49・木星に帰って

「? 何だこれは?」


 私は、木星の首都である、ユド・グ・ラシルの港にアフラ・アル・マズダ号を停泊させて。港に降りたとたんに違和感を感じた。


「だれも……、いませんわね」


 メルシェが、周囲に生命反応探査をかけてそう言う。


「なんかあったのかよ?」


 ケルドムは、眉間にしわを寄せて。辺りの空気を察しようとしている。


「これは、アレだな」


 クリーズは、何かわかったらしい。ククッと笑っている。


「俺達がいない間に、内戦でも起こったか?」


 バッシュがとげとげ金髪をガシガシ掻きながら言う。


「これは……。まあ、こういう事をしそうですわ、あのマナ様は」


 ミズキにも、クリーズと同じくわかっているようだ。


「まあ、提督。とりあえず、外に出てみましょう」


 ゼイラムが、先ずは動いて確かめようと言い始めた。


「そうね。まさか、おかしなことは起こらないでしょう。なんか、そこら辺の勘はピリピリ言ってないわ」


 一番臆病なピウフィオが、そう言うので。私たちは港から出てみることにした。


「!!」

「なるほど……」

「あー。そういう事」

「やはりこうか」

「内戦じゃないわけね」

「マナ様、一生懸命考えたのね」

「全く、何かあったこと思いましたぞ」

「ビビらないわけね、これじゃ」


 私、メルシェ、ケルドム、クリーズ、バッシュ、ミズキ、ゼイラム、ピウフィオの順で、このような言葉を漏らして、状況に納得。


「お帰りなさい、偉大なる宇宙海賊、ネレイド。我が木星に、誇りと富を取り戻してくれた人よ!」


 そういって、私たちを迎える、マナと木星五大陸王。

 まあ、何というか。

 港を出た大通りには、はなはだしい程の多くの木星人が並んでいて、私たちに歓声を向けてきた。

 要するに、これは戦勝式典で、更には私たちに対するサプライズでもあったらしい。

 昔は音楽がなかった木星に、鉄製の笛を吹く音が響き、それに乗って歌う声も、また街に広がる。

 質素というか、味気ない木星人の食べる炭水化物の粉を焼いた料理にも、どうやって作ったのか香辛料らしき匂いや、甘い匂いがついていて。それを食べている、この戦勝式典に参加した、木星市民が美味しそうに笑っている。


「マナ。私たちは勝ったよ。木星人の誇りと、生きるための富を勝ち取ったんだ」


 私は、感極まって目を潤ませているマナの肩に手を置き、そう言った。


「もう……。心配したし、火星に行って、地球に向かうと聞いたとき。もう、ネレイドは木星に来ないって。思っていたのに。ちゃんと戻ってきてくれるなんて……」


 あー。泣き始めちゃった、マナ。


「何にしても、本当に、貴方のおかげだ。ネレイド提督」


 義王カリトスがそう言った。


「まあ、私たちを率いて勝ったあの腕を見れば。不安などないさ」


 ニッと笑ってそう言うのは、信王イオス。


「貴女は、本当に素晴らしい。木星の為に、ここまでしてくださるとは……」


 感嘆の声を漏らすのは、知王エウロス。


「しっかし。勝つためとはいえ、随分と我らが作った船を沢山ぶっ壊してくれて」


 笑いながら、そう言っている、忠王ガニメス。


「流石に、私を捕らえただけのことはあるな、ネレイド。マナ様が、お前に称号を贈りたいと言っている。受けるか?」


 落ち着きながらも、鷹揚な笑みを浮かべている、仁王ジプス。


「称号? 何だそれは?」


 私がそう問うと、ジプスはちょっと悪そうににんまりと笑った。


「木星圏での、海賊行為認定の証書代わりになるものだ。ネレイド、お前は義や信や知や忠や。また、仁に欠けた行為はしない。その、人格に対するマナ様からの褒美だよ。木星圏で海賊行為をして、もし咎められた場合。この称号を使うといい」

「? で、その称号とは?」


 私が聞くと、マナと五大陸王が揃って笑い。

 一斉に口を開いて言った。


「『宇宙海賊女王』。クイーン・オブ・コズミックパイレーツ、と言うんだ」


 成程。私は、公式には太陽系の宗主星である地球に逆らった、宇宙の海の賊だ。ならば、この称号ほど相応しいものはないだろう。


「有難く貰っておく」


 私がそう答えると、木星人たちが一斉に。嬉しそうな歓声を上げた。

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クイーン・オブ・コズミックパイレーツ べいちき @yakitoriyaroho

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