49.メイクとすっぴん
よし!
夕暮れの秋空に指を冷やしながら、スマホの内カメに写る自分自身の顔に望愛はニッコリ微笑んだ。
うん、大丈夫!
前髪の最終確認を終えた望愛は、目の前の彩人くんの家のドアに手を伸ばし……。
いや、ちょっと待って!
……うん、これで本当によし!
前髪の最終確認その二を終えた望愛は、目の前の彩人くんの家のドアに手を伸ばした。
「おじゃましまーす!」
ドアを開けると玄関のすぐ近くで、スウェット姿の彩人くんが不機嫌そうに待ち構えていた。
「遅い」
「ごめんごめん! ちょっとメイクに時間かかっちゃって」
気合い入れすぎたかな……?
「ふーん……」
彩人くんは背中を丸めて首を前に伸ばし、まじまじと顔を見つめてくる。
「へ、変……?」
「まあ……いいんじゃない」
通った鼻筋を軽くかきながら、眠そうに答える。
「えっ本当に! どこが? どこがいいの!?」
「……いや気のせいだったわ、全然いつも通りだ」
「ねーえー!」
どうしてこう素直に褒められないかなー、もう本当にそういうところ……大好き!
「うるせえな、別にいつも通りも褒め言葉だろ、すっぴんと変わらないって意味なんだから」
すっ……ぴん……?
彩人くんにすっぴんなど一度たりとも見せたことはないのだが、もしかしたら学校でのナチュラルメイクをすっぴんだと勘違いしているのだろうか。
「な、なんだよその顔は……!」
ま、まあそのことはしばらく黙っておこう……。
「もー女心がわかってないなー、そういうのは比べちゃダメなの! できる男はどっちも褒めるの!」
「いや言ってることはわかるけどさ、そこまで頭が回る男の褒め言葉なんて信用に欠けるだろ」
でましたーお得意のやつ! えーっとこういう時の彩人くんの取り扱いはたしか……。
※彩人くんは変に理屈っぽいところがありますが、議論をめんどくさがって下手に肯定すると一気に心の扉を閉められるので注意しましょう。
そうそう、これこれ!
「信用なんて求めてないの! これはもはやマナーみたいな、形式的なものなんだよ!」
「あーもうわかったから……早く手洗ってこいよ」
勝機!
「ねーだからどうなのー? 今日の望愛可愛い?」
可愛いをおねだりするたびに、彩人くんの目はみるみる細くなっていく。
「お願いマナーだから! マナー!」
「最初で最後だからな……」
よしきたー! 望愛も彩人くんの扱いだいぶ上手くなってきたなー!
彩人くんは咳払いを二回してから、望愛の肩に右手を置いた。
「真に受けんなよ……」
キャー!
「メイクもすっぴんも、今夜の月も綺麗だよ」
……。
……?
「それはちょっとやりすぎかも……」
「お前もう帰れ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます