第15話 計略と手
「誰がこんなことを……」
今まで涌井の事を無視したり、掃除を押し付けたりとかのことはあったが、こんな生き物の死骸を置くなんてことはなかった。
昨日の今日なのでもしかしてと思い、一番前の友利さんの席に目をやるが、まだ彼女は登校していなかった。
「……可哀想」
涌井はそう呟き横たわるネズミを見つめている。
「おいおい、朝から汚ねぇなぁ涌井」
大きな声でそう言ったのは多和田だった。
多和田はいやらし笑みを浮かべながらこちらへと歩いてくる。
こいつはこの前のこともあり、かなり印象は悪い。涌井へのイジメもこいつが一番過激なところはあるし、友利さんの指示がなくても暴走する事も多々ある。
「多和田っ! お前がやったのか?」
「フン、俺じゃねーよ。みんな、俺がくる前からあったよなぁ?」
多和田がそう言うと周りにいた生徒たちはみな確かにとか、頷くだけとかでできるだけ関わらないようにする。
多和田は大柄で力も強いし、友利さんの側近でもある。なので仮にコイツが犯人だとして、それを見たやつがいたとしても、誰もコイツだとは言えないだろう。
「それによかったじゃねぇか、涌井は好きだろ?そう言う気持ち悪いやつ」
多和田はそう言うとガハハと下品な笑い声を上げる。あまりの態度に流石に俺は腹が立ち、拳を握り締めた。
丁度そのタイミングで、友利さんと女子生徒二人が教室に入ってきた。
「おはよう……ってちょっと二人ともどうしたの!?」
友利さんが教室に入ると慌てて俺と多和田の間に入る。
そして友利さんは涌井の机の上のソレを見てひぃっと小さな悲鳴をあげる。
「何これネズミ? 気持ち悪……ちょっと誰よこんな事したの!?」
友利さんはそう問いかけるが、誰一人として声を上げるものはいない。
「……登校してきたら涌井の机に置いてあったんだ」
「わ、私じゃないわよ……今来たところだし。ねぇ? 小野寺、三井」
「う、うん……」
「そうよ、私達は三人一緒にいたけどそんなことしてないわ」
この二人はよく友利さんと一緒に登校しているし、部活も同じ剣道部で友利さんとは仲の良い友達だ。仮にもし友利さんが関わっているのを知っていても何も言わないだろうが……。
ちなみに170センチ程の長身で吊り目で少し怖そうな印象なのが小野寺で、ポニーテールで愛想が良くいつも元気なのが三井だ。
「もしかして多和田、アンタまた勝手に!?」
「ち、違うって! 誰がやったのかは俺もしらねぇ」
やはり友利さんも多和田が怪しいと思ったのか疑うが、目を向けられた多和田は慌てて否定する。
「……とりあえず片付けないと」
言い争う二人を横目に、涌井はぼそっとそう呟く。
「そうだよな……確かカバンに袋が……あった」
俺はカバンから何かあった時ように入れているビニール袋を取り出す。
「ありがとう松坂くん。袋開けてて」
そう言うと涌井は机上にあるネズミの死骸を躊躇なく素手で掴み、袋の中へ放り込んだ。
「だ、大丈夫なのか素手で触って!?」
「別に手洗えばいいだけだから」
その後も虫の死骸たちを袋に放り込む。
その何の躊躇いもなく死骸を触る姿に、言い争いをしていた友利さんと多和田も唖然としていた。
「うげぇ……素手で触ってやがる……本当に気持ち悪い女だなぁ。まぁ、お前みたいな奴には死骸がお似合いか、ガハハッ!」
多和田はそう言ってまたしても下品な笑い声をあげる。
その瞬間、俺は何かを考えるよりも先に右手の拳を多和田の顔面へと撃ち抜いていた。
「ぐっっ!!? 松坂、テメぇっ!!」
しかし素人の俺のパンチなど大したダメージも与えられず、少しよろけただけで、多和田はすぐさま俺に飛びかかってきて、俺は地面に倒され馬乗りにされる。
「きゃぁっ!!」
女子から悲鳴が上がり、何人かの男子が多和田を止めようと抑える。
「クソ! 離せっ! この野郎っ! 舐めた事しやがってぇ!」
「多和田っ! 何やってんだ!」
もうすぐ授業が始まる頃だったので、タイミングよく一限目の教室に入ってきた先生もこの光景を見て驚き、多和田を止めに入る。
「松坂くん!! だ、大丈夫!?」
多和田は先生と男子何人かに抑えられ、やっと俺は立ち上がった所に涌井がすごく心配そうに駆け寄ってくる。
机にネズミの死骸があるのには無表情だったのに、今は泣きそうな顔をしている。
「怪我はない? 松坂君」
友利さんも心配そうに俺に問いかける。
「ちょっと頭は打ったけど、どこも怪我してないよ。ありがとう心配してくれて」
「よかったわ……怪我がなくて」
それを聞いて友利さんは安堵の表情を見せる。
「涌井もありがと……っ!?」
涌井にも心配してくれてありがとうと礼を言おうと涌井の方を向いた瞬間、突然涌井が俺に抱きついてきた。
「わ、涌……井?」
「っ……! よかった無事でっ…! ご、ごめんなさいっ! わ、私のせいでこんな事になって……! ごめんなさい! ごめんなさい……」
涌井は俺の胸に顔を埋めると、周りも気にせず泣きながら俺への謝罪を繰り返す。
「……なんで涌井が謝るんだよ」
俺はそう言いながら、勝手にこんな事していいのか悩んだが、涌井の頭をポンと軽く撫でる。
が、涌井は特に嫌がる様子はなく、逆に俺に抱きつく腕にさらに力が入るのを感じる。
流石にこの光景を見られるのはと思い、友利さんの方を見ると、案の定さっきまでの心配そうな表情は消え、明らかに不機嫌な顔になっていた。
そして目が合うと、友利さんは後ろを向き、何も言わず自分の席へと戻っていった。
「松坂、お前も職員室に来い。他のやつは俺が戻るまで自習だ」
「は、はい。……涌井、俺行かないと……」
「えっ……? あっ!! ご、ごめんなさい!」
涌井は我に帰ってずっと抱きついていた事に羞恥心が出てきたのか、慌てて俺から離れる。
そして俺はこの騒ぎの当事者として、多和田と共に職員室へと連れて行かれるのだった。
★★★
更新が遅れてしまい申し訳ございませんでした。
私事ですが、近々引っ越しの予定があり、その準備等で更新が遅れてしまいました。
引っ越しが終われば元の頻度で更新できると思いますので、これからもご愛読、応援の方よろしくお願い致します。
転校してきて、隣の席のぼっち陰キャ女子に優しくしたら、その子はとんでもなく危険なヤンデレ娘でした。 カイマントカゲ @HNF002
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転校してきて、隣の席のぼっち陰キャ女子に優しくしたら、その子はとんでもなく危険なヤンデレ娘でした。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます