第428話 日付の変わった頃。
宏介の4回戦は激しいものだった。
主将の三年生の勝負強さもあり辛くも勝利した北翔。
明日、決勝リーグを賭けた5回戦。
…冬に惨敗した相手との再戦になると言う。
試合後、宏介たちと合流した。
宏介も天堂さんも疲れてる感じ、無理も無い。
宏介『…承…明日は?』
申し訳ない…明日は…バイトがあって…。
宏介も天堂さんも全然!今日応援してくれてありがとう!
って笑ってくれて。
…明日もメッチャ気になる…。
そうしたら、
紅緒『私明日も応援しに来たい!良いですか?』
天堂『もちろん!』
紅緒さんは今日の観戦が楽しかったらしく、明日も来たい!と言った。
ふたりは明日の試合もあって試合動画の分析と休養取らなきゃ!ってここで解散することになった。
俺は東光駅のお宅まで紅緒さんを送って帰る。
紅緒『宏介くんすごかったねー!愛莉さんすっごいチームの為の奔走していたね?』
『あぁ。本当にそうだね。』
紅緒さんは嬉しそうに微笑んで、
紅緒『どっちも素敵だった!青春!
良いなあ…ああいうの憧れる…。』
『紅緒さんも部活やる?』
紅緒さんは困った顔で、
紅緒『うーん。自分でってなるとなんか興味持てないんだよね。
今の承くんやなるみん、皆んなと放課後過ごすだけで胸いっぱいだもん。
…無理して手を広げて今の『最高!』を薄めたくない。』
そっかあ。そうなの。
駅で買ったアイス食べながら電車を待ちながらそんなことを話していた。
紅緒『あの暗黒時代から考えれば…今は怖いくらい幸せ。
…時々夢を見るの。
…全部ここまでの東光高校の日々は夢で…私は…目が覚めるともっと大人にななってて…病院に居て…身体は痩せ衰え、腕も顔もしわしわで…。』
『…紅緒さん?』
紅緒『…はは悲劇のヒロインぶっちゃってイヤね?
あー!承くんとこのまま何処か遠くへ行きたいな。
この先の行ったことない見た事ない景色が見えるとこまで…。』
…俺、こうゆう透明感のある紅緒永遠がすっごい苦手。
儚い雰囲気と悲壮感が漂う悲劇の少女ってタイトルが付きそうな美しい少女。
紅緒さんだぞ?また恥辱の〜とか言いなよ…!
『隣の県まで行っちゃうよ?』
はぐらかす俺に紅緒さんは悲しそうに微笑みながら、
紅緒『ふふ♪もうすぐ歩き遠足に期末テスト…その前に三者面談あったね?
承くんは進路どうするの?』
『…俺は…四年制の大学…へ行きたいと思ってるんだけどね。』
進学文系のクラスにいるわけだしね。
仙道以外みんなそうなんだけど。
紅緒『高校楽しいな。大学どんなかな?
でも私は今が1番幸せ…。』
俺は何も言えない。
ひとつ言えるのはこうゆう雰囲気の紅緒永遠はすんごい美人に見えるってこと。
☆ ☆ ☆
紅緒邸で麦茶一杯頂いて俺は東光駅へ向かう。
いつも自転車で通う東光高校の横を歩きながら駅へ。
そこで松ちゃんからの呼び出し!
来れる?行くよ!
俺は一個前の駅に逆戻り。
駅前だから自転車無くてもすぐに着くしね。
新二くんは色々俺に買って来てってロインを寄越す。
それを購入してまっちゃんの401室へ向かう。
だいぶ慣れたよね。
基本パシって、雑事や掃除しながら松ちゃんと話すだけのお仕事。
松ちゃんの趣味の話、好きなモノの話し、食べ物の話し。大体これで8割。
…最近俺の話しをするよう言われる事がある。
俺は中学校の事、高校の事を話すけど松ちゃんはそれをなんとも言えない表情で聞く。
俺の話なんて面白くないんだろうけどなんか香椎さんから色々聞いてるらしくて『ふーん。』『玲奈さんの話しと違うな。』『勿体ない。』なんてコメントをボソボソする。
松ちゃんの見てるアニメなりバラエティなりを一緒に見ながら何か食べたり飲んだりしてる松ちゃんの話し相手?そんな感じ。
この日も少し楽しくなった松ちゃんが、
新二『承さ?来週は月、水、土曜日だけどもさ。
土曜日スーツで来い。』
『スーツ?制服じゃダメ?』
新二『ドレスコートある店行きたい。
イヤか?』
…機嫌損ねたくない。
俺は用意しておくって答えた。
新二『…高校生ってスーツ持って無いの?』
『わかんない。周りは持ってないかも。
…でもいずれ必要になるよね?』
だな。松ちゃんはその日珍しくビールを飲み始めて23:00にはすっかり寝ちゃった。
俺は気持ち良さそうに眠る松ちゃんを横にして枕を頭の下に差し込み、タオルケットをかけて松ちゃん家を出るともう23:30。
あー遅くなっちゃった。
やれやれ。
俺は自転車置き場で…無い?
…。
…!
あ!俺今日電車で来たんだ!
俺は慌てて駅へ走り出す!
これが終電ってヤツか…。
今日最後の電車に飛び乗った俺は酔ったおじさんや疲れたおじさんに囲まれ隣の東光を過ぎ、いつもの新川駅で下車する。
自分の自転車見るとホッとする。
いつもの癖で、いつものコンビニの前を通り家に着くと日付は変わってもう日曜日になっていた。時刻はほぼ1時疲れた…。
俺カレのバイト後バスケするとこの時間になる。
こんな時間に外へ出るなんて前ならドキドキしたなぁなんて思いながら寝静まる我が家へそっと入る。
母さんは起きてて、俺の顔を見るとホッとした顔で、
母『早く寝なさいね?』
色々言いたい事あるだろうに放っておいてくれた。
でも最後に、
母『望勝ったよ。明日も試合だって。褒めてあげて?』
俺は頷く。
脱衣所で服脱いで、絞ったタオルで身体拭いて半袖短パンの夏部屋着に着替えてそっと自室へ入る。
常夜灯で薄いオレンジに染まる室内。
望を起こさないように…そーっと。
望スペースには明日の道具がもう準備されてて母さんの言葉を疑うわけじゃ無いけど勝ち残って明日…いやもう今日か。
今日も試合なんだって安心する。
望『…しゅぴぃー。すぴぃー。』
立ち止まって望の顔を覗き込む。
…なんかしっかり顔見るの久しぶりかもしれない…。
ベッドに腰掛けて久しぶりに妹の顔を眺める。
…中学生になって髪伸ばし始めたけどだいぶ長くなったな…。
胸はまったく無いけど大人っぽくなってきて。
綺麗になったし可愛くなった。
そんなん知ってる、俺の妹は世界一可愛い。
なんか無性に撫でてあげたくなってしまう。
兄心に逆らえず俺は望のおでこを撫で撫で。
望はコレが好きだった。
望『…にいちゃん…。』
ドキ!っとする!
流石に深夜に妹を愛でてる現場目撃されたら俺生きていけない!
望『…にいちゃん…。』
もう一言寝言を言うと目尻から一筋涙が落ちた…。
俺は撫でながら心の中で、
『(頑張ったね、見に行けなくてごめんな。)』
俺は心の中で侘びながら飽きずに妹の顔を眺めていたんだ…。
…いたんだけど…。
ぎり!ぎり!
望の寝顔が眉を顰めて歯軋りしだす…!
望『…にいちゃん…めぇ…。
ぜったぃ…ゆるしゃにゃぃ…!…ぶっころ…!』
ひっ!!
寝てるとこいじられたのイヤだった?俺は慌てて自分のベッドへ潜り込む!
…疲れてんのかな…速攻で…眠く…なって…。
…明日は朝、声かけよう。
見に行けない事謝って応援してる、頑張れって伝えよう…。
☆ ☆ ☆
ぐ!!!
何かをお腹に感じて俺は強制的に起こされる!
バスケットボール?お腹に落とされた?!
痛いよりびっくり!
目をうっすら開けると…望の顔がドアップ!!近い!!
望は涙目で、
望『にいちゃんなんて大嫌い!!!!』
もう出かけるところだったんだろう、学校指定ジャージでどすどす足音立てて望は出て行った…。
部屋の入り口でひーちゃんが家政婦は見た!みたいなポーズでやっぱり涙目で俺たちを見つめていた。
7:15…そっか、試合があるから早いんだ…。
回らない頭で俺は謝るタイミングをまた失った事と、
思ったより効いてる、
望『にいちゃんなんか大嫌い!』
って言葉に動揺している自分に驚いていた…!
…望…。
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