第429話 予定は狂う

寝覚めは最悪…頭は働かないけど心と身体が疲れているのはわかる。

…なにより望の怒り顔と悲しい目…。


日曜日だけど…俺には予定がある。

ゆっくりなんてしてられない。

俺カレのバイトとそれ終わったら松ちゃんとこ行かなきゃ…。

ここんとこ日課のランニングする暇も無い…。


朝食を食べて…シャワー浴びてすぐ俺カレ行かなきゃだな。

今7:20バイトは8:30からだからまじ時間ない。

…望におめでとうとか頑張れって言いたかったな。

ロインする?電話する?

あー頭が回らない…。


ひーちゃ『…にいちゃん…。』


俺の弟すっごい可愛い。

去年祖母ちゃんの旅行のお土産の派手なハイビスカス模様のアロハシャツに短パン履いた幼児はもう麦わら帽子かぶってお気に入りのリュックを背負い今日も姉の試合観戦に行くのだろう。

ひーちゃんは悲しい顔で、


ひー『…ねえちゃんね?きのうにいちゃんかえってくるのまってたんだよ?

にいちゃんはあたしのテニスおうえんしてくれてるもんね?

きっといそがしくってタイミングわるくてけんかなっちゃったって。』


…。


『ね?にいちゃん?ねえちゃんうそついたんだよ!

きっとエイプリルフールじゃない?

だからにいちゃんのことだいきらいなんてうそ…うそ…。』

閑話 うそはいけない 参照↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330656200078233/episodes/16818093074755109727


ひーちゃんのくりくりおめめダムが見る見るうちに水位があがり決壊していく…。

ポロポロって涙をこぼしながらひーちゃんはなんで仲良くしないの?いつも兄妹仲良く!って言ってるのに!って泣きながら怒る弟を抱きしめる。


…ごめんひーちゃん。


…これで時間は更に無くなる。

時計を見たらもう7:45。

俺カレまで30分はかかる事考えたら…朝飯食べてる時間が無い。


『…ひー。兄ちゃんバイト行かにゃ。』


ひー『にゃーじゃないでしょ!』


『約束は守らなきゃいけない。兄ちゃんはバイト行く約束してるから。』


ひー『…でも。』


ひーちゃんにはいつも約束を守れる男になるんだよ!って躾けているから分かってはいる。でもまだ言いたい事があるんだろう。

俺はひーちゃんの目を見ながら、


『ごめんな、兄ちゃんちょっと忙しくって…今度またひーと望と3人でお出かけしてクレープ食べて本屋さん行こうな?』


ぷくぷくほっぺにちゅってして俺は急いでシャワーを浴びて自転車に跨る。

…俺だって望の試合見たい…!

でも最近シフト無理言ってるしバイトはずらせない、香椎さんの為にも松ちゃんの為にも舎弟生活も止める選択肢は無い…!

今は仕方ない…!俺はランニング出来て無いんだから少し負荷をかけるように自転車を飛ばす!

自転車のカゴに先日買ったは良いけど結局家で見つかって使って無い100均のドライバーが入っていることに今更気付いた。



☆ ☆ ☆

ひーはわからない。 side立花光


にいちゃんはやくそくはまもらなきゃいけないよ!っていうよ。

ねえちゃんはしあいをみにきてほしいっていうよ。

ぼくはふたりがだいしゅきだからにいちゃんとねえちゃんがけんかするととってもかなしい…。

いつもなかよしなきょうだいなのにさいきんおかしいよ!


…ぼくがもっとおにいさんだったら…

ぼくがなかなおりさせてあげるのに…

ぼくはちいさくておじゃまむし…。


にいちゃんがねえちゃんのしあいみにいければなかなおりできるんじゃないかな?

アルバイトってやすめないのかな?

…やくそくまもらなきゃ…。


『…にいちゃんがねえちゃんとこいければいいのにね?

アルバイトがなければいいのに…。』


はー『…ひー。あるばいとがなければいいんか?』


『そうだね…』


ぼくはすいとうのみずをひとくちのんでからでかけるしたくをするんだよ…。




☆ ☆ ☆

いつものコンビニを抜けて、大河に差し掛かる。

川幅約1kmの歩行者、自転車共用の長い歩行者用の橋はロングストレート。今日はレコード更新しちゃうぞ!

直線で歩行者も見えないから飛ばす!

どんなテンション低くても晴れると空の青を映し出して川は真っ青に輝く。

逆に雪降れば地獄だし向かい風吹いても地獄。

俺の1番身近な自然の脅威がこの大河。


8時を回ってここならまあまあ良い時間!

ってとこでスマホがブルった?!


景虎『俺俺!ばあちゃんわかる?』


『ばあちゃんじゃ無いっす(笑)』


景虎『承もう近くまで来てるよな?』


もちろん。


景虎『今さっきさ?でっかい工事車両が電線引っ掛けて絶賛停電中なんよ。

しかも店の裏を夜間工事してたらしいんだけど水道管とガス管まとめて引っ掛けたらしくてさ。

…今日営業出来ねえんだわ。休業補償は出るらしいから臨時休業になると思う。』


『…まじっすか。』


景虎『今日中に復旧するらしいんだけど…まあそこまで来てるならちょっと寄れよ?』


『うっす。』


まじか…大変だな。

景虎さんの口ぶりだとバイト無しの可能性が…。

…望の試合見に行けるか?


俺俺カレに着くと…電気水道ガスが使用不可のどうしようも無い状態!

午後〜夕方には復旧予定らしいけど…。


保利『こんなことあるんだね?』


『ねえ?』


景虎『妖怪の仕業じゃね?』

※◎


景虎さんは知り合いの業者の冷凍庫に冷凍してあるモノを運ぶし、そこから氷の塊分けてもらって冷蔵庫に突っ込んで凌ぐって言ってた。


景虎『だっけ1時間だけその手伝いして?

バイト代は2時間分だすからさ。』


全然構わない。

この機会に冷凍庫の霜取りと清掃をしつつ、景虎さんの指示でアルバイト達は冷凍肉を運んだり、冷蔵庫を整理しつつあっという間に30分で予定の作業が終わる。


景虎『あちゃ?ドライバー無い?その辺に?』


『あ、俺持ってるっす。』


景虎『助かったー!このパーツ外さないと掃除出来ない場所なんだよ。』


100均で買った使う予定の無いドライバーだもん、俺は気持ちよく俺カレに寄贈した。

仕事も終わり、


景虎『移せないモノとか炊いた米、仕込んだカレーの残り食べてって?』


停電中で薄暗い店内でわいわいカセットコンロで明日に持ち越せないハンバーグを焼いてもう炊いてあった白米に乗せてカレーをかける…

朝飯食いそびれた俺にとって最高の朝食!


景虎『残しても明日に持ち越せないから!ほらもっと食えって!』


保利『美味い!』

『本当!久しぶりにハンバーグカレー食べた!』


これこれ!この味!

たまらずおかわりして2杯目も平らげる!

実質30分作業で2時間分給料出てしかも賄い付き!最高!


景虎『じゃ、もうちょっと確認して俺閉めて帰るから?

なんなら持ち帰ってもいいぞ?』


…どうしよう…お土産に頂いて行こうかな?


躊躇うと景虎さんがニヤニヤしながら、


景虎『妹ちゃんや弟くんの分とか持ってけよ。

どうせ置いて置いても処分しなきゃならん。

美味しい!って食べて貰った方が俺は嬉しい。

ドライバーのお返しだよ。』


そう言って残りのカレーとライスとハンバーグをめっちゃ大きいタッパーに移してくれて…何食分?すっごい量。

…うち7人家族だから余裕で食べちゃいそうではある。


俺はお礼を言ってズシって重いそれを受け取る。

…これお金かかってるんだよな…また家族で食事に来たりなんかで返さなきゃ…。ドライバーが大量の俺カレのハンバーグカレーセットに化けた…!


景虎さんは小躍りしながら、


景虎『これで信くんとラブラブな1日♪』


降って湧いた休日にニコニコしながら帰って行った。

俺たちバイトも解散。

保利くんはまっすぐ帰るらしい。

保利くんと別れた俺はどうしようか迷っていた。

望の試合…見に行くか?


そした再びスマホがブルった!


新二『承?今どこ?家?』


『それがバイトがアクシデントで…東光に居ます。』


新二『俺今起きたんだけどさ?

俺のマンション停電で断水でガスが止まって大変なんだぜ?

めっちゃ大人があわあわしてんの(笑)まあ非常電源あるから俺高みの見物w』


松ちゃんも大人じゃん。

そう思いつつも、なんかアクシデントにワクワクしつつ心細いのが分かったので顔出すって伝える。



20分はかからずにマンションの401へ到着。

あ!まっちゃん腹減ってるんじゃ?


俺は大きいタッパー以外に持ち帰り容器にハンバーグカレーを2個持ってる。

それを差し入れる。


新二『こんな事あんだな?妖怪の仕業かな?』

※◎


それさっき聞いた!


松ちゃんは気が利くな!ってハンバーグカレーをチンして食べ始める。

大して期待して無かったけどタイミング良いぜって顔が一口食べて二口食べて。


新二『これ承のバイト先なん?美味くね?』


俺は嬉しくなっちゃう!


『いや、美味いっすよ?俺バイトしてるけどいまだにめっちゃ好きですもん。出来立てもっと美味いんす。』


松ちゃんはガツガツ2人分食べた、やっぱりね。

俺カレ美味いっしょ!!


『停電中って聞いたけどチンできるんすね?』


松ちゃんはにやってしながら、


新二『高いマンションは非常電源とか付いてんのよ。』


ドヤ顔してたもに松ちゃんは思い出したように照れて、


新二『…急に呼び立ててすまなかったな…夜また来て?

これからどうすんの?』


『妹のテニスの試合見に行こうかと。』


新二『おう。これカレー代な。』


ただで貰ったハンバーグカレー代にしては大袈裟な万札を手渡されて慌てて固辞する俺!

今持ち合わせがコレしか無いって新二くんに手渡されて、今度なんかお土産持ってくるって事で俺は受け取った…。


100均ドライバーが…万札にとまだまだ有り余る大量のハンバーグカレーに…わらしべ長者みてぇ。


俺が松ちゃんの部屋を出ると後ろから…。


新二『ぎゃー!なぜだぁ?!

非常電源落ちるなんてあるのかー?!』




…どうしたの?

自転車に乗ってスマホをチェックすると松ちゃんがマンションのライフラインが完全に切れてここに居れないから今日は実家帰るって…。

だから今日は夜来なくていいって…。


こんなことあるんだなぁ…急に予定が全部無くなった。

望怒ってるんだろうなぁ…なんて言えば良いんだろ?

顔合わせにくいなって思いながらも俺は軽快に自転車を飛ばして望の全中の県予選会場へ向かう。

…選択肢なんか無かった。俺は望の試合見たいし応援したい!


本当にこんな事あるんだね?信号に全く引っかからずに俺は驚くほどの短時間で会場に到着した…。


とは言え結構会場は広く、日曜日ってのもあって人も多くどうしようってフリーズしてた…。

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