決して割れないガラスのハート
言の葉綾
決して割れないガラスのハート
人は誰しも、ハートを抱いている。
そのハートの厚さは人それぞれで、分厚くて頑丈なハートの人もいれば、薄くて繊細なガラスのようなハートの人もいる。
私は、後者に値する。
私のガラスのハートは、途轍もない薄さ。生物の実験で使うカバーガラスよりも薄くて、微量の衝撃を加えたら、即座に壊れてしまうような。
だから私は、自分のハートが嫌いだ。
もっと強くて、誰にも負けない、そんな自信のあるハートが欲しい。
でもそれは、ただのないものねだりに過ぎなくて。自分のハートの弱さと脆さを恨んでも、何か、変わるわけでもない。
本当に、自分が変わらなければ、何も変わるわけがないんだ。
すぐに割れてしまうガラスのハートであったって、変われるのかは、わからないけれど。
学校は好きだ。小学校中学校の頃は、好きじゃなかったけれど、大好きな友達に会えるから。
授業は好きだ。確かにずっと座っているのは苦しいけれど、小説を書いたり、想像力に広げたりするのに、学びというものは、欠かせないから。
走ることは好きだ。息は切れるし、凄く遅い運動音痴だけれど、何だか走っていく時に見える景色が、とても眩しくて、いろいろな視点から世界を切り取ることができるから。
でも、いつからだろうか。私は毎日、しっかり学校へ行くことが難しくなった。
学校へ遅刻することが多くなり、推薦入試はもう絶対受けられないことになってしまったくらいの数だけ、遅刻してしまっている。
授業中欠席することが日常茶飯事になり、授業の内容に全然追いつけず、勉強にすら手につかない程になってしまった。
走ることに非常に体力が必要になり、もともと体力がなかったのに、ますますなくなっていって、本気で走らなくたって、息切れをして咳ばっかり出るようになってしまった。
なんでなのだろう。明確にいつからかは覚えていないけれど、2年生の中盤からであることは覚えている。
楽しいはずの修学旅行で班行動なんてできなかったし、過呼吸っぽくなってしまったりもして、友達に迷惑と心配ばかりかけてしまった。
たくさん学校で倒れた。泣いた。華の高校2年生は、精神不安定な状態で過ごし、正直あまり思い出したくないことが多い。
保健室にずっと籠っていた。授業に行きたいのに、あと一歩、足を踏み出すことができない。
大好きだったはずの委員会が、ダメになってしまった。同じ委員会の友達はみんな優しいのに、その場にいることが、できなくなってしまった。
わからない。わからないんだよ。何で、自分がそうなってしまったのか。朝、起きることもできず、遅刻ばかり、授業欠席ばかり、早退ばかり…自分が嫌になる!おかげで自律神経失調症という病気だとも診断され、大好きだった文化祭実行委員会を辞めることになってしまった。授業に全然追いつけなくなってしまった。模試を受けたいのに、途中から涙が出てきて、受けられなくなってしまった。体力がなくて、フルタイムで学校へ通うことが難しくなってしまった!みんなが普通にできていることが、私はできない。みんなだって、部活動とか、友達関係とか、家族関係とか、恋愛事情とか、進路のこととか、さまざまなことで悩んで、辛いはずなのに、どうして私は、こんな人間なのだろう!みんなができていることが、できないのだろう…
みんなと同じスピードで、私だって生きたいはずなのに。
もう、私の薄っぺらなガラスのハートは、粉砕し、粉々になっている。
だけど。
私は負けたくない。逃げたくない。学校を休む、そういうことは、したくない。
そんな意志を、私は抱いている。
それは、大好きな友達がいるから…
こんなダメな私に、声をかけてくれる友達がいるから。助けてくれる友達がいるから。授業のノートを送ってくれる友達がいるから。いるだけで私の心を助けてくれる友達がいるから。私のことを必要としてくれる友達がいるから。
そんな人たちを、私は心の中に抱いている。
だからだろうか。
少し、粉砕したガラスのハートが、原型に戻ってきているような気がする。
もしかしたら、私のハートは、まだ割れたことがないのかもしれない。
学校へ行かないで、家に籠ったことがあるか?
たとえ授業に参加できなくても、「もういいや」と諦めたことがあるか?
学校に行きたい、その想いが辛さに負けたことがあるか?
私の心は、薄っぺらで、弱くて、脆いけれど。
決して割れない、ガラスのハート。
決して割れないガラスのハート 言の葉綾 @Kotonoha_Aya
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