豆腐の角に頭をぶつけて○んだ男が豆腐で異世界無双した件について
ジョン・ヤマト
豆腐の角に頭をぶつけて○んだ男が豆腐で異世界無双した件について
*
ピピピピピピ!
「…………やべぇ! 遅刻だぁ!!」
男が慌てたようにベッドから飛び起きた。
彼の名前は
「このポンコツ! なんで起こしてくれなかったんだよ!」
『すみません。よくわかりません』
一人でスマホに向かって声荒げている彼は急いで朝ごはんの準備をした。
レンチンの白米、レトルトの味噌汁を小さな机に置き最後の一品、豆腐を冷蔵庫から取り出した。
「早く食べねぇと!」
絹ごし豆腐を片手に走りながら机に向かおうとした時だ。
「あっ…………」
哀れなり、机の目前で幸輝は足を滑らせ転んでしまったのだ。
先に地面に落ちた豆腐は綺麗に彼の頭が落ちる位置に着地すると。
「あ…………俺死んだ」
幸輝は豆腐の角に頭を思いっきりぶつけてしまい彼の命はそこで燃え尽きたのだった。
おお
*
「…………ハッ!」
目覚めると目の前に白い景色が広がっていた。
寝起きの頭を捻り先程の出来事を思い出す。
「そうか……俺、豆腐の角に頭をぶつけたんだよな」
そうして気づく、自分が死んでしまったことに。
自身の無様な死に様に落胆していると頭から声が聞こえて来た。
『フォッフォッフォッ まさかここに来る者がいるとはな』
「だ、誰だぁ!」
『わしは神様じゃよ』
「え、神様?」
彼の頭の中には『異世界転生』という言葉が思い浮かんだ。
『この神様は俺を異世界に転生させてくれる』。そんな都合のいい考えが脳裏によぎった。
『いやはや まさか豆腐の角に頭をぶつけるとは。哀れな死に様じゃのう。可哀想だから、お主の生きた世界とは違う世界に送ってやろう』
「マジっすか!」
まさかここまでトントン拍子で進むとは彼自身も思ってもいなかった。
そして彼にはもう一つの期待があった。『転生特典による最強能力』を。
『お主の考えはわかるぞ。よかろう、転生する際にお主には一つ能力を授けてやろう』
「やったぜ! ありがとうございます」
『それでは早速お主を別の世界へ送るとしようかの』
神様がそう言うと、彼の足元に魔法陣が展開され光を輝かせた。光は徐々に大きくなり彼は思わず手で顔を覆った。
『そうじゃ、能力を使う際には"トウフテンカイ"と言うのじゃよ』
「え?」
こうして
*
「う……うーん……」
光に包まれた後、広い草原の上で
キョロキョロと周りを見渡しても見えるのは青々とした広大な原っぱのみです。
しかし彼の表情に陰りはありません。
「マジか、本当に異世界転生したんだよな……」
そうして薄ら笑いを浮かべていると遠くから女性と思しき悲鳴が聞こえて来こえてきました。
「きゃーー!」
「むっ! 誰かの叫び声!」
声のした方向に走ってみると、なんと一つの馬車に大きなクマの魔物が襲っているではありませんか。
彼は急いで馬車に走って行きます。
「クマーー!」
「誰か助けてぇー!」
「待て待てぇい!」
そうして襲われている女性の前に立つと彼は右手を前に差し出し高らかに叫びます。
「"トウフテンカイ!!"」
そう叫ぶと彼の右手から白く四角い物体、豆腐が飛び出して来ました。
豆腐は熊の身体にべちゃりとぶつかりました。
「………………」
「………………」
「………………」
東からの風がピューと吹き沈黙がこの場を支配します。
「クマーー!」
「きゃーー!」
そうして熊は再び雄叫びを上げながら女性の方へ襲って来ます。
「くっ……一体どうすれば……」
そうして悩んだ彼は一つの妙案を思い浮かび上がり再び右手を熊の顔に向けて出しました。
「"トウフテンカイ!!"」
そうして豆腐が飛び出すとその豆腐は熊の口に目掛けてすっぽりと入っていきました。
「"トウフテンカイ トウフテンカイ トウフテンカイ!!"」
「クマ クマ クマーー!」
彼の出した豆腐を沢山食べた熊はお腹いっぱいになって、その場で横になって寝てしまいました。
そうです、
彼は尻餅をついた女性に手を差し出してこう言いました。
「大丈夫ですか? お嬢さん」
「ポッ…………はい。助けてくれてありがとうございました」
そうして彼の手を借りて立ち上がった彼女は頬を赤く染めながら彼に問いました。
「私はアカメ・ミッソ・スープと言います貴方の名前は?」
「俺は東風幸輝! よろしく!」
「トウフ・コウキ…………なんて素敵な名前でしょう」
そうしてアカメという女性は彼の手を握りしめこう言いました。
「コウキ様……私の城へお越しください」
「マジっすか! 行きたい!」
こうして
*
馬車に乗って向かった先はとても大きなお城の広い部屋の中でした。
そして目の前には王冠を被った煌びやかな衣装に身を包んだ王様と先程助けた女性がいました。
そうです彼女はこの国のお姫様だったのです。
「襲われた娘を助けたこと。誠に感謝する」
「ははー」
「それでは娘を助けた褒美だが……」
「お父様! 私はトウフ様と結婚します!」
「「ブーー!」」
なんということでしょう。お姫様のいきなりの告白に王様はもちろん、東風幸輝も思わず吹き出してしまいました。
「アカメよ、いきなりそんなことを言っては彼も困ってしまうだろう」
「そんなことありません! 私はトウフ様と一緒に……」
「国王陛下!」
お姫様の言葉を遮り鎧に身を包んだ兵隊さんが慌てたように部屋に入ってきました。
「緊急の報告です! 東のライス帝国が大量の軍を率いてミッソ・スープ王国に向かって進軍を始めました!」
「なんだとぉ!」
兵隊さんの報告に王様は飛び上がるように玉座から立ち上がります。
「すぐに迎撃の用意をしろ!」
「ですが我が軍の兵は数が少なく、敗北は必至です!」
「ぐぅ、どうすればいいのだぁ」
「あの!」
頭を抱える王様を見て
「俺が行きます!」
「本当に行ってくれるのか!」
「もちろんです!」
彼は立ち上がり急いで部屋から出ようとした時、お姫様の声が彼を呼び止めました。
「待ってください!」
「はい、どうしましたか?」
「…………無事でいてください」
「もちろんですよ! 貴女のためにもね!」
「ポッ………………」
そうして彼は部屋を出て、東の方に向けて駆けていきました。
*
東の平原では沢山の兵隊さんの列がゆっくりとミッソ・スープ王国に向かっていました。
その隊列の奥には鎧に身を包んだ女性が御輿に担がれています。
「ハハハ! 我がライス帝国の騎士は最強だぁ!」
彼女はこの兵隊さんを率いる隊長さん。
出撃する前にごはんを食べたので元気いっぱいです。
そうしていると一人の兵隊さんが彼女に耳打ちします。
「リノ隊長、前方に何かがおります」
「ミッソ・スープの軍隊だろ?」
「いえ…………一人の人間がおります」
どういうことだろう。そう思って前の方を眺めていると道の真ん中に一人の男性が立っています。
男性は歩いている兵隊さん達に向かってこう言いました。
「俺の名前は
そう言うと彼は大声を上げながら沢山の兵隊さん達に向かって突撃してくるではありませんか。
「ふっ、愚かなやつめ。者ども、蹴散らせしてやれ!」
隊長さんの声と共に兵隊さん達は大声を上げて武器を構えます。
突撃をした
「"
なんということでしょう。彼の声に呼応して右手に真っ白な剣が出現したではありませんか。
そして豆腐で作られた剣を握りしめて彼は軍団へ向かって行きました。
「見掛け倒しを……前衛!」
一番前にいる兵隊さんは槍を前に差し出しました。
そして迎撃しようと槍を突き出しますが、なんと豆腐の剣は槍を斬ってしまいました。
「そんな脆い武器が刀腐に敵うわけないだろ!」
さあ大変です。隊長さんは彼の強さに思わず息を呑んでしまいます。
「くぅ、これだけ使いたくなかったが……」
だけどごはんを食べて元気いっぱいの隊長さん。こんな変なやつには負けません。
両手を合わしてぶつぶつと何かを呟きます。
「"ゴーレムよ我らに岩の守護を!"」
そう呟き手を叩くと彼女を担いでいた御輿が変形して大きな巨人になってしまいました。
「ゴーレムだとぉ!」
「ハハハハハ!! 私のゴーレムは最強なんだ、小さいお前なんかペシャンコにしてやるぞ!」
ごはんを食べて元気いっぱいの隊長さんは笑ってゴーレムを動かします。
だけど
「"
するとどうしたことでしょう。彼の右手から大量の豆腐が出て来てが積まれていきます。
積まれて来た豆腐はゴーレムと同じぐらいの大きさになり、その姿は巨大なロボット。そう真っ白な初代ガン○ムの姿になりました。
「なっ! 私と同じ召喚魔法を使えるだとぉ!」
これにはごはんを食べて元気いっぱいの隊長さんも驚きました。
「行くぞ! 僕の
そこから先は激しい戦闘の連続でした。
ゴーレムが闘腐にパンチし、闘腐は巨大な右手から豆腐ビーム出して応戦したりと、その戦闘は16分にも及びました。
そして決着の時は迎えます。
「くぅ! 私の負けだ!」
「ハハハ! 僕の
崩れたゴーレムを見て、お腹が空いてきた隊長さんは潔く負けを認めました。
「こうなっては仕方ない! 全軍撤退!」
兵隊さんやとっておきのゴーレムを倒されてしまったライス帝国は帰ってしまいました。
こうして沢山の犠牲が出るはずだった戦争は終わりましたとさ。
*
「おお、トウフ・コウキよ! よくぞ戻って来てくれた!」
「トウフ様……無事で良かったです」
「はい!」
ミッソ・スープ王国に戻って来た
王様やお姫様の表情はとても嬉しそうです。
「さて、トウフ・コウキよ。娘を助けてもらったのみならず、我が国を救ってもらったこと、感謝の極みである」
「ははー!」
「お主はこの国の救世主だ。ぜひとも我が国で過ごして欲しい」
「トウフ様……私とのご結婚を受けていただきますか?」
「はい、もちろ…………」
お姫様の返事をしようとした時、晴れていたいきなり空が暗くなってしまいました。
そして空から大きな声が聞こえて来ました。
「フハハハハ!! 我は魔王パン・コムーギ!! この世界を支配する者なり! 手始めにこのミッソ・スープ王国を支配してやるなり!」
なんということでしょう。悪い魔王がこの国を支配すると言っているではありませんか。
悪い魔王の言葉に王国の人達は困ってしまいました。
ですが東風幸輝は違います。
「王様、魔王を倒して来ます!」
「本当に行ってくれるのか!」
「もちろんです!」
そう言って彼は立ち上がって魔王の元に走っていきました。
これは豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまった男の物語。
頑張れ
おわり
豆腐の角に頭をぶつけて○んだ男が豆腐で異世界無双した件について ジョン・ヤマト @faru-ku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
鈍痛/ジョン・ヤマト
★5 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます