15.最低が最高
最初からこうすればよかったんだ。
女の子に優しくする必要なんてない、そんなことは未来があって能力のない人間がすればいい。
俺はもっと最低でいいんだ。
「じゃあ俺、ドリンクバー行ってくるから」
彩人が空のグラスを持って立ち上がると、望愛は怯えるように声を震わせた。
「あ、うん……わかった……」
随分としおらしくなっちゃって、かわいいなあ。
あとでまた沢山いじめてあげるからね。
上機嫌に部屋を出た彩人が受付横のドリンクバーで水を注いでいると、突然背後から声をかけられた。
「あれ高比良じゃん!」
振り返ると同じ制服を着た男が立っている。
「誰?」
「A組の
そう言われてみれば、どこか見覚えのある顔だ。
「あー、A組の人達でカラオケに来た感じ?」
だとしたら面倒だな……。
「いや、
結奈……
「岡野さんでしょ、もちろんわかるよ」
あれ……そういえばたしか岡野さんって三番目じゃ……。
岡野結奈の出席番号は女子の中では三番目、望愛の次だ。
「え、もしかして二人付き合ってるの?」
「実は夏休みの間にな……誰にも言うなよ?」
なあ神様、これはそういうことだよな……じゃなきゃこんな偶然ありえないもんな……。
「池田くん達の部屋はどこなの? あとで顔出そうかな」
「十八号室だよ、意外とノリいいんだな、待ってるよ」
そう言って池田はトイレのある奥の通路へと歩いて行った。
本当に気乗りしないけど、神に頼まれちゃ仕方ないか。
信じてもいない神に全責任を押し付け、急いで岡野さんのいる十八号室に向かう。
この部屋か……急に入って大丈夫かな? まあ別に大丈夫じゃなくても入るけど。
「お邪魔しまーす」
「え……高比良くん!? なんで!?」
部屋の中には愕然とした表情で固まる、ショートヘアの少女が一人。
「岡野さん池田と付き合ってるんだって?」
「なに!? 急にどうしたの!?」
「キスはした?」
「本当になんなの!? そんなの言えないよ!」
「あっそう」
岡野さんが恥ずかしそうに目を逸らしたので、その隙に一気に距離を詰めた。
「写真撮ろうよ」
右隣に座りスマホを持った腕を伸ばす。
「写真……?」
困惑している岡野さんの腰に手を回し、強引に身体を密着させる。
「ちょ、高比良くん……!?」
「ほら、笑って」
「え、ああうん……」
岡野さんの引きつった笑みを画面で確認すると、彩人も不敵に笑みを浮かべてシャッターを切った。
「ちょっ!? なにしてんの!?」
当然の反応だ。
写真を撮る瞬間、いきなり頬にキスされたのだから。
「いい写真でしょ?」
犯行の証拠を誇らしげに見せつける。
「どっ、どういうつもり!?」
「じゃあ俺帰るから」
そろそろ池田が戻ってくる時間だ。
「ちょっと待ってよ!」
「一人になったら連絡してよ、迎えに行くから」
逃げるように部屋を飛び出し、遠回りしてドリンクバーの場所まで戻る。
ははっ、我ながら無茶苦茶だ……!
彩人の胸は高鳴っていた。
積み上げたものが壊れていくこの感じ……悪くない、むしろ最高といってもいいぐらいだ……!
死ぬことを決めたあの日から、明らかに生き方が雑になっている。
もうすでに彩人の自殺は始まっているのかもしれない。
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