48・未来の計画の為に
「ファルマー巫女。水素が必要だという事はわかった。我々は、今後。木星の液体水素資源の地球、木星間の商取引の潤滑化に励めばよいのか?」
私は、ファルマーにそう問うてみた。
「ん? ネレイド、違うわよ。貴女にやってもらうことは、もう決まってるの」
「むむ? 何だというんだ?」
「実は。木星の液体水素の海に、生物がいるの」
「なんだと? あの超重力超高圧の世界に、生物がいる⁈」
「そう。まあ、流石に。ヒューマノイドタイプじゃないんだけど。今回頼みたいのは、植物なの。ジュピタープラントシードって言って、まあ。液体水素海の藻の種なんだけど」
「藻に種などあるのか?」
「そうねー。地球で言ったら、
「それを、採ってくればいいのか?」
「簡単に言うわね。結構大変なのよ?」
「私たちの船、アフラ・アル・マズダ号は、液体水素の中に潜っても、潰れたりはせん」
「そうね。でも、大変だというのは、超重力超高圧だけが理由じゃないの」
「? 何か出るのか?」
「御名答。木星の海には、龍が棲んでいるの。チンロン、って呼ばれる、巨大な龍よ」
「……それ、サイズはどれくらいだ?」
「宇宙船より、大きいわね」
「化け物じゃないか……!!」
「そうよ。だから、ジュピタープラントシードを、チンロンの機嫌を損ねないように、ちょびっとずつ持ってきて貰えないかな、なんて」
「命がけの仕事を、けろりと任せるな!」
「あん! ちゃんと報酬は大きいわよ!!」
「何をよこすというのだ?」
「先頃、三年半前ね。貴女の艦隊は、旗艦を残して正体の知れないアンノウンに破壊された」
「……確かに、そうだが?」
「その、護衛艦7隻を補充してあげる。これが見返りよ。いいでしょ? ヴィフィール?」
話をヴィフィール兄上に振る、ファルマー。
「そうだな。ある意味、私たちの手駒というか。外部からの干渉を受けない目的推進手段は、ある程度大きい方がいい」
「そうそう、そうよ! ヴィフィール」
「ツァラストラ級を7隻も造るとなると……。ただ事ではない予算がかかるが。おい、シンク」
兄上は、大聖堂のシスターといちゃついていたシンクに、声をかける。
「んだ? バカ元帥」
「ネレイドの艦隊を、フル仕様にしてやりたい。艦艇も、武装もだ。幾らかかる?」
「バカか? それこそ天文学的数字だ」
「やれるか?」
「やれないこたぁない」
「頼めるか?」
「俺よ、水星人の彼女、居るんだよな。最近は仕事忙しくて寂しい思いさせてんだが……」
「わかったよシンク! 一週間の休みくれてやる!!」
「OK~♪ やろうじゃないか、予算捻出」
「お前という奴は、神官たる司教長の身でありながら……」
「はっは。信心が強ければ、神官でも生臭して平気なんだぜ? まぁ、そこらの青坊主にゃ無理な事だが」
「好きなだけいちゃついてこい。その代わり、きっちり仕事はして貰うからな」
「俺が仕事しくじったこと、あったか今まで? フッフン? ヴィフィールさんよ」
「ホントに、尊大で業つくで、不品行で! まあ、いい。今に始まったことじゃない、疲れるだけだ……」
「お疲れさん♪」
「まあ、仕事は精魂込めてやるからな、お前は」
「そそそ。その一点だけで評価しろよ。他は余事だ」
そんな事を話している、兄上とシンク。
私は、そちらから視点をファルマーの方に戻した。
「で? その、ジュピタープラントシード? を、何に使うんだ?」
「ああ、そうね。それは言わないと。ジュピタープラントシードは、水素を吸って、酸素を産み出すの。元素配列変換を体内で行う、まあちょっと危険な植物んなんだけど。それを、第二地殻の水素結晶板の上で芽を出させて。酸素で満たすのよ、第二地殻上を」
「水、か……」
「すべての生命の、糧よ、酸素は。植物も動物も、酸素なくしては育てないわ」
「そうか……。その後は?」
「そうね、少し話しておきましょう。ジュピタープラントシードの、死骸を苗床に。樹を植えるの。その樹が大きく育ったら、火をかけて焼く」
「せっかく育てたものを。焼いてしまうのか?」
「ええ。何も残らないわけじゃあないわ。樹が炎で焼かれた後には、土ができる」
「ははあ……?」
「なんだかわかってきたみたいね? 土ができてくれば、第二地殻の上に陸や山ができるわ」
何やら、系統だった自然創造学がありそうな、ファルマーの言葉。
とりあえず、今回の地球行の成果を木星に戻ってマナに伝え、その後。
多分、物騒であろう、ジュピタープラントシードこと、木星樹の種を取る算段を私はつけ始めた。
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