50.一汁三菜
望愛がリビングのソファーにもたれかかっていると、間接照明の柔らかい光が右半身を、アイランドキッチンから伸びる強い光が左半身を照らした。
正面の退屈な夕方のニュースを流すテレビは、テロップがなければ聞き取れないほど音量が小さく、その微かな音はこのリビングの静寂さを強調していた。
もう我慢できなーい!
「ねぇー! やっぱり望愛にも手伝わせてよー!」
抱きかかえていたクッションを横に放り、望愛のことなど一切気に留めずに、キッチンで淡々と夕食を作る彩人くんに話しかける。
「いやもうできるから、それよりそっちの電気つけて」
彩人くんはようやく顔を上げたと思ったら、照明のスイッチがあるであろう壁を視線と顎で指し示してきた。
「はーい……」
おかしいな……この時間にはもっと甘々な雰囲気になってる予定だったんだけど……。
ソファーから立ち上がり、指示通りにリビングの照明をつけに行く。
まあこれはこれで家族みたいでいっか!
すぐに明るさを取り戻し、笑顔でキッチン横のダイニングテーブルに座った。
「なんだよ、せかしてんのか?」
「もーひねくれてるなー! 近くで彩人くんを見たくなっただけー!」
「あっそ」
「うん!」
両の手で頬杖ついて、下から料理に集中する真剣な顔を眺める。
なんでこんなにかっこいいんだろ……。
幾度となく見たはずのこの外見に新鮮な感動を覚えるのは、最近彩人くんの中身を見つめる時間が増えたからだろうか。
最初はかっこいいから好きになった。かっこいいから全てを許せた。
でも今は好きだからかっこよくみえる。好きだから全てを愛せる。
ああもう好きすぎて怖いよ……好きの最高記録が毎日更新されてるよ……!
「おい何バカみてえな顔してんだ、もう飯できたぞ」
望愛が恋の底なし沼に頭まで浸かっている間に、湯気を立てた美味しそうな料理たちがお盆に乗ってテーブルに運ばれてきた。
献立はご飯と味噌汁。秋刀魚の塩焼き。野菜の煮物、漬物、炒め物。
さすがだよ彩人くん、とても十六歳の男の子が作った料理とは思えないよ。
「どう? すごい晩ご飯ぽくない?」
「うん! すごい豪華な晩ご飯だよ!」
「いやそうじゃなくてさ、家庭科の教科書とかに載るような普通の晩ご飯ぽいかってのを聞いてるんだよ」
え、普通……?
たしかに家庭科の教科書に載っていそうな一汁三菜の栄養バランスの考えられた食事だが、これを普通の晩ご飯と言っては世の主婦たちから多くの反感を買うだろう。
そっか……彩人くんなりに望愛に合わせた"普通の晩ご飯"を作ろうとしてくれたんだ……。
「彩人くんと一緒に食べるご飯は全部、望愛にとってはご馳走なんだよ!」
「なんだそれ……だったら好き嫌いしないでちゃんと食えよ……?」
彩人くんの口から出る言葉はいつもと同じものだったが、わずかに跳ね上がる語尾が満更でもないということを教えてくれた。
ああああかわいいいいいい!!
「好き嫌いなんてしないって〜! もー彩人くん望愛のパパと同じこと言ってる〜!」
彩人くんの眉間にしわが寄る。
「おい……お前今パパって……」
やば……もしかして『パパ』って禁句だった……?
「それはお父さんのほうか? それともデートしてお金を――」
「いやお父さん以外のパパいないよ!? 望愛のことなんだと思ってるの!?」
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