第40話 方舟が征く
ヨハンが力場を移動させて、ジオンの開けた穴から脱出した。
サロメが巨大なイナゴに襲われないようにマジックシールドを張った。
チムナター、ダビデ、シルが魔法的に穴を開けて、触媒を入れてあるホールディングスポシェットから虫かごを取り出して、共喰いしないように仕切りが設けられていて、魔法的にとらえたイナゴはかごに入れると小さくなる。
「何をやってるゾナ?」
「新種ですから捕まえて研究に」ダビデはかごに入れながら答えた。
「魔王創造のために」
「魔神召喚の器の
チムナターとシルが答えた。
ジオンは自由のどうたらと言った手前違和感がないかと言えばウソになる。
だが運も実力のうちだ。
それも含めて自由なのだ。
穴を通って船外へ脱出した。
あれだけの攻撃を受けて、外壁はジオンの穴だけだし、機関部や重要機関はむき出しになってはいたが壊れてはいなかった。
外にはメリンダと箱が浮いている。
皆が横の地面に降ろされた時、メリンダも降りてきた。
「取り外せる、種子の入った棚や卵や受精卵の入った冷凍装置などそのまま入れてあるから、ラゴンは人工子宮や人工孵化装置があるからお主に渡しておく」メリンダはチムチムに箱を渡した。
「モアがいる時に開けょ、地上でもっとも聡い。
悪いようにはするまいて」
「どこにいるか分からないゾナ?」
「なに、
ジオンの方を向き直り。
「コレでお主を助けれるのも最後じゃ」
「えっ」
「実は死んでしもうた」
「俺のせいか。俺が召喚なんかしたから、身体に無理をさせたとか」
「いや、肉体の寿命じゃて」
「あと2年は生きるんじゃないのか」
「占いなんてそんなもんじゃ、必ず出会いと別れがある。
ただそれだけじゃ」
「また、
「実は
弟子に全てを伝えたし、頃合いじゃと思い受ける事にした」
「えらくデカい
「アホ。
100万分の1に小分けするに決まっているじゃろうて」
ジオンの肩に手を置いた。
「出会いを喜び
不正義を怒り
別れを哀しみ
人生を楽しめ
魂の修行や救済など考えるな
この世のことはこの世で終わる。
あの世のことはあの世から始めよう。
苦しみも後悔も人生の味ぞ
婆が迎えに来てやる。
また案内してやる。
ゆっくり長く短い人生を語り合おう
遥か彼方で待っている」
ゴゴゴゴと方舟が動きだした。
あれだけのダメージを受けて船はまだ飛べるのだ。
「何をする気だ。
ソフィアに特攻でもかける気か」
「そこまで愚かではあるまい。
いったん宇宙にでてダークマターを補充して、修理してから外銀河に生命を集めに行く気じゃろうて」
方舟は浮かび上がる。
攻撃はしてこない。
ただ天井を破壊しながら。
「いかん。このままでは生き埋めだぞ」
その時、声がする。
「こっちに安全なルートがある」
幻獣ゾフィードが現れたのだ。
皆続いた。
ゾフィードがジオンに並んだ時「魂を解放してくれて感謝している」礼を述べた。
地上に出たとき家屋を薙ぎ倒しながら方舟はただ浮かんでゆく。
人々はそれぞれの神の名を語り、畏れおののき逃げ惑う。
ただ浮かび上がる災害がひと段落したのを見てヨハンが切り出してきた。
「ジオン殿今回山分けする財宝もなかったわけですけど、どうされます?」
「まあ、アンタらは研究対象を手に入れた。俺達は楽園にたどり着いた。
それで良しとしよう。
俺らは日本へ…」
「ジオン。奥さんはまだ生きている」メリルが口をはさむ「会いに行こう。
つらくてもお別れをしなきゃいけない」
ジオンは一度目をつぶりそして開けた。
「分かった。
ガンダーラに向かおう。
一緒に来てくれるかい?」
メリルに聞いた。
「喜んで」
「アンタらはどうする気だ?」
ヨハン達に聞いた。
「私とサロメはシベリアに向かおうと思います、オークとの文化交流がライフワークですから。
紀行文や文化比較論でも書いて、ソフィアの目の届かない闇市場で流通させようかと思います」
「親父のエロ本じゃあるまいし、300年前の怨恨を引きずっている奴はいないだろう。堂々と出版したらどうだ」
「オーク側の事情もありますし」言葉をにごす。
「それよりコレお返しします」ダビデが次元刀をさしだした。
「いや、愛人の騎士の君が持ってくれたまえ、返すのはチムナターが死んだ時、錫杖と一緒に返してくれ」
「アカデミーに帰ったら本格的に魔法戦士の修業でもしようかな、新しい戦い方ができそうだし」
「シベリアには同行しないのか」
「巨大イナゴを持って帰るのもあるけど、チムナターの検査や再調整もありますし、一度アカデミーに帰ります」
「私達は残って情報収集を再開します」ベルが口にした。
「私達は日本に行ってエルザの宿木を探すょ、日本は巨木や自然を大切にする文化があるから」
「滞在場所が決まったらガンダーラ総督府に手紙をだします。日本に来たら会いに来て下さい」
「我は一度ラゴンに帰って箱を渡そうと思うゾナ」
「チムチムにつきあうニャア」
「ならばサルディーラが飛空船を出しましょう。10日もあればラゴンからガンダーラへ移動できるでしょう」
「本当にジオン。王子なんだゾナ」
ベルの申し出をチムチムは受けた。
方舟が浮き上がる。
暗黒魔道士達を乗せるワイバーン達がやってくる。
皆、それぞれの道を行く。
「メリンダ。サラバだな」
「婆との別れは違うだろう。またなじゃ」
「ああ、そうだな。またなだ」
メリンダは透き通るように薄くなって消えた。
「チムナター」
背を向けてワイバーンに乗るチムナターに声をかける。
チムナターは振り向いた。
「産まれてきて良かったか?」
にっこり微笑んで「うん」とうなずく。
「ジオンに会えて、あなたを愛せて本当に良かった。
調整が終わったらガンダーラまで会いに行くぜ」
ニカッと笑って親指を立てた。
そうなんだ、人生の長い短いは関係ない。
誰も彼女を実験体だと同情する資格は無い、我々全員神々の道具にすぎないのだから。
ジオンも背を向けて歩きだす。
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