第39話 遺物

「この馬め、驚かせやがって」チムナターがマルスを殴った「何が範囲攻撃だ、思いっきり指向性のある攻撃じゃないか」

「そんな事言われても無意識のどうのこうの言ったのは、アッシじゃありませんし」

 力の抜けたメリルが地面に飛び降りる。

「帰って来た」とつぶやいた。

「お前、何をやってる」

 腕をまたいで刀の光からメリルをかばうため、ジオンの二の腕にウマ乗りになっていて股間で顔面を圧迫。

 しかも彼女はパンツをはかない。

「コレには深い分けがありまして」

 赤面しながら降りた。

 ジオンはメリルを見た。

 首に従属の首輪がしてある。

 自分の左手を見た。

 薬指に支配の指輪がしてある。

 そういう事か。

 全てを理解した。

「チムチム」

 解放されたルナが泣きながら抱きつく。

 ジオンがメリルのまえぐらをつかんだ。

「なぜお前は賢い選択をしない。

 現在の魔法技術じゃ解呪できないんだぞ」

 チムチムがジオンの腕を解かせようとつかんだ。

「お前が言うべきなのはありがとうじゃないのかゾナ」 

「俺ならなんとかできた」

 メリンダが瞬間移動してきた。

 チムチムが握る反対の手に手を置いて解かせた。

「叱る人もいない、心配する人もいないでセーセーすると言いたいのか

 年を取れば自分が築いた人間関係に囲まれて暮らす。

 皆、お主を大切に思っておる」

 メリルを離した。

「済まなかったメリル、感謝している」

 ジオンは頭を下げた。

 メリルはその首にすがりつき、そして泣いた。

「何もかも背負った物を捨てなくていい。

 自分自身を諦めなくていい。

 一つも叶わない夢や希望を持ってもいい。

 許すことを恐れなくていい。

 ジオン。お帰り」

「ただいま」

 においを嗅ぎ、髪をすいた。

 修理用のドローンが壁をふさぎにかかる。

 壁の5ヶ所ほど穴が空き鋼の球体が転がってくる。

「戦闘用の旧支配者、あるいは神々の遺産です。

 かつて戦った事があります。

 電気系に弱い」

 ヨハンが口にしながらジオンのいる中央に走った。

 みんな中央に集まり防御力の低い魔法使いを取り囲む様に円陣をくんだ。

「しかし、王子。

 神殺しなど、又。祟られますね」

「システムの一つを破壊しただけだ。

 世界の大勢は変わらん。

 いまさら一つ増えたとて健康に影響はない」

 ジオンはミスリルの槍に雷の精霊ラムゥ付与エンチャントした。

 ダビデさん次元刀に電気を帯電した。

 ディーネの武器の刃にヨハンが電気を付与エンチャントした。

 ヤルナが電気のマジックアローを装填した

 サロメがチムチムの棍の両端に電気を付与エンチャントした。

 チムナターがメリルの手斧とルナのブーメランに電気を付与エンチャントして、防御として電気の無効化の魔法をかけた。

 球体は二足歩行のロボットに変化して襲ってくる。

 戦いの中ジオンがチムナターに叫んだ。

熱核魔法エクスプロージョンを使ってくれ」

「えっ」

「もう話し合いは終わった。

 魂を解放するにはそれしかない」

 皆戦っている。

 顔からレーザー光線で攻撃してくるが、傷ついた者はベルが片っ端に癒した。

 それぞれヒーリングポーションも携帯している。

「でも、宇宙的生命コズミックホラーとはいえ900体以上悪魔合体は生きてとらえられているんですよ、大量虐殺になるじゃないですか」

「それだけじゃないぞ、船の中央に外銀河の生命の種や卵や受精卵がある。

 皆、死ぬぞ」

 チムナターの意見にメリンダが付け加える。ジオンはマルスのホールディングバッグから50センチぐらいの箱を取り出した。

「異空間につながっている箱だ。

 助けれるだけでいいから助けてくれ」

「是非もなし」

 メリンダは箱を受け取ると瞬間移動テレポートした。

 チムナターが首を小さく振った。

「ほんの少し前なら、実験室からでたばかりなら疑問を挟まず、無邪気にできたかもしれない。

 でも旅をして生命に営みがあり、魂に尊厳があり、人間に権利がある事を知った。

 エクスプロージョンを撃てば宇宙生命コズミックホラーとはいえ大半は死んでしまう。生き残るのは1割にも満たない」

「穴が大きい」ジオンが天井に空けた穴を指差した「まだたくさん助かる」

「私弱くなった。できなくなった」

「俺が望んだ。全てを俺の責任にすれば良い。これは俺の罪だ。

 聖女のように他人の為に生きることと他人に思考を支配されて生きる事と天と地ほど違う。他人に支配された人生なぞ、まっぴらごめんだ。自分自身が持つ魂の感性で生きれないなら死んだ方がマシだ」

 ジオンが敵を倒しながら叫んだ。

「ジオンに魅了されて自分の意思で撃つのと、ジオンに支配されて道具として撃つのとどちらが罪深いですか」

 チムナターがヨハンに聞く。

「我ら暗黒魔道士はソフィアの教えの外にいる輪廻転生はあっても罪も罰もない」

「ではどちらが幸せなんですか」

「チムナター。それは年齢を重ねたから理解できる品ではないんだ。私にも分からない」

 ヨハンか優しげに笑む。

「人の主観は客観できないの」

 サロメが悲しげに付け加える。

「迷うなら撃っちゃダメだ。

 知らない人の自由など尊重する必要はない」

 ダビデが口にする。

 このまま敵を倒してしまい。ジオンの精神剣サイコソードで横に穴を開けて脱出するという選択肢もあるのだ。

「ジオン将軍」エルザが呼びかける「弱い者だけじゃない、心が弱い人もこの世には大勢いるのですよ、悪魔合体のように誘惑するものを世界中に解き放つのですか」

「俺が未来に送るのは自由と多様性だ

 それさえも多様性だ。

 ダメになるのなら女神ソフィアの試練の一つだ」

「人災でしょう。

 力が欲しいのかとささやかれるのですよ」

「やめてエルザ」

 戦闘はあらかた終わった。

 メリルが続ける。

「法はその自由意思を裁くの、

 存在を裁く物じゃない。

 罪を犯す可能性が高いからというだけでの予防的殺人は自衛権による正当防衛じゃないの。

 ジオンの自由にさせて」

 ジオンはチムナターの正面に立ち、両膝をついてから両二の腕を握って軽くゆらす。

「自由か死かなら運と実力を挑戦させてくれ。

 ここで実験動物のように飼われる為に産まれた訳ではない。

 頼む、チムナター俺の為にやってくれ」

 背中に手を回して抱きしめた。

 エルザは理解した。

 本当の自由は相手の違う意見を全力で守ること。

 あなたは平和より優しさより恋愛より自由を選ぶの

「他人を支配しないで自由を尊べば軋轢あつれきを産む、相互尊重を許容できない地点がでてくるから」

 それが自由の限界なのだ。

「やめなよエルザ」ダッキが肩に手を置いた「だってジオンステキじゃない」赤面させた。

「子宮で物事を考えるなょ」メリルが毒付く、すぐそばで「ジオン、カッコいいゾナ」両頬に手を置きシナを作っていた。

「その時は、守るべき物を、守るべき人を、守れるだけ守るだけさ。

 例え、世界を敵に回しても」

 ジオンがチムナターを強く抱きしめながら叫んだ。

 こんなに愛さないヒトでも、抱いてもらえれば腕の中は暖かい。

 チムナターはかすかに笑った。

 杖を空高くかかげた。

「漆黒の極大ょ、大いなる意思ょ」

 チムナターが呪文の詠唱を始めた。

 暗黒魔道士達は全て理解した。

 ヨハンが力場の魔法を唱える足下が崩れても大丈夫のように。

 暴風が巻き起こるのだ。

 サロメが魔法結界の球体状の魔法結界を張った。

「全員内側に骨まで残らない熱がきます」

 シルが耐熱魔法を結界に融合させる。

 皆が結界内部に入るのを確認してダビデが物理防御の魔法を結界に合成させる。

「暗黒の王に矮小なるチムナターが申し上げる」

 チムナターが左手で触媒をばらまく。

「メリンダはどうなるの」

 結界が完成した中メリルが尋ねた。

 もはや結界が完成した以上瞬間移動テレポートもできない。

「いかにエクスプロージョンといえど星間航行をする宇宙船の外壁まで破壊できん。

 適当な頃合いで外に逃げるさ、達人だ。どじは踏むまい」

「来たりてその威を示せ」

 結界の外ではあらゆる物が溶け出していく。

 男の汗臭い匂いがする中『ジオン。貴方が好きです。大好きです。愛してます』

「エクスプロージョン」

 船内は白い輝きが走る。

 誰も目を開けてられない。

 やがて空気の熱膨張による暴風が止むと内壁はボロボロになっていて、それでも破壊できない機械群が露出していた。

 ジオンが開けた穴以外は空いていなかった。

 空いた穴から生き残った大型イナゴが飛び立っている。

 半分以上は燃えているがそれでも生きようと飛んでいた。

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