48.本当嫌い!
ああ……もうどうすればいいの……。
金曜日の体育館。バスケットボールの弾む低音と上履きの擦れる高音が、どん底に沈んだ心を余計にかき乱す。
「あれ、飯塚さんも今日の体育見学?」
体育館の隅っこで制服姿のまま小さく丸まる望愛の元へ、心を沈めた元凶ともいえる存在が何知らぬ顔でやってきた。
こんなつらい思いをしているのは全部菊永理瑛、この女のせいだ。
本当なら今日は彩人くんの家にお泊まりする約束だったのに、なのに彩人くんは今日も学校に来ないし連絡もつかない。
怒ってるんだ。昨日この女と勝手に家に押しかけたから。
あーもう、ムカつく!
「何? 望愛になんか用?」
「いやー先生が突き指したらいけないから見学してろってさ、私そんな鈍臭くないのに……」
近寄るなオーラを全開で放出しているのに、当たり前のように隣に座ってくる。
「突き指って、ピアノのコンクールはこの前終わったんでしょ……?」
「いや昨日のはただの予選だから、本番はむしろこれからって感じ」
何? 予選なんて所詮通過点とでも言いたいわけ?
この自信に満ち溢れた言動がいちいち鼻につく。
「そんな大事な時期なら、お見舞いになんて行かないほうが良かったんじゃない?」
「ああいいのいいの、クラスのみんなのことのほうが全然大事だし」
なーーーーにが『クラスのみんな』だよ! 大事なのは彩人くんだけでしょうが!
「ふーん、でもそれって余計なお世話じゃない? 彩人くん昨日嫌そうだったよ」
「え、そうだったのかな……昨日はありがとうってさっき連絡来たけど……」
ばーか、そんな社交辞令を間に受け……。
「はあ!? なにそれ本当に言ってんの!? 望愛昨日からずっと、彩人くんからメッセージ返ってこないんだけど!?」
「えっ嘘、最後いつ確認した? 私もついさっき来たし、内容見た感じ望愛ちゃんには絶対返信してると思うんだけど……」
「どういうこと!? なんて書いてあったのよ!」
本当になんなのこの女は!?
「そ、それは望愛ちゃんには言えないけど……とにかくもう一回確認してみたら?」
簡単に言いやがって! それを一回確認するのにどれだけ心がすり減ると思ってんのよ!
それでもし、望愛だけが無視されてたらどうすんのよ……。
想像しただけで動悸がして苦しくなる。
「たしかに高比良くんが気にかけるのも、なんかわかるなぁ……」
「は……? 何適当なこと言ってんの……?」
「もーほらほら、いいから早く確認してみなよ」
本当嫌い! 別にあんたに言われなくたって!
立てた両膝におでこを打ち付けるようにくっつけ、丸めた身体の影の中でスマホの電源をつけた。
時刻も確認できない薄目から、徐々にまぶたと画面の解像度を上げていく。
「………………あっ!」
「どうだった?」
「もー! 関係ないでしょ!」
眉間にしわを寄せて威嚇するが、どうしても口角が上がってしまう。
「わかりやす……」
「うるさい!」
三十分前のメッセージ。
『今日は友達連れてくんなよ』
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