第41話 別れ

 飛空船でガンダーラ総督府の着陸すると幾人かの鎧を着た兵士と女官達が迎えにきた。

 ジオンとメリルが降りてくると皆一斉にうやうやしく頭を下げた。

「「「お帰りなさいませ、ジオン総督」」」

 一斉に唱和する。

 ジオンは近くの兵士にマルスの口輪を渡すと。

「リーンファに会いに来た。案内してくれ」

 一人のメイド長が進みでた。

 白磁の建物に民族衣装。

 たが彼女だけ西洋風メイド服を着た。

「こちらに」と案内をかってでた。

 長い廊下を歩くと程よく陽当たりのよい大きな部屋についた。

 大きな白い羽毛のベッドに身体中を配線につながれた、枯れ枝のような老女が横たわっていた。

 かつて美しかった顔には小さなヒビがたくさん入っている。

 色のない唇から「ジオンなのか」ともれた。

 15年前と変わり果てた妻の姿だった。

「ああ、俺だ」

 ジオンは左隣りに片膝をついて、骨と皮になった妻の手を握り、目線の高さを合わせた。

「相変わらずひどい男だ、帰ってくると連絡入れれば化粧ぐらいしたのに」

「ああ、すまんな」

「今から延命措置を停止する。今日死ぬ事にするょ」

「お前にうらみ言の一つでも言ってやろうと思って今日まで頑張ってみたが、

 会うと不思議だ。

 何一つとして出てこない」

 微笑みながら涙を一粒流した。

「紹介するよ、メリル。旅の仲間だ」

「ジオン。お前を託すのは難しい。

 服従の首輪なんか使って、手軽に済ませようとする」

「そんなつもりはなかったがこうなった」

「私はもう逝くわ、ジオンをおねがいね」

 メリルに微笑む。

「この人を愛するというのは寂しい、

 愛なんて簡単に語るよりエネルギーのいる事だ、

 ここが生きる場所、生涯の一人だと決めねばならない、それでいて重さになりたくないと」

「俺を愛するのは大変だ」

 医師に目配せすると延命装置を外しにかかる。

「コレからどうする。当面は総督するしかあるまいが」

「過去には過去の問題があり、

 未来には未来の問題がある。

 現在には現在の問題があり、

 人の所業は過去も未来も変わりわしない。

 未来永劫、闘争は無くなりはしない

 何も知らない若き魂達に問題を解決する糸口となる知恵と力を伝達する一助になる旅を続けたい

 過去は誰にも変えられない、連続する現在の選択だけが未来を創るのだから」

 左手にほほをあてながら。

「俺はお前と共に終わった人間だ」

「その言葉だけで嬉しいょ。

 それでも世界はお前個人を必要とするょ」

 ジオンの頭に左手をおいた。

 医師が装置を外し終わったのを見て「二人きりにしてくれないか」とリーンファが頼んだ。

 メリルたちは一礼してでた。

 部屋を出て行く時、メリルにはリーンファが若返って見えた。

 2時間ほど部屋の外で待っているとジオンが出てきた。

「逝ったのね」

 ジオンがコクンとうなずいた。

 官女達が入っていく死装束の段取りだ。

「お別れできた」

「『愛してる』と言えば『自由を1番愛してるくせに』だとか『種無しかも』と言えば『私が石女うまずめだった。キチンと後継者を作れ』など取り止めのない話をした。

 できたのかな〜」

 彼女には生者との別れの儀式がある。

 輪廻転生を信仰する者は火葬だ。

 死後の復活を信仰する者は土葬だ。

 棺に入れられ、みんな最後の言葉と共に一輪の花を捧げる。

 教会の中、棺に入れられた死装束の彼女は最後綺麗だった。

 最後にジオンが花を入れる。

「さようならリーンファ。

 輪廻転生の果てにまた会おう」

 迎えにきたメリンダと遊牧民の結婚衣装を着た、花の日のリーンファの魂が仲良く立っていた。

 先ほど「リリア義母さんに刃物を持って追い回されたメリンダ死んだの、千歳まで生きそうだったのに」コロコロと笑ってみせた。

 メリンダがジオンに見せたのだろう。

 2人はこれから光の国へと長くて短い旅が始まる。

 葬儀が済み火葬場へと運ばれる。

 ジオンが薪に火をくべた。

 煙が天へと昇っていく。

 


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楽園への道 鈴木 @yann1234

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