとかそう言う事ではない。ただただ消え失せたのだ。
そのやり取りを見て結衣はニヤニヤとしている。
「それはその部分も実現しておいて貰わないとね」彼女はそう呟いた。
「何ですかこれは」そう言いながら魔族は少し後ろに下がる。
消えた左手に右手を掲げながら
「ヒール!」と叫ぶと消失した部分は復活した。
魔族には訳が分からなかったが、先ほどと同じく右腕の爪を伸ばしてデリーターに斜め上から切りかかった。デリーターはそれを左手の平で受ける。受けるというか魔族の右腕の爪がデリーターの左手に接触したとたんに、触れた部分が消え失せた。魔族はそれに気付くとすぐに後退してデリーターとは距離を置いた。
「なんだ?魔法か?こんな魔法は聞いたことが無い」魔族はそう言った。
「でしょうね。こんな魔法はこの世界には存在しない」デリーターはそう返した。
「彼はその両手に触れたものは全て消し去ることができるんです!これが彼のスキル、デリートです」結衣が得意気に声をあげた。
「そんな事教えてしまっていいんですか?」心配そうにソフィアが言う。
「どの道彼に帰ってもらっては困るんでしょう?」そう言ってデリーターは右腕を上にあげると、魔族に向かって袈裟型に切りかかった。手の平の動いた軌道に沿って魔族の体は消失する。刀というよりはこん棒で胴体を斜めにこそぎ落とされた感じだ。
「何ですかこれは…我々魔族の体は魔法に対しては並々ならぬ耐性がある。この攻撃はこの世界の理屈の外をいっている…」そう言って自分の体の前面に入った斜めの窪みを眺めている。
「しかし浅いですね。消せるのは手の平の範囲だけの様だ」そう言って、全身に力を入れる。一瞬の内に先ほどこそぎ取られた肉は元に戻っていた。
「私の復元能力を超えない限りは私は倒せませんよ」
魔族のセリフにデリーターはこう言った。
「嘘はいけません。復元能力では無くて、ヒールの事前掛けですよね」デリーターがそう言ったのを聞いて、てっきり魔族には強い肉体再生能力があると思い込んでしまっていた結衣は反省した。
「ではこんなのはどうしますか?」そう言って今度はデリーターは右手の平を広げて先ほどとは違って素早く魔族の胸部分を突いた。空手で言えば掌底突きだ。突き終わってデリーターが腕をひっこめると、魔族の胸部分には手の平型に大きな穴が開いていた。
「心臓を消されましたか…」そう言い残して魔族の体は黒く変色すると、次には白く変わり、最後は焚火後の灰のように拡散して消え去った。
「彼の魂の源はなんらかの哺乳類だったんでしょうね。心臓を失うことで体を維持する力が無くなってしまったんでしょう」デリーターは言った。
そこでまた入り口から一人の男が駆け込んできた。
「ソフィア、召喚が成功したらしいな」ソフィアは本物のウォルターをチラ見してから結衣とデリーターの方を向きなおした。
「繰り返しになりますし、お二人はお疲れでしょうからもうお休みください。用意した部屋には私の使い魔が案内させていただきます」そう言って彼女が右腕を上にあげると、小さな小動物のようなモノが現れた。それは空中にぷかぷかと漂っている。
「モカ、二人を部屋まで案内して」ソフィアがそういうと、その小動物のようなモノは軽くうなずいて、空中をさまよいながら結衣とデリーターの二人に小さな腕でおいでおいでのジェスチャーをした。
「かわいい…あんなのを創造するのにも10万ポイント位必要なのかな?」結衣のセリフを聞いてデリーターは天を仰いでからこう言った。
「無駄使いはしない方がいいと思いますよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます