第37話 |宇宙船《スペースシップ》

 ジオン一行が額に宝石のついた幻獣に取り囲まれたまま移動した。

 その間野生の幻獣に襲われることはなかった。

 どうもハッキリしたヒエラルキーがあり、宝石種の方が格上である。

 何の変哲もない壁に向かって、

「カティ。マスターカードの主を連れてきたぞ」

 幻獣が叫んだ。

 土の壁が一瞬で消え、三階建ぐらいの金属の壁が土の壁から露出してくる。

 まるで映像が消えるように。

 3階部分に壁に穴ができて、広がるように扉が開く。

 洞窟の中に強い光がもれる。

 足首まであるスカートを身につけた女性のシルエットが浮かんだ。

 逆光の中、足首まである黄金の髪が光の中、揺れている。

「ゾフィード。

 ご苦労様でした。

 後は私が引き継ぎます」

 温かみのある女の声が静かに広がる。

「マウントを取りに行くなょ」

 ジオンがチムナターに警告した。

「分かってるょ」

 誰にも彼にも襲いかかるわけではない。

 相手が明らかに弱く、文明度が低い時。

 技術的に力の差を見せつけられ、文明度が高い場合はビビリが入る。

「驍名はせたらるジオン将軍をまねけて、我ら一同感激しております」

 光でできた半物質のエレベーターがジオンの前に降りてくる。

 ジオンが覚悟を決めて乗るとカティのもとまで連れて行ってくれる。

 一行はみんなジオンに続いた。

 逆光がとれて顔が見えると、目が切れ長でまつ毛が長い、母と違い小柄であったが、印象がジオンの母親リリアに似ている。

「私はこの宇宙船スペースシップによって造られたメンタルモデル。

 この船をコントロールするためのインターフェース。

 カティとお呼び下さい」

 カティは頭を下げた。

「こんな穴の中にいるのに、なぜ俺のことを知っている?」

「この船は世界中に虫ほどの小型無人機ドローンを飛ばして情報を収集しております。

 あなたが魔人ジオンと人間界で畏れられているのも存じております。

 ささやかながら食事の席を用意させて頂きました。

 保存食ばかりでしたでしょうから、ダークマターから作った宇宙食など堪能されてみてはいかがでしょう」

 その間一度たりとも頭をあげなかった。

「こちらに」

 ゆっくり頭をあげた。

 黒を基調とした服だが、星や銀河が描かれていて、それが固定していない。

 夜空に吸い込まれそうな錯覚を受ける。

 服一つとっても科学技術の差を感じさせる。

 全体的に壁や床が太陽光を反射したように淡い光を発している。

 ジオンを筆頭にゾロゾロとついていく。

「魔法技術なのか、科学技術なのかわかるか?」

 ダビデがシルに聞いた。

「さあねー。両方が融合した技術じゃないの?」

 空気は清浄でちり一つ落ちてない。

 案内された部屋は予想以上に広い空間。

 すし詰めにして奴隷を運んでいる。貿易船と分が違う。

 ルナが驚きの声をあげる。

 曲面に描かれた机は宙に浮いてる。

 ヨハンが押さえてみるとガッチリ固定してあった。

「どういう仕組みなんだ」

 机の下をのぞくと足がない。

 足のない球体に近い椅子が空中を向こうからやってくる。

 チムナターとチムチムが同時に座った。

「ふわふわするゾナ」

「浮いてるし、柔らかい」

 それぞれ後ろについた椅子に座ると机の前まで運んでくれる。

 3Dプリントされた3センチほどのキューブ状のカラフルな食べ物が豪華に盛られ、すきな色を小皿に分けてとる。

 横に立っているマルスにも提供された。

 飲み物はこの時代の人が食したことのない炭酸水系が出されて一様に驚いた。

 全員が歌い、笑い、話をした後、食事を終えた後。

 沈黙が支配した。

 メリルがマスターカードを机に置いた。

「コレはなんですか?あなたがたはなんですか?この船が楽園なんですか?」

「そのカードは、この宇宙船スペースシップ『方舟13号』が拾った宝石人に与えたものです。

 我々の使命は外銀河の魂や生物の収集です。

 あなたがたは肉体に魂が宿ると考えがちですが、情報が先で肉体が魂を追いかけるのです。

 宝石人の惑星は隕石の衝突で文明が滅びかけていて船に収容した時は1000人にも満たなかった。

 滅ぶに任せてもかわいそうだったので全員収容した。栄養状態が改善したら大分増えたので惑星に着陸した段階で下ろした。

 幻獣の支配の仕方を覚えて、一国を支配するほどになると世界の半分をやるから惑星を自分達と支配しようなどと言い出すから、プレートを取り上げて放り出した、それ以来王家とは会ってない。

 悪魔合体を行う生物、ジオン。

 あなたが倒したイナゴを7体ほど放ち、それぞれにプレートを持たせて放った。

 高潔な魂の持ち主が訪ねてくるのを期待して。

 イナゴの所業も知っている。

 彼らは宇宙生物コズミックホラー、別種の個体を融合し、新しい個体を造る。

 我々は悪魔合体とよび、できた個体はキマイラと呼んでいる」

 カティは立ち上がる。

「我々は旧支配者。

 お前たちがあがめる。

 唯一神ソフィアも旧支配者の1人だ。

 我々は調整者グイン将軍の下で、外宇宙の神々アウターゴッズと何万年と闘いつづけた。

 地球に似せた人工惑星をつくり銀河系各種から植生と生物を連れてきて、遺伝子をいじり風土にあわせて何が勝者になるか研究していた。

 我らグイン将軍を含む方舟船団が外銀河まで新生命を求めて旅立った時、事件は起きた。

 ソフィアが人工子宮で知的生命体を創り、ヒイロイカネの魂を解き放ち、輪廻転生を再開して道徳を説き魂を鍛える。

 人工惑星という実験上で改良した肉体と頭脳を競合進化させる。

 魂はヒイロイカネの中で幸福な夢の中にいる、あなたがたが楽園エデンと呼び、完全な平等を再現。ソフィアから追放された場所。

 平行次元マルチバースの侵略からは我々で対応すればいい。昇る魂もあれば、堕ちる者、悪魔に喰われる者、アンデットや悪霊イービルスピリットになる者のなんと多いことか、ソフィアの失政であり失策。

 だがソフィアは努力しない魂を堕落と決めつけ、実験中の厳しい環境下に風土に合わせて知的生命体を投下始めた。

 魔法を含めた文化が各地で起こり、我々が帰還を果たした時は世界を2分する神々の戦いは終わっていた」

 カティはゆっくりと優雅に一歩ずつジオンに近づいた、

「のう、半妖精ハーフアルフ吸血貴族ノスフェラトゥは死ねば灰になる、天使エンジェルは死ねば羽毛になる、妖精アルフは花になるというが、あなたはどうなるでしょう」

「ハーフは人間と同じでただの死体にしかならない」

 カティがジオンの後ろに立った

「ジオンから離れて、そして金属生命の魂を解き放って、そんな物楽園エデンでもなんでもない」

 メリルが叫んだ。

「そのマスターカードは通行書であって管理者権限を付与されたものではない。

 だがこの惑星に幻獣が増え、至る所に迷宮ダンジョンが増える事に抵抗を感じる分ではない。

 ソフィアが中心となった実験場に義理も責任も感じはしないが条件がある」

「条件?」

「あなたがた全員、肉体を捨て精神のデータ化マインドアップロードを受けてもらいたい」

「我々に死ねと。

 そして輪廻転生の輪から外れろと」

 ヨハンが口にした。

「正確には違う。

 肉体マテリアルボディを与える。

 地上で活躍して欲しいし、肉体は破壊されてもデータをアップロードさせるから事実上の不老不死だ」

「我々に何をさせようとしておいでですか?」

 ベルが聞いた。

「調整者グイン将軍が帰還したおり、進化改良した肉体マテリアルボディを与える高潔なる魂を収集して欲しい。

 もう一度ソフィアに挑む為の準備がしたい。

 吸血貴族ノスフェラトゥ天使エンジェルも我らの技術だが妖精アルフは違う、異世界の文明技術や進化だ。

 研究させて欲しい」

「選民ぐらい自分達でしたらどうだ。

 それとも善悪の自信がないのか。

 仮に神々と語るのならばソフィアの様に選良ではなく啓蒙を語ったらどうだ。

 その方が信者を獲得できるぞ」

 ジオンは親指を刀にかけた。

「俺は旧教の洗礼を受けたが、我が主人あるじはソフィアだと言う程熱烈な信者じゃない。

 自らの生き方は自らが決める。

 どんな条件だされても、髪の毛1本に至るまでお前の物にはならない」

 後ろに立ったカティを刀で横一閃した。

 だが空を切る。

 ただの映像なのだ。

 天井から魂を束縛する霊糸がそれぞれの頭上に突き刺さる。

「下手に動くな。肉体から魂を抜き取るぞ」

 カティは高圧的に命令を下す。

 ジオンは納刀する。

 オリハルコンで魔法的には守られているジオンにも刺さった。

 何か魂の科学。

 仮に守られていたとしても、これだけ人質をとられては、まして向こうの攻撃は届き、こちらの攻撃が届かないのなら、ここは矛を納めるしかない。

「のう、ジオン。

 我々先史文明が何ら人体実験をしなかったとでも、我らは知っているのだ人間の判断は魂の情熱ではなく、脳内の化学反応だということ。

 強靭な意思など薬でどうにかなる問題。

 素直に我等の物になれ」

「システムは責任を引き受けるのが嫌なのか、できないのか、自信がないのか、選民ぐらい自分達でやったらどうだ

 マインドアップデートを生きているなどと俺は認めない。

 魂がその中に存在するというのなら輪廻転生の中に還す」

 カティはジオンに近づき抱きついた。

 先程はきれなかったのに肉体はそこにある。

「ジオン。あなたの母親に似せている。

 懐かしかろう」

 それは愛と呼ぶには凶暴な。

 支配欲と所有欲、相手の人格を一切認めない自身の分身であるかのような錯覚。

 全力で逃げ出したい。

 左手首の紐を解いた。

「メリンダ。助けてくれ」

 ジオンはキスを迫るカティに顔を背けながら叫んだ。

 円卓の真ん中が光輝く。

 天井からぶら下がる全ての霊糸が一瞬で雷で燃やされる。

 魂に距離は関係ない。

 一瞬で召喚に答える。

 メリンダは強力な霊体でシャーマンの衣装をまとった20代の女性で、霊視などできないメリルにも白色の身体がはっきり見えた。

 宝石のついた錫杖でカティを指した。

「その男は婆の若かりし頃、恋人だった男の息子。

 やすやすとAIにくれてやりはせんぞ」

「貴様前世の、それも地球の頃の記憶があるな」カティがゆっくり手を離した。

 ジオンが頭を抱え出した。

「これは俺の罪だ

 罰も償いもあるとしたら俺だけの物だ。

 誰にも渡しはしない」

「貴様、何をした!」

 メリンダが詰問した時、カティの姿がきえた。

「「「ジオン」」」

 自由になった皆が集まる中、刀を握り片膝をついた姿勢で意識を失った。


 


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