第38話 |電脳世界《メタバース》
しゃがみこんだジオンの回りに皆集まった。
ヨハンが脈をとる。
サロメが口に手を当てた。
「息はしている」
「脈も打っている。
とりあえず、生きている」
ベルがほほを軽く何回か叩いた。
「ダメだ。意識がないわ」
メリンダが目を閉じて軽く唱える。
「魂はある。あのAI、5感をどこかに連れていったな」
「なんとかできないの?
ジオン苦しんでいた」
メリルが必死に叫んだ。
「肉体に憑依することはできるが、連れて行かれた意識を追いかける魔法などない」
チムナターが青ざめた。
「そうだ従属の首輪なら感覚を共有できる、ジオンに支配の指輪をジオンにはめさせれば」
ダッキが口にした。
「なら私が行くわ」メリルが宣言した。
「マルス。
支配の指輪と従属の首輪ある」
支配の指輪は1人一つしか使えない。
「ありますが、従属の首輪は魂に癒着するから現在の魔法技術では外せない。
すでに癒着しているダッキさんが行かれるのが筋かと」
「それに関係ないメリルが行く事はないゾナ。
愛してる我が行くゾナ」
マルスから従属の首輪と支配の指輪を取り出したメリルから、チムチムがとりあげようとする。
「ダメ、あなた達じゃない」
メリルが抵抗した。
「あなた達はジオンが分かっていることを分かってない。
あなたたちじゃない
ジオンは絶対的な他者なの、
誰の物にもならない、
誰の想いも受け止めない、
ジオンは愛しなんかしない、
ただ公正なだけ、
誰もジオンの孤独を癒せやしない」
「落ち着いてメリルさん。
それをはめると理性を失う人はたくさん見てきた。
ただの獣のメスに、
快楽の亡者になる人がいっぱいいます」
マルスが説得を試みる。
「それでもいい。
ただ、隣にいたいの
輪郭をなぞるだけ」
従属の首輪をつけた。
「私も
ニコリと微笑んだ。
ジオンに向かって歩きだす。
誰もが道を開けた。
支配の指輪をジオンの左手の薬指に通す。
「あなたに終始変わらぬ永遠の愛を
指輪に口付けする。
契約は果たされた。
魂の癒着が始まる。
メリルはジオンの左手に右手を通す。
横に座り、頭を肩に乗せて、ゆっくり意識が遠のく。
ジオンを追いかけた。
暗い闇の中、ジオンは片膝立ちの状態で、真っ直ぐたつカティと対峙していた。
「のうジオン。
お前は選ばれたのだ」
「だれに?」
「もっと未知なる存在を畏れ、超高次元な存在に敬意を払うべきだ」
「俺の
俺は人の道を迷う事を迷わない。
誰かに生き方を照らしてもらう必要はない」
「何の苦しみも悩みもない人生だぞ」
「後悔のない人生などどこにもない。
あるとするなら、それこそ狂気の理屈だ」
「まあ、聞け、ジオン。
我々は人類を評価している」
「評価?」
「こうして0から世界中に散り、覇権を手に入れようとしているか考察してみた」
「考察?」
「
ジオンが気色ばむ。
「ありていに言えば嘘をつく能力。
そしてネアンデルタール人のように
嘘は愛や友情や夢や宗教へと進化していった、大きな集団を作った。
人間より脳も大きく、身体も大きい優秀なネアンデルタール人達は家族単位の小集団しか作れなかった。
幾らかの混血はあったにせょ、サピエンスはネアンデルタール人を滅ぼした。
いまさら、真・善・美を語るな」
「違う」
ジオンの左手を誰かが腕を通した。
「メリルなのか?」
「ジオン違うの。
光を得たの。
クラゲの様な生き物は受精のとき植物の光を感知するセンサーを手に入れた。
原初は明るい暗いが分かるだけだった。
魂の原初風景を手に入れた。
始めは卵を細菌から守る汗だった。
それが進化して母乳になった。
愛の基本は嘘じゃない、子を思う母の愛が起源なの。
ジオンお願い、魂から発する清浄なる情熱があるから、人は自由意思を持つお互いの魂を尊重して器の進化を止めたの。
友情は自分の利益より他人の利益を優先させる人間の
愛と友情の集大成の人の心の奥から発露される個人の情熱を信じているから。
お願い孤独に負けないで、
同じ事物を見て、違う物を感じる、
それは寂しい人の考え方、
だからジオン負けないで」
カティが右手をジオンに差し出した。
「さあ、絶対の優しさにすがれ」
「俺は優しさと自由を選択しろと言われれば、いつも自由を選択してきた」
ジオンは刀を抜き出す。
ヨハンやベルの目の前でゆっくりと刀を抜き出す。
「
マルスが叫んだ。
ジオン将軍が半径10メートルを吹き飛ばした必殺技の名を叫んだ。
ジオン将軍が一騎駆けの次に
遊牧民ミリディアが短弓から銃にかえ、弾を射ちながら突撃してくるドラグーンより突破力があり、当時ジオン将軍に率いられたサルディーラ軍が最強と言われていた
「周囲一掃攻撃って、敵と味方の識別はつくんですよね」ヨハンが青ざめる。
「馬を巻き込まないように使っていましたけど、今は無意識で動いてますから、どの様な形で力が放出されるか分かりません」
ベルが答えた。
「とにかく距離を取ろう。離れてさえいればやりすごせるし、遠くになるほど喰らった時のダメージが小さい」
戦ったことのあるダッキがエルザの腕を取って走り出す。
みんなが釣られて壁に走りだす。
霊体のメリンダも壁まで逃げる、なんてたってドラゴンの首を落とし、霊体の上級構成精霊イーフリートを頭から股間まで真っ二つにしたジオンの
壁に身体を半分通過している。
ディーネは
壁にたどり着くとサロメはヨハンの手を握り、シルはダビデの腕をとった。
チムナターは壁になった開口部に開閉の仕掛けがないか探している。
「魔法防御は効くんですか」
「どちらかといえば物理ダメージでシールド系の方が」
ヨハンの質問にベルが答えた。
チムチムは見た。
ジオンの隣にメリルがいる。
ジオンは刀を抜き、天にかざして青白い光を放ち始める。
特大攻撃の前触れだ。
考えるより早くチムチムは走った。
「チムチム、何考えているニャア」
ルナが叫んだ。
「このままじゃ。メリルが直撃を受けて死んでしまうゾナ」
メリルは
「チムチム、メリルの事はあきらめるニャア。
直撃を受けたら共倒れニャア」
ジオンの顔面に足をかけて引きちぎろうとする。
「我は友達を見捨てはしないゾナ。
ましてジオンに必要な人なら、
なおさら見殺しにできないゾナ」
外れないと分かるとチムチムは自らの身体をメリルと光る刀の間においた。
「チムチム」走り出そうとするルナをエルザが木の枝で胴をくくり空中にあげた。
「チムチムはラゴン。
丈夫だから、まだ助かるかもしれない。
あなたが行けば確実に死ぬ」
エルザが木の枝でルナを壁に押し付ける。
暗闇の中、ジオンは刀を抜いてカティの喉元に剣先を向けた。
カティは左手も差し出した。
両手を差し出したのだ。
「もう、良いでわ、ないか。
その魂は苦悩と孤独の果てに充分成長した。
愛の物になれ」
「断る。
男の意地だ、奴隷の平和もいらなければ、野生を失った家畜に成り下がるつもりもない」
光の本流がカティを滅する。
「しょせん、大切な物は失ってからしか分からないか」
カティが微笑んだ。
人間はまだここまでしかきてないのか。
「ならば大切な物など手に入らない。
手にしたと思えば滑り落ちる」
闇に向かって小さく宣言した。
剣が輝き、天井をぶち抜き、何かを貫通して、ドームの土を削った。
全員目をつぶったり、バリヤーを張ったりしたが
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