第13話 告白
「夜のサイゼ楽しいけど、太っちゃったよ」
良子が頬をふくらませて言った。
「デザート食べるからでしょ」
真琴が言うと「だってぇ」と良子が甘えた声で言った。
「俺、最近、筋トレがんばってるんですよ。友達にガチ筋肉野郎がいて、家にあるベンチプレス借りて」
竹丸が胸を張って言う。
「良子ちゃん、髪色変えた?」
士郎が良子に尋ねると、ええへ、と良子は笑った。
「やったあ、士郎さんに気づいてもらえた。副店長が髪色、明るくしていいっていうんで、ミルクティーカラーにしました」
「いいよね、ミルクティー」
真琴はふわふわとしたパーマのかかった良子の毛先にふれた。
「ちょっと、俺を無視しないで」
「ごめん、興味なくて。竹丸、筋トレしてるわりにすぐ荷物重い重いうるさい」
士郎が冷たく言った。
「なんのための筋肉だよ」
「竹丸くんダサーい」
真琴と良子は顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、三ヶ月後! 三ヶ月待ってください、俺、変わりますから」
「YouTubeのうさんくさい広告みたいな言い方」
「士郎さんのツッコミ、きついなー。もっとこう、一番年下ってかわいがられるもんじゃないですか。お兄さんお姉さんがた、冷たい」
「竹丸くんはかわいいタイプじゃなくてかっこいいでしょ、筋トレがんばれ。そんで痩せる筋トレあったら教えてよ」
「良子さん、応援ありがとうございます」
「水の箱、三ケース持てるようになるまでがんばりな」
「それですね、真琴さんの言う通り三ケース」
「くそ、もうがんばるしかないや」
竹丸が悔しそうに言った。
そうやって談笑しているとあっという間に時間は過ぎる。家に帰ったのは十二時、すぐにシャワーを浴びてベッドに寝転がり、スマホを見る。
あたしの昼、空いてますか?
大事な話をしたいです。
竹丸からそうラインがきていた。
真琴は少し悩んでから、いいよ、とラインを返した。
駅前の人気おしゃれカフェへ、真琴は黒い無地のTシャツの上に白のニットカーディガンを羽織りケミカルジーンズという服装で向かった。
時刻は二時半、ちょうどあまり待たずに店に入れる時間帯に竹丸と真琴は店の前で会った。竹丸がカフェのドアを開けてくれて、真琴は目を伏せて店内に入った。
竹丸は黒ジャケットとスラックスのセットアップで、普段と違う服装にどきりとしてしまった。竹丸は背が高く足が長い。顔もいつもより精悍に見えた。
奥の小さなテーブル席に案内された。ケーキを注文しようとして、やめた。真琴も竹丸もコーヒーを注文した。
「急にすみません。真剣な話を、聞いてくれますか?」
竹丸が落ち着いた声で言う。
なぜか真琴は竹丸を見ることができない。
「うん」
「では、話します。俺はあなたのことが好きです。人としてあなたのことが好きで、さらにあなたに恋をしています」
竹丸が言った。
真琴は足も腕もくんだ。じっとコーヒーカップの白さを見つめて、足首を少し揺らす。
「それは……私と付き合いたいってこと?」
「真琴さんが恋人だったら最高です。けれど、俺の心はややこしいんです。俺は士郎さんのことも好きです、もちろん恋心として。真琴さんと交際できても、俺はたぶん、士郎さんへの気持ちを未練に思う、それは誠実ではありません。自分でもどうすればいいかわからなかったんですけど、あなたにどうしても気持ちを伝えたくなりました」
真琴ははっきりと語った竹丸を見た。彼は真正面を向いている。真琴はテーブルに組んだ手を置いて、背筋をのばした。
竹丸がサイゼの自己紹介トークで言っていた好きなタイプは自分と士郎だったのかと合点がいった。
竹丸が士郎に特別な思いを寄せているからこそ、二人が仲良くしていたらイラっときたわけだ。
「私はあんたと付きあえないし、友達以上の感情を持つこともない。はっきり言うよ、私のことは失恋で終わらせて。これからはいい仲間でいよう」
「はい。失恋だってことはわかってました。真琴さん、失恋させてくれて、ありがとう」
竹丸が笑った。
「気持ちを聞かせてくれて、ありがとう。私とあんたは同じ人を好きな、ライバル同士でもある訳だけど、好きな人を慕う同志でもあるのね。ふたりで士郎くんを見守っていけたらと思うよ」
「俺もです」
真琴はうなずいて、笑った。
「竹丸、二人でがんばろうよ」
「そうですね、がんばりましょう」
真琴はケーキを注文して、コーヒーをおかわりした。
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