第3話 旅の途中

3.


 王都セントレアから続く街道が、太陽の光を白く反射して輝いている。


 ときおり木が生える草原のただなかに、その白い石張りの街道は伸びていた。街道は魔物が嫌う鉱石を含んだ岩から切り出されており、道を通る行商や冒険者は魔物に怯えず安全に街を行き来できる。とはいっても、野盗から身を守るすべの用意を忘れてはならないのだが。


 とにかく、そんな旅の脅威の半分を排除してくれる偉大な街道の上を、僕は葦毛の馬に乗ってテコテコと進んでいた。


 すでに時間は昼に差し掛かろうとしており、陽の光が直上から降り注ぐ。すこし汗ばむくらいの陽気で、僕は背嚢から水筒を取り出し水分補給をする。


 ――そろそろお昼でも食べようかな。


 僕は空腹を主張し始めたお腹をさすりながら、ベティの上でぐるりと周囲を見渡した。ちょうど日よけに良さそうな木が、街道からほど近い場所に生えているのを見つけ、ベティをそちらへと寄せる。


「よっと」


 木の横まで来て、僕はベティの背から飛び降りた。手早く手綱を木に括り付けると、乗馬で凝った筋肉をほぐすに体を伸ばす。ゴキゴキと心地良い音が鳴るのを聞いてから、僕は木にもたれるように座った。次いで、下ろした背嚢の中から弁当箱を取り出す。


 ――ここまで良いペースで来れてるし、ちょっとゆっくりめに休憩しようかな。ベティも疲れてるだろうし。


 僕はかたわらのベティを撫でてやりながら、手に取った弁当箱の蓋を開いた。中から姿を現したのは、孤児院でとれた卵や野菜で作った簡単な料理だ。昨日の深夜、孤児院を出る前にちゃちゃっと調理場で拵えたものである。


 弁当の中身をフォークでつつきながら、僕はこれからの旅程を頭に浮かべる。


 昨日の真夜中に王都を出て、陽が上る直前くらいまでベティに早駆けしてもらい、そこからは普通に歩かせてここまで来た。中々のペースで王都から離れることができたので、あと少し頑張れば日が暮れるより早く中間地点の宿場町へ着けるだろう。


 そうすれば寝具でしっかり体を休められるし、ベティにたらふく水と干し草を与えることもできる。今朝僕の不在に気づいた誰かに追いつかれないよう、ここまで少し無理して進んで来たので、ベティには優しくしてあげなければ。


 僕は弁当を食べながら、横目で地面に生える草を食べているベティを撫でてあげた。


 そうして、僕たちはこの日陰でしばしの休憩を取る。早駆けは馬と乗り手の双方に疲労がたまるので、必要な休息である。


 僕はきれいに食べ終わった弁当箱を背嚢に戻すと、水筒を取り出して一口だけ中身を嚥下する。本当は食事中にもがぶがぶ飲みたいものだが、水の基本スキルを持つ者がいない状況において、飲み水というものは貴重だ。


 僕が飲んだ後は、水筒に残った水の半分くらいをベティの口に流し入れてやる。嬉しそうに水を飲み込んだベティが、まるで礼をするようにヒヒンといなないた。


 ――さて。それじゃ、そろそろ行こうかな。


 僕は背嚢を背負って立ちあがる。お尻についた草や砂を払って、ベティを木から放そうと手綱に手を伸ばす。


 その時であった。


 少し離れた街道から、複数人の驚きの声が上がった。


「――な、なんだあれは!?」


 その緊迫感を感じる声に、僕は聞こえてきた街道の方へと視線を向けた。


 目を向けた先には、荷馬車に乗って王都を目指す商人と思しき男が見える。そしてその周囲に、護衛をしているらしい幾人かの若い冒険者も。


 その集団は彼らが向かう先、そして僕が辿ってきた道である、王都に向かう方向の街道を指差しているようだ。


 彼ら指につられてその向く先へ視線を移した僕は、視界に入った光景に軽く目を見開いた。


 ――なんだあれ。魔物か?


 そこにいたのは、土ぼこりを巻き上げながら街道を疾駆する影だ。四本の足を地面について、獣のようにしなやかな動きでこちらへ走ってくる。


 僕はほどきかけた手綱を木に戻し、腰の剣に手を添えながら街道へと向かった。そばに来た僕に気づいた行商とその護衛たちが、口々に呼びかけてくる。


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