[7-1]作戦開始!
宝石を砕いてぶちまけたかのような銀砂の星が広がる深夜。物音ひとつしない時間、高くそびえ立つ城門の兵士がくずおれた。
目の前の闇を照らすのは精霊が灯した光。小さな下位精霊を伴い、スレイトが姿を現す。
「この人、大丈夫? 殺しちゃったの?」
「死んでねえよ。ただの峰打ちだ。戦だからって無闇に命を奪ってもいいことはねえからな」
心配そうに倒れた兵士たちを覗き込むスレイトに、俺はにぃっと笑ってみせた。それも束の間、慌ただしい足音が聞こえてくる。巡回の兵に見つかったらしい。
「おまえたち、何をしている!?」
「何をしてるって、そりゃあ奪われたもんを取り返しに決まってんだろ。俺は赤獅子だぜ?」
余裕の笑みをたっぷりに浮かべ、俺は鞘から剣を抜き、その切先を兵士へ向けた。ハル様御用達の魔法剣は、魔力をほんの少し込めただけで銀色の刀身から赤い炎が迸る。派手な演出にはうってつけだ。
すると兵士は狼狽した顔で、慌てて城内は走り出した。「敵襲だ————!」と力いっぱいに叫びながら。
すべて想定内だ。これだけ派手に正面から奇襲を仕掛ければ、城中の兵たちは俺たちに向かってくるだろう。
「さあ! みんな、さっさと行くぜ! 今日こそ改革を果たしてみせる。誰も搾取されない、平和で豊かな国に。ゼルス王国を闇の淵から引き上げてやろうぜ!!」
俺のお約束みたいな号令に、後ろに従っていた《宵闇》のやつらは元気よく応えてくれた。
今からが改革の始まりだ。
+ + +
進んでいくごとに城内の明かりがぽつぽつと灯っていく。敵襲の報せを受け、兵だけでなく住み込みの城仕えの者たちも起き始めたんだろう。
一歩進むと、兵たちがなだれ込んでくる。俺と《宵闇》のやつらが迎え撃っているとはいえ、これはきつい。狙いが俺たちに向くよう仕掛けただけに文句は言えない。せめて命を取らぬよう、なるべく峰打ちで倒していく。ツムギ相手ならともかく、一兵卒くらいなら手加減はしてやれる。
すでに中に踏み込むと乱戦状態だった。ハル様やタキの姿は見えねえけど、あの二人ならうまくやれるだろう。
俺の新しい剣——炎の魔法剣は魔力をちょっと込めただけで炎があがる。そのせいか少しずつ向かってくる兵士たちが少なくなっている気がする。
なんといっても本物の炎だもんな。そりゃ近づくだけでも怖いか。
スノウがいる医務室は一階の奥だ。ミラは無事に城内へ忍び込めただろうか。
「中に入ると明るいねー! もう明かりはいらないかな?」
後ろからひょっこりスレイトが顔を出した。ほんの少ししか俺と背丈が変わらないこの男は、片手を掲げてきょろきょろと見回している。
まるでピクニックに来たかのようなマイペースっぷりだが、こいつの魔法で灯した光に助けられたのは事実。おかげで松明が必要なかったのは助かった。
「そうだな、さっさと消しとけ」
「うん、わかったー! それにしてもお城って言うだけあって広いよねぇ」
それにしても観光客みてえなセリフだな。
「スレイト、作戦開始前にも言ったが、絶対に俺から離れるんじゃねえぞ。俺から離れねえことを条件について行くことを許したんだからな?」
「わかってるって、ちゃんと覚えてるよ。魔法の援護なら任せて。きっと役に立つから!」
「もちろん期待してるぜ」
魔法は苦手だから、スレイトの魔法にはもちろん期待している。なんたってスレイトの本職は魔法使いだもんな。
「ごめん、ちょっと止まってくれる?」
友人に話しかける軽い調子で、スレイトは声をかけた。なのに兵士の足はぴたりと止まり、動けなくなる。思い通りにならない身体に驚き、敵たちは混乱していく。
敵たちの動きが止まっているのをのんびり見ているわけにはいかない。その隙に俺は兵士を昏倒させる。
スレイトの魔法で相手の動きを制止させ、俺が敵を叩く。その連携でうまく敵の数を減らしていくことができている。もちろん全員峰打ちだ。
魔法のことに疎い俺にはどういうカラクリなのかわからねえが、スレイトは基本的に
長い詠唱をせず魔法を発動させられるのは、魔法使いにとってはかなりの強みだ。
しかもスレイトは光属性以外の属性魔法を使える精霊使いだ。頼もしいぜ。
「いい調子じゃねえか、スレイト」
「ふふん。おれ、役に立つでしょ?」
手を軽くあげると、スレイトは手を叩いてくれた。軽い音が俺のテンションを上げる。スレイトも得意げに笑っていた。
前から感じていたことではあったが、やはり魔法職のやつと連携すると動きやすい。援護系の魔法で敵を妨害するから戦いやすくなるんだよな。
周りを見渡せば、ハル様や《宵闇》のやつらが後方で闘ってくれているおかげで、少しずつ兵たちの数も減ってきているようだった。なにしろ、スレイトとこんな無駄口をたたく余裕があるくらいだ。
「あれ。エリアス、なにか光ってるよ」
「ん?」
スレイトに言われるままに確認すれば、黒のロングコート、その懐に仕舞い込んだ通信
「え? なになに、通信珠!?」
「もしかして、ミラのやつ……もうスノウに届けたのかよ!」
「わあ、すごーい! さっすがミラ! やっぱりおれが心配しすぎだったのかなあ」
スレイトは顎に手を添えて考え込んでしまった。
俺は通信珠を取り出して魔力を込める。そうすると、相手の呼びかけに応えたことになり、通信が始まる。
淡いブルーの玉に映し出されたのは。
「エリアス、やっと来てくれた。もう待ちくたびれたよ」
歯に衣着せない、ストレートな口調。淡々として抑揚のない声。にこりとも笑わず、小動物のようにジト目で見つめてくる、いつも通りのスノウだった。
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