16.岡野結奈

 今のは何……?


 結奈は頬をさすりながら虚空を見つめていた。


 きっと初めての彼氏で舞い上がってる私をバカにしてるんだ……写真まで撮って、ひどい……。


 あの写真は一体どうするつもりなのだろうか、もしかしたら今ごろクラスの男子たちの笑いのネタになっているかもしれない。


 結奈が悲しみに震えていると、彼氏の池田優太ゆうたがトイレから戻ってきた。


「ふぅー、あれ曲入れてないの?」


「あ、えっと今調べてたところ! 先歌っていいよ!」


 ここで本当のことを言っても、話が余計にややこしくなるだけだ。


「そういえば、さっき偶然高比良に会ったわ」


「高比良くん!? どこで!?」


「トイレに行く途中ドリンクバーで会ってさ、ちょっと話したらあとでこっち来るかもって」


「へぇ……そうなんだ……」


 トイレに行く途中で会ったってことは……優太くんと会ったあとに彼女の私にキスしたってこと……!?


 信じられない……何考えてるの……?


 何を考えているかわからない、そんなミステリアスな雰囲気を魅力的だと感じたこともあったが、今はそれが恐怖でしかない。


「高比良って歌上手いのかな? あの顔で上手かったら反則だよなー」


「そ、そうだね……」


 どうせ歌も上手いよ……高比良くんはそういう星の元に生まれた人間なの……。


 たったの数ヶ月だが同じクラスで高比良くんを見てきてよくわかった。

 天は二物を与えず、なんてのは天に何も与えられなかった凡人への慰めだと。


「もし上手くても惚れちゃダメだぞー!」


「大丈夫、私イケメン興味ないから」


 人間中身が大事だと、ちょうど今身に染みてわかったところだ。


「そっそうか……なんか複雑だな……」


「え? あっいや、私は優太くんの顔好きだよ!」


「高比良より?」


「当たり前じゃん!」


 あんなのちょっと顔が小さくてパーツとそのバランスが完璧なだけだ。


「優太くんのほうが断然!」


「断然?」


「優しそうだよ!」


「なんか……ごめんな……」


 くっ、高比良くんめ、優太くんをこんな悲しませるなんて許せない……今度会ったら絶対文句言って……。


 あ……そういえば……!


 衝撃的な出来事のせいで一時的に記憶から吹き飛んでいたが、たしか高比良くんは連絡したら迎えに行くと言っていた。


 やはりここは優太くんに先ほどのことを正直に言って、一緒に高比良くんと会ってもらうべきか。


 だがもしそれで事が大きくなれば学校中の人間は高比良くんの味方をするだろう、それにできればあの写真のことは優太くんに知られたくない。


 うーん……とりあえず今日のところは一人で会いに行ってあの写真を消してもらうか……優太くんに相談するのはそれからでも遅くないはず……。


「結奈ー、この曲知ってる?」


 優太くん……仇は私が討つからね……。


「この曲は結構自信あるんだよね、さっきより上手く歌えると思う」


「うん、頑張って!」


 音痴なところも私は好きだよ……!

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