第10話 開幕
ネルラは、見たことのない小型の機械を机から取って舞台中央へ上がった。
「これより選抜式の開幕を宣言する。事前に連絡されている通り、A〜Fのブロックに分けて6日間かけて選抜戦を行い、各ブロックで優勝したものは晴れて国軍に入隊する栄誉を得られる。文字通り死ぬ気で争え。」
コロシアム中に彼女の声が反響する。彼女の持つ機械がマイクの役割を果たしているのだろう。彼女は舞台から降り、こちらへと戻ってきた。
その反響の中、俺から向かって右手側のゲートから男たちが入場してきた。出場選手の武器は剣に統一されている。
その中から二人が、舞台へと上がった。一方は屈強な壮年、もう一方はどことなく頼りない顔の青年だ。
「Aブロック選抜第一回戦、始めッ!!!」
そのネルラの叫びに呼応して観客席から熱響の声が響く。舞台上の二人はそれぞれ剣を抜いて、勢い良く斬り掛かった。やはりというべきか、青年はそのまま押し倒され、剣を首元に向けられると、力なく倒れ込んだ。
「勝負ありッ!」
ネルラがそう叫ぶが、観客席からの歓声は明らかに小さくなっていた。素人の俺でも見ても拍子抜けな試合だったのだ。俺より目の肥えたこの国の人々には試合どころかとんだ茶番であろう。そんな試合が、何戦も続いた。
「私の出る幕などありませんか。少々残念です。」
トルヴァーンはやれやれというように首を横に振る。パガンはいよいよ飽きてポケットにしまってあったメモ帳に落書きを描き始めた。その後もあっけなく押し倒されたり、場外に出たりの試合が何度も行われ、俺も陽射しの暖かさにウトウトとして眠りそうだ。
「……それでは、Aブロック選抜最終戦、両者舞台へ。」
そんな声が聞こえる。舞台には一回戦で見た白髪交じりの壮年と、見覚えのない…恐らく寝ている間に試合を勝ち上がってきたであろう金髪の華美な服装の青年が舞台上に登る。
「最終戦、始めッ!!!」
俺の意識が、彼らの剣がぶつかる激しい金属音と同時にハッキリと戻ってきた。今までとは明らかに戦闘の質が違う。観客席が湧き上がった。
互いの剣が交差しているが、壮年の方がジリジリと押していく。青年は舞台の際まで押されていったが、見計らったように足払いをかけ、相手と位置を入れ替えた。
壮年は体勢を崩すも、持ち前の筋力と体幹で辛うじて場外には出ず、振り向いて大剣を構え直す。青年は驚いた顔をしながらも服装と同じく華美で宝石の埋め込まれた片手剣をクルクルと回し、飽くまでも平静を装っている。
「「カーテナ!カーテナ!!カーテナ!!」」
…おそらく現在優勢の青年の名であろう言葉を観客たちは連呼し叫んでいる。
その様子を見て、ネルラはため息をつき、小さく舌打ちをした。
壮年は剣を大きく振るい、舞台を削りながら振り上げその瓦礫とともに青年に斬りかかる。
と同時に、青年の剣が緑色に光りだした。
かと思うと突然彼の片手剣から出ているとは思えないほどの突風が剣から巻き起こり、それによって壮年は体勢を崩し、それどころか飛ばした瓦礫が壮年自身にぶつかり、結果そのまま壮年が舞台から吹き飛んで決着がついた。
「……勝負ありッ!!……よって、Aブロック優勝者は、カーテナ・アーヴィンッ!!」
そのネルラの一声で、けたたましい拍手と彼の名を叫ぶ歓声とで会場は大いに盛り上がった。
パガンは落書きを止め、青年を見つめて口を開く。
「……今、アーヴィンって……ということは当主殿の…?」
彼はペンを取り落としたのも気にかけず、ポカンと口を開けたまま、青年とネルラを交互に見続けている。
当主殿……ネルラの父親のことだろうか…。
トルヴァーンは壮年に駆け寄り治療、何人か舞台脇に控えていた役員らしき人たちが持つ宝石が光ったかと思うと、舞台はみるみるうちに直った。
青年…カーテナの爽やかな笑顔が、すごく、すごく印象的だった。
異空の神へ ちゃこぺんそー @moltonext
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