ある日推しが死んだ

石田颯太郎

ある日推しが死んだ




最近高校を中退した。いじめが原因だった。中退したことにより、マンション家の隅の方にある三畳ほどの小さな部屋にカーテンと窓を閉め切って部屋を暗くし一般的に学校や仕事に取り掛かる時間帯から少し大きめのデスクトップパソコンの前に夜まで座り込みゲームをする。それもヘッドホンをして音量は大きめで。


ゲームの他にやることはあるのか。僕は小説を書くのが好きだった。ゲームをして萎えた時には、苛つきを発散するかの如く小説をパソコンに書いた。あとは、推しがいた。毎朝、動画投稿サイトで綺麗で可愛くて小さめな顔を映像越しに眺めている。

彼女の名前はミリカと言った。他に彼女について知っていることと言えば、自分と同じ高校中退ということ、同い年ということ、小説が好きということ。意外と共通点はあった。


自分とミリカは人生の底を徘徊しているということは自覚していた。そのような観点では同類であるのだろうが、他の観点だと違かった。ミリカは自分のことは認知しておらず、自分はミリカを認知している。いわゆる一方的な愛であり、尚且つ配信業をしているという時点では彼女の方が何枚も上手だ。自分だったらこんなに不細工な顔を大衆の前に晒すような行為はしたくない。どうせ「ブス」だの、「キモい」だの言われてしまうのだから。


ある日の配信での出来事。

自分はいつものように引きこもりの生活で真っ暗な部屋のパソコンでミリカの配信を見ていた。この配信サイトには投げ銭機能があり、つい最近までは頻繁に投げ銭をしていた。しかし、最近が月末ということもあり、親からのお小遣いが底を尽きていた。パソコンに入っていた残りの460円を投げ銭に使うことにした。

チャットには『最近金欠で投げ銭できてませんでした。これからも頑張ってください』と書き込み、投げ銭をした。


十二秒後、ミリカは自分の投げ銭をしたコメントを笑顔で読み上げて、

「あ、兄上代行くん!460円ありがとう!金欠でも無理しないでねー。」

とコメントを残した。兄上代行はネットでの名前で、本当の名前は島 隆世という。

その日のミリカはいつものように可愛かった。


次の日


朝起きて、情報系のSNSを開くと....


推しが死んでいた。


とりあえずトイレに篭って自慰行為をした。

荒げた息の後でふと我に帰り、なんで死んだかを確認するべく部屋に戻りチルイ音楽を聴きながらSNSを使って片っ端から調べ始めた。

何件も、何十件も、何百件も情報がヒットする。

その中で『有名配信者 ミリカ氏自殺 ネットの誹謗中傷が原因か?』というサイトをクリックした。

簡単に書き上げらた記事だった。


記事を満遍なく読んでみたところ、どうやら寝ている間に自殺する前、配信をしていたらしい。昨日投げ銭した配信とは別に。

そこで誹謗中傷のことともう一件別の話をしたらしい。どうやら中退したと言われた高校にはまだ通い続けていて、遅刻登校していたが、周りからのプレッシャー、親からの威圧、元友達からのいじめ、を受けていて生きていて耐えられない状況だったらしい。


嬉しいことにミリカは自殺前、SNSに特に誹謗中傷をしてきた人をリスト化していた。チルイ音楽が流れているヘッドホンを投げつけ、耳元は無音と化し、リスト化されている人のダイレクトメッセージに暴言を吐き散らかした。

それも、朝九時から夜の九時まで。怒りがずっと収まらずお風呂でも自慰行為をした。

その後息が止まったように就寝し、次の朝を迎えた。

昨日送った誹謗中傷してた人達のダイレクトメッセージを見ると。


『お前何歳だよ』


『キモい』


『ブス』


『口臭いよ』


『お前も死ね』


『で?』


『考えろカス』


『カス』


『そっかそっかー』


『お怒りでございますか?(笑)』


『喚いても無駄なの分かれよw』


『ガキ』


『お前友達いないだろ』


『お前有名人だよwツイート見てみな』


『https://●●●××x######___/』


最後のリンクを見てみると、自分が散々吐き散らしたダイレクトメッセージの暴言と名前が貼られていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁ!もうっっっ!っそがよ!ざこ!しね!きえろ!かす!かす!うぁぁぁぁぁぁぁ!んだよ!もう!まじでさ!ほんとに!きもすぎ!ぁぁぁぁつらがよ!イキるなよ!かす!」


と暗い部屋で暴れながら発狂し、キーボード、マウス、等々、部屋のあらゆるものを壁、床、机に投げつけた。これ以上の怒りと悔しさと悲しさがあってたまるか。そんな気分だった。

本日休みのお母さんが部屋に入ってきて「っるさいわね!パソコン取り上げるわよ!」と言ってきた。

咄嗟の反論で


「うるせぇ!だまれ!」


と叫んだ。

お母さんは鼻から息を吸い、強く足踏みをしながらこっちへ向かってきた。床に散らばったマウス、キーボードを取り上げて「いい加減働け」と一言残して部屋から出ていった。その時の隆世の目はブラックホールのように何もかも吸い込みそうだった。

親指の爪を噛んで「あれがなきゃ俺は」とぶつぶつ呟いてお母さんを追うように部屋から出て行き、リビングに居座って新聞を読んでいるお母さんの後ろに立った。


「なによ。」


お母さんがそういうと僕は拳で頭を殴った。

急な暴行によりお母さんは驚いた後で隆世の方に振り向き、「あんたねぇ!」と叫び手のひらを上に上げた。

僕は目を瞑り避けようがない反撃を喰らう覚悟をした。

もちろん手のひらは右頬にあたり、その頬は赤くなった。

その時の僕の目は死んだ魚のように生き生きしておらず、殴り返したことに対して、殴り返した。殴り続けた。



お母さんは倒れて動けるような状態でなくなり、気絶していた。

至る所に歯、血、爪が落ちていた。電気は明るいリビングの時計は四時三十二分を指しており、外も明るさを徐々に失っていった。

そんなお母さんを一人置いて、リビングの隅で僕はひとり寂しそうに体育座りをした。



警察署にて....

その後、僕が思ったことは、


「もう家族とは関わりをなくしたい。むしろそんな自分が憎たらしくて、気持ち悪くて、どうしようもないクソガキのように思えてきて自殺を覚悟しました。現に病院で手術をしているお母さんを見守るお父さんも『もう関わらないでくれ。絶縁だ』とおっしゃっていましたし。」


駅前の小さな警察署で二人の警察官に囲まれながら話した。少年院行きは確認してるらしく、家族とも絶縁予定になり、推しも死んだし、なにも思い残すことはない状態だ。

一周回って清々しい気分だ。


その後、僕は少年院で18歳になるまで過ごし、釈放された。少年院ではただとあることを考えていた。他の若い子や警備の人とも一切話さずに。

その考え事とは、僕には未練があり、それは推しに「好きです」という言葉を一度も言っていないことだ。そして僕は大の小説好き。なんなら小説をかくのも好きだった。

自分が作った小説が家族に褒められたのは唯一思い出に残っている家族との嬉しい出来事だった。

そのことを思い出して、ずっと、とある物語の構成を頭の中で考えた。

ある時はアイディアを、自分の鼻血、爪で跡が残るようにベッドの側面や壁、床に執筆し続けた。

18歳の誕生日、少年院ではそれ以外特に大きいことはせず出所した。

久しぶりにシャバの空気を吸って

「気持ちいいな。」

と一言放った。


その後、元家族の家から離れた都市でアルバイトを探した。スマホも無いため、血眼になってアルバイトを募集している場所を探して回った。

雨の日も、炎天下の日も。


そうしてようやく普通のアルバイトにありつけた。

新宿三丁目のコンビニバイトだった。東京のため、最低賃金が高く、とにかくシフトを入れまくり、働きまくった。

一ヶ月頑張って32万円を手に入れた僕はスマホを買った。

そして何ヶ月もかけてとある小説を書いた。

その小説はネットで少し話題になり、徐々に名を上げていった。


そして一年語、その小説も最終話を迎えた。その頃には住む家もあり、食も整い、最低限の生活はできていた。

スマホ一台で世の中に話題を生み出し、その話題で稼いだ金はとある犯罪集団に貢いだ。

その貢いだお金の恩返しを今日受ける。


夜8:00、いつものようにバイトが終わり小説を書いた。その小説のタイトルは

「ある日推しが死んだ」

というタイトルで、推しが自殺してその自殺を無くすためにタイムワープして過去に戻りアンチを虱潰しにする。そんなクソ小説だった。

そんな話題を呼んだ小説も最終話。スマホに親指一つで話題を終わらせる一歩一歩を歩み続けた。

そして残り1行。そう確信した僕は突然小説を書くのをやめて、自身のSNSでライブを始めた。

徐々に視聴者は増えていき、10000人がそのライブを視聴していた。

ライブをしながら、僕は家を出て閉まる玄関にさようならをして、渋谷区スクランブル交差点に向かった。渋谷駅を出てすぐに見える大きな電光掲示板があるビル。そこの屋上に上がり、ライブのコメント欄では困惑の声が上がった。


スマホでライブをしながら、小説の最後の1行を書いた。


そしてそのライブをしている途中、渋谷全体が停電を起こした。

そしてライブの映像が停電の中、渋谷の至る所の電光掲示板に映し出された。


「死は人生のどん底に一瞬で全てを落とす。」


そのライブで一言目を発した。下に見えるスクランブル交差点を行き交う人々はざわめきながらも、一斉にスマホのカメラを電光掲示板に向けた。


「メメントモリ」


僕は背中から風が吹く中一声発すると、一息付き、続けて


「これは僕、小説家 島 隆世 の遺言配信となるでしょう。僕が書いてきた小説『ある日推しが死んだ』は僕の実体験を元に作成しました。僕と同い年くらいの人はどんな気持ちで見てるか。そう、あの日、ミリカという有名配信者に誹謗中傷をして自殺に追い込んだアンチ諸君のことだ。今から人の死を目の当たりにするがいい。そして。。。いや。。。なんでもない。僕がこのビルから飛び降りると同時に『ある日推しが死んだ』の最終話が更新されます。それでは、もう警察もそこまで来ていますので。ご愛読ありがとうございました。」


僕はスマホから最後の1行を投稿する更新ボタンを押して、ビルの端っこまで行き、そのまま重力に逆らわずに流れるまま落ちていった。

スマホには『now loding』と更新中の表示が現れ、僕が地面に落ちた瞬間『更新完了』に変わった。

落下場所周辺にいた人は落下後一瞬静かになったものの、一人の女性が叫んでからはどよめきと発狂で交差していた。

死んだ。

確かに死んだ。

だけど不思議と痛みは感じず、感じたのはただ生暖かさだった。


「気持ちは伝わったよ。兄上代行く、いや、島 隆世くん。」


気づくと誰もいない渋谷に倒れ込んだ僕に話しかけた人はあの死んだ有名配信者ミリカだった。


「私のために、私に気持ちを伝えるために、ここまで一人でよく頑張ったね。」


僕は目を開けてミリカの顔を見ると驚かずに体を起こして、二人は手を繋いだ。


「ミリカ....やっぱりここにいたんだ。」


「そう、隆世くんの読みの通り、私は死ぬ前のあなたが寝ている時にした配信でとあるプログラムを開発して渋谷のスクランブル交差点で自殺した。隆世くんが生前書いてた小説のを読んだあの犯罪集団が何かを察してあなたに声をかけたらしいの。それであなたも私と同じプログラムとして生き続けるなんてね。」


「ほんと、ここに来るまでどれだけ時間をかけたことか....」


「行こうか」


ミリカは僕に手を差し伸べた。

あの時の配信の画面越しで見た笑顔のように。


「もう、辛さは十分だ」


その二人は渋谷のスクランブル交差点から離れていき、二人の存在はプログラムの中で生き続け、生前に遺した小説の最終話はハッピーエンドで日本中を感動の渦に巻き、映画まで公開されることになった。



ある日推しが死んだ 完

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