15
目が覚めると、電話をかける前と同じ景色がそこにある。
自然に、涙が溢れた。
手の中には、まだあの携帯電話があって、番号も履歴に残っている。
でも、きっともう…電話を掛けてもあの世界には繋がらない。
この電話はもう二度と…兄には繋がらない。
そんな気がする。
突然、病室の扉が開いた。
夫だろうと思って顔を上げると、そこには、父の姿があった。
「お父さん…」
急いで、涙を拭う。
父は、優しい表情をしてベッド脇の椅子に座り、携帯電話を握りしめる私の手に、そっと手を重ねた。
父の目に、涙が浮かんでいる。
「…
私の息を呑む音だけが、やけに大きく響いた。
環…それは、きっと兄の名前だ。
「…環に会ってきたんだろう?」
「…どうして…」
その答えは、父の手に握られていた。
同じ型の、携帯電話だ。
「私が初めて環に会ったのは、お前が二十歳の時だった。子どもと一緒に、お酒を飲むのが私の夢だったからね…環は、それを叶えてくれたんだ」
父と、並んでお酒を飲む兄の姿が目に浮かんだ。
母と手を繋いで歩く、幼い兄の姿も。
一緒に生きてきた。
そんな兄の言葉が今、私の中で、実感に変わった。
兄の人生の中に、常に私たちがいたように、私たちの人生の中にも、常に兄がいた。
私たちはずっと、繋がっていた。
遠い場所で、確かに繋がっていたのだ。
扉が開いて、夫が顔を覗かせる。
そうだ…夫に、話さなければならないことがある。
「…名前なんだけど…私、考えたの。まだ、男の子の方しか、思いついてないんだけど…」
「俺も、考えてたんだ。女の子の方」
男の子の方…先に生まれた、お兄ちゃんの方が、
女の子の方…妹の方が、
魂は廻って、そして、結ばれる。
輪のように、いつしか一つになる。
「いい名前だ」
手を繋いで歩く幼い子どもたちの姿が、脳裏に浮かぶ。
その光景に、私と兄の姿が重なる。
魂は廻り、結ばれる。
―End―
円環 Pomu @Pomu1123
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