第15話 パーティの新規メンバー

15.


 僕は自分の負けを察し、思わずうなだれる。


 それを見たフェンは、カナンと目を合わせて勝ち誇るように微かに口角を上げた。


「ダイヤ兄、納得したみたいだね。じゃあ、私も任務についていくからよろしく」


 僕はフェンの言葉にしばし悩み込むも、断腸の思いで決断を下した。


「……わかった。認めるよ」


「潔いのは良いことじゃ、ダイヤよ。では、これからよろしく頼むぞフェン」


「カナンさん、これからよろしくお願いします。エディさんも」


「はい、フェンさん。よろしくお願いします」


 僕の沈んだ声とは裏腹に、女性陣三人が明るく言葉を交わす。僕には当たりがきついエディでさえ歓迎ムードなのが納得できない。


 しかし、決まってしまったものは仕方がない。フェンの同行が避けられないというなら、その上でフェンにとって条件が良いように取り決めをする必要がある。


 僕は気持ちを切り替え、カナンに向かって口を開いた。


「フェンを一緒に連れていくことは分かった。反論の余地もないから、そこは認める。でもその代わり、これだけは約束してほしい」


「ん、なんじゃ? 言うてみよ」


「まず一つ。任務中起こった戦闘ではフェンを戦力に数えないこと。自衛のために戦ってもらうことはあっても、フェンの力ありきで戦術を考えたりはしないで」


「ふむ。もともと戦力として帯同させるわけではないからの。良いじゃろう。それで他は?」


「二つ目は、フェンに危険が迫った時、僕がその助力を優先することを許容してほしい」


「……ふむ」


 僕の台詞に、カナンは目を伏せ考え込む。しかしすぐに視線を上げると言った。


「条件付きじゃが、良いじゃろう。フェンへの危険がせいぜい怪我する程度の時は、より重要なことがあればそちらを優先してもらうが、基本的には認める。仮にも国の危機に立ち向かう任務なのじゃ、それくらいはお主も飲んでくれるじゃろうな?」


「分かった、それでいいよ。……じゃあ、最後は報酬の話。パーティリーダーってことでカナンに言うけど、フェンを重要で危険な任務に参加させるんだから、相応の報酬は払ってもらうよ」


「それは当然じゃな。国にはわらわから言っておく。さすがに戦力として期待できん分ダイヤより額が減るが、かなりの金額が払われるじゃろう。支払いはどうすればよい?」


「じゃあ……銀行にフェンの口座作って、そこに振り込んどいて。任務中にフェンがお金使いたくなった時は、必要分をカナンから借りて後で返す形で」


「それで良かろう。エディ、あとで国にもそのように連絡しておくのじゃ」


「はい、分かりました」


 僕は長い話が終わったと息を吐く。そして、黙って横で聞いていたフェンに顔を向ける。


「フェンも、今の話に文句はないよね」


「うん。問題ないよ」


「よし。じゃあ、さっき言った通り戦闘では自衛だけしてること。あと、危なくなったらすぐ僕に状況を知らせること。最後に、お金を貰って仕事をするんだから、ちゃんと真剣に働くこと」


「そんなの分かってるから」


 フェンは無表情ながら、少しむっとしたように口をとがらせ、頭上の耳をぴんと立てた。それを正面から見ていたカナンは、口を大きく開けて笑い声を上げた。


「ふはは、まるで本当の父親じゃな。しかしその過保護ぶりには呆れるのう。王都にいた頃からそうじゃったのか? フェンよ」


「うん。ダイヤ兄はちょっと私たちを子ども扱いしすぎ。私ももういい歳なんだから、そろそろ自主性を重んじるべきだと思う」


「最大限重んじた結果がこれだから! フェンも他の子も、どんどん生意気になってって悲しいよ僕は」


 大げさに悲しんで見せる僕に、フェンはため息を吐く。カナンは愉快そうに眺めているが、エディは相変わらずごみを見るような目だ。やはりこの場に僕の味方はいないようだった。


 こうして、紆余曲折はありつつ話がまとまったところでカナンが口を開く。先ほどまでとは違い、少し引き締まった空気を出しながら言った。


「では、当面この四人で動くことが決まったところで、今後の方針の共有じゃ。──まず大きな目標として、わらわたちはこれから魔王を見つけ出す。そのために、ここから程近い場所で見つかったという魔王の痕跡を探り、今回の魔王の特性や動向を調査する」


 僕はフェンと一緒に、真剣に耳を傾ける。カナンが言葉を続けた。


「その後は、他に見つかっている痕跡を追ったり、魔王の行先に見当がつけばそこに向かったり、という感じじゃな。ああ、あとは今回の任務にはもう一人参加予定の者がおるから、その合流もある」


「もう一人の参加者?」


「うむ。お主もよく知っておるガロアじゃよ」


「お、あいつか! 懐かしいなー」


「ただ、どうもあやつ、今では軍でそれなりの地位にいるからすぐには抜け出せぬようでな。まだ魔王の脅威も差し迫っておらんし、それほど戦力も必要ないから、しばらくはわらわたちのみでの活動となるが」


 僕はガロアの名前を聞いて昔を思い出す。かつて隣国との戦争で戦いに明け暮れた日々で、僕、カナンとともに英雄と呼ばれるようになった男。今もどこかの街の軍で将として活動中と聞いていたが、任務に参加予定とは。


 かつてを懐かしむ僕に、カナンは続けて言った。


「……さて、ではだいたいの動きを説明したところで、直近の予定の話をしようかの。まず今日これからじゃが、調査のために色々と準備が必要な物資もあるからその調達を行う。必要なものやそれを購入する店の場所はエディが整理しておるから、それにしたがって準備を進めるぞ」


「はい。では、まず最初に準備するものですが――」


 僕たちは朝食をとりながらエディの説明を聞き、今日の行程を把握していく。その後は予定通り準備を進めるべく、エディについて街を巡っていった。


 そうして、魔王災害対応のための臨時パーティは、やがて始動の時を迎える────


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る