第36話 |奈落《アビス》|危険地帯《デンジャーゾーン》
少し話ながら歩くと大きな穴が更に開けた場所にでる。
1匹ね4つ足の幻獣が行くてをはばむように座った。
種類の違う幻獣が10体ほど現れた。
皆、額には宝石がついている。
普通の幻獣とは違う。
ジオン一行を包囲していた
青い手のあるウロコのある人間を思わせる2足型が2体、体が白く虎を思わせる毛針で戦う4足型が2体、羽手裏剣で戦う赤い飛行型が2体、甲殻類を思わせる固い殻を持った6本足の昆虫型が2体、魔法的特殊能力を使う型、金色の馬を思わせる4つ足が2体。
襲ってくることなく様子を見てくる。
宝石を持った幻獣は一体だと勘違いしていた。
「言葉はわかるのか、話し合いを…」
ジオンが言いかけた後ろで、
「土を泥に」
チムナターが10体全員に。
魔法の抵抗をされないように足下の地面に直接魔法をかけた。
鳥だって空を飛ぶのに地面を蹴る動作がいる。
4本足の場合、スリップよりスワンプの方が効率が良い。
足下が石だたみでないからこの魔法が使えた。
10体全員、膝まで泥に浸かって移動ができない。
「人の子ょ、話し合おう」
正面の4つ足からりゅうちょうな言葉を発した。
「もちろんだ、大変済まないことをした」
ジオンが謝罪した。
「何を言ってるんですか、交渉ごとはこうやってマウントを取ってから始める物です」
チムナターが平然と答えた。
「お前らは野蛮で、向こうの方が文明的だぞ。攻撃してこない」
ジオンはヨハンに文句を言った。
「左手で棍棒を持って背中に隠して、右手で握手するのが外交の基本なのでは?」
「なら隠せよ」
ジオンはこれ以上、議論しても不毛と思い。
「今、魔法を解かせるから、どうか短気を起こさないでくれ」
文明度の高い方にお願いした。
「おい、魔法の維持を解け、お前が強いのは充分にわかったから」
チムナターに命令した。
しぶしぶ魔法を解いた。
「君たち人間の初対面に対する物の礼儀作法はこうなのかね?」
土に変わった泥から這い出しながら聞いてきた。
「すみません。ちょっと過激で頭のおかしい連中が多くて、さっき幻獣に攻撃されたから気もたっていて」
「我らとて、長い時を生きている。
戦えば勝つか負けるかの計算ぐらいできる。
特にお前は強い。
我ら全員でかかっても勝てぬだろう」
彼らは身体についた泥をはらった。
「お前たちは何者だ。
自らの来歴が分かるのか」
「我らのことを問う前に自分達こそ名乗るべきだ。
ここは我々の領地ぞ、
来訪者はお前達の方だ、
だからその目的も語るがいい。
単に魔性石を掘りにきたなら、上の層にいっぱいあるからな、それとも地図でも作りにきたか?」
ジオンかメリルの背中をポンと叩いた。
「リーダーはメリルだ。
みんな、メリルに導かれてきた。
メリルが交渉しろ」
「なんだリーダーはお前ではないのか?
1番威張っているぞ」
「俺は戦闘指揮官なんだ。
傭兵のようなもんだ。
彼女が雇い主だ」
「ジオン。
私。
交渉なんて」
「自分がここまで来た想いを、
誠実に語ったらいい」
メリルは覚悟を決めた。
「あの幻獣さん。
私は大陸のはるか西側から来ました」
「ここは多くの人種が魔石を求めてやってくる。
珍しい事ではない」
「私の父は考古学者で世界神話を研究してました。
ある日黄金のプレート。
多分この
胸の中からマスターカードを取り出して幻獣に見せた。
「お嬢さん。それをどこで?」
「私の父が入手した物です。
経緯は私には良く分かりません。
旅立つ時、父は死に私はその事業を引き継ぎました」
「それは宝石人の王家が代々受け継がれた権威の象徴。
彼等が難民として宇宙船に乗り、この船が提供するダークマターから作られた食糧で餓えをしのいでいた時、宇宙船はこの惑星に到着した。
600年前に古代神々と旧支配者との戦いはソフィアの勝利で終わった。
外銀河を回っていた、この宇宙船は戦いに間に合わずに、月で監視するソフィアに単独でいどむことはせずに、同じく外銀河を巡っている、調整者マスターグインの帰還を待つ事にした。
アナスタシア大陸中央に不時着し、
宝石人を大地に下ろした。
降りて直ぐの彼等は貧しかった。
代々の王家が宇宙船に食糧をもらいに行く。
その時、使用されたのがマスターカードだった。
宝石人はこの惑星で豊かになった。
マスターカードが使用される事も無くなった。
我ら幻獣はマスターカードを持つ団体を襲わないことが解放の条件だった」
「解放?」
「我ら幻獣を産む魔性石は単に魔力の貯蔵できる石コロではない。
金属生命なんだ」
「金属生命?」
「宇宙の95%を形成するダークマターを吸収して、巨大化し、株分もする。
タンパク質で包まれたものだけが生命ではない。
死ねば魔石にしかならない、我らとて生命なのだ」
うなだれた。
額の宝石が光る。
「お嬢さんがマスターカードを託されたかは知らない。
なぜ王家からお嬢さんに移ったのかも、我々には分からない。
なぜ宇宙船に行こうなど望む?
優れた技術はあるかもしれんが、我々の側に解読する能力がないだろう」
「人類が追放された。楽園をみたい。
私は知りたいの。
どのような物なのか」
「お嬢さん。
あれは楽園などではない。
人の豊かさと究極の個人主義が産んだ、優しさの平等という名のヒイロイカネを使った、魂の牢獄ぞ
その中で魂は見たい物だけを見て、感じたい感じ、欲しい物を欲しいだけ与えられ、対立も葛藤もない世界。
そしてソフィアは魂の堕落と呼んだ。
人の生きる意味は短くても魂を輝かせる事。
女神ソフィアは魂の開放し、輪廻転生をこの人工惑星で再開させるため、旧支配者に勝負を挑んだ。
人間観の違い。
魂の幸福感の違いが、お互いに滅ぼし会うまで続く、神々の戦いとよばれる戦争へと発展した。
天使側も考え方の違いから、ルシフェルがルシファーと名を変え、
戦いは混沌としたが、唯一女神ソフィア側の勝利に終わり全ての魂は解放されて、輪廻転生が始まり、七つの大罪の中で「魂の怠惰」が最大最上の罪とされた。
それが我らが宇宙船から聞いた真相だ。
お嬢さん、あなたは何を求める。
楽園から追放されたのではなく、人工惑星に銀河系から集められた、人工子宮で造られた生物種がばらまかれ、品種改良された植物が環境に合わせて繁栄した。風土に合わせて各地で独自の魔法や文化は継承された。
これ以上の答えを求めるか」
「人々は神々の子宮から生まれたのかも知れない。
世界を知る義務も権利もある。
何より私は会って、話がしたい。
母なる宇宙船と…
このマスターカードにきっと意味があるから、宇宙船まで案内して欲しい」
「そうだな、お前らはただすがるだけの宝石人と違って賢そうだ。
案内してやる代わりに我ら幻獣の頼みを聞いてもらいたい」
「頼み?」
「我がいう、魂の牢獄。
ヒイロイカネの中で夢を見ているのは、我ら金属生命の魂なのだ、彼等を解放してくれるように、あなた方から頼んではもらえないだろうか
あなた方生命の魂は全て解き放たれ、魂の環流の中にある。我ら幻獣の魂は素粒子となって魔性石の中で大きくもなれば、増える事もする。
君たちの輪廻転生と違う別の環流なんだ。魔性石のために防御用に造られた幻獣にも魂が宿り、素粒子を吸収して大きく強くなる。
ただ獣として魔石欲しさに狩られ、家畜のように宝石人に使役される日々から解放され、魂を放ち理性を獲得して人間や宝石人に戦いを挑む。
その為に我らの数が圧倒的に足りない」
「理性は万能ではないわ」
人は賢く神のような理性をもち、その集合体が精神体国家であり、人は国家の細胞にしかすぎず、国家は永遠に生き残る為国民は犠牲になる。
生存権が採用されて帝国主義が採用される中、メリルは『純粋理性批判』を上梓した。
敵への共感を失い。国民をギロチンにかけまくる理性を信じなかった。
彼女は特に代案は出さなかった。
批判本が売れるのは面白い物語が無くなった時代で、同じ大学教授からも相手にされなかった。
大量殺戮兵器、毒ガスの開発に反対して、ジオンの歴史上初めて使用した時、王政復古をとげたサルディーラ朝に3人の子供を預けて抗議の自殺をとげた。
『純粋理性批判』は人権活動家の間で読まれて「巨人戦争」時代は「細菌・毒ガス兵器」は禁止兵器として条約が結ばれた。
「お嬢さん、権利とは違う与えられる物じゃない。
戦って勝ち取る物だ。
その為には我らも増えたい。
いまは異空間を造る為に使われている、魂の入った魔性石を別の場所に、幻獣の手によって移動してあらたなる
意思をもつ幻獣が新しく産まれ、そして仲間を増やしたい」
「そんな事をすれば世界中に
「君たちにそれになれ、とは言わん。
言ったところで不可能だ。
だが、それがそれである事は罪では無かろう。
それとも幻獣は害虫のように、侵略をする恐れがある。犯罪を犯す恐れがあると予防的に殺されねばならない。
のだろうか?
今のように一方的にマジックアイテムの材料にされる関係は正しいのだろうか?
我らが良き隣人になれるかそれとも家畜のように扱われるか、それとも他に選択肢があるのか?
どうなるかは誰にも分からない、未来の子供達に託すことであって、我々が現在進行形で進める事は、ただひたすらに魂の解放だけでは?
淘汰のみが歴史的宿命では余りにも悲しい
啓賢であれば回避できると信じている。
我らにもこの惑星で繁栄するチャンスをくれないか」
「環境にまかせた自然淘汰のみでは、あまりにも知恵がない、獣どころか昆虫の所業。
分かったわ、マスターカードにどれだけのことができるか分からないけど、やれるとこまでやってみるわ」
「ならばお嬢さん、ついてきたまえ。案内する」
幻獣は身体をひるがえす。
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