第五夜 ロバの姫
こんな姫がいた。
とある領主に三人の娘がおりました。みな領主の血を継ぎ、陽の光の下で虹色に輝く見事なハチミツ色の髪をしておりました。
その中でも、末の姫はたいそうおてんばなことで有名でした。水遊びも虫遊びも大好きで、遠出の時には馬車ではなく馬に乗りたいと言って周りからたしなめられるほどでした。
九才の誕生日に領主である父親からロバをもらうと、彼女は虹色の髪を揺らして城下を駆けまわるようになりました。それで町の人々から親しみを込めて「ロバのおひめさま」と呼ばれるようになったのです。
明るく元気なロバの姫は、家族からも町の人々からも愛されながら暮らしておりました。
ある夜のことです。
城下の町から急に火が上がると、隣の領地の兵が瞬く間に押し寄せました。領土争いの戦争です。上の姉の嫁ぎ先と油断していた領主の城はぐるりと兵に囲まれてしまいました。
女中から馬番の服を着せられ、髪を隠すように帽子をかぶされた姫は、奥の部屋に隠れているようにと言われました。けれど次第に近づいてくる喧騒の中、親友のロバのことが気になって仕方ない姫は部屋を抜け出すと、煙と血の匂いが漂う城の中を
ロバの元までたどり着いた姫は、ふるえる手で木戸を外しました。さあ逃げようと厩を出た姫たちですが、その姿を一人の敵兵に見とがめられてしまいます。
問答無用で背中から斬りつけられた姫は、抵抗することもできずに地面に倒れました。うつぶせに倒れた姫の胸を、するどい剣が容赦なく貫きました。
真っ赤になった視界の中で、悲鳴のような高いいななきと蹄の音が聞こえます。怒る兵士の叫びが、肉を斬る音が、断末魔の声と血の噴き出す音、それからどうと何かが倒れこむ振動が伝わりました。
兵士の足音が遠のいてゆきます。もう動くこともできない姫の頬に、熱くねばつく血と死にかけた親友の吐息が触れました。体を寄せてくるロバに、姫はひとすじ涙を流して目を閉じました。
夜が明けると城は完全に制圧されました。
領主一家の血を引く者は見つかりしだい殺されて、その体が腐って落ちるまで町の広場に吊るされました。けれど、みんなに愛された末の娘の姿だけは、最後まで見つからなかったそうです。
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