独自の美しい、愛の世界があります。
文章は硬質ですが、けして読みにくい、難しい、という事はありません。
普段、ボーイズラブは読まない、という方でもオススメします。
ただのボーイズラブではないのですよ。
じゃ、何?
ヒーロー、正年は、「男であっても、女であっても、君が好きだ。でもこれは、叶わない恋だ……。」
で、説明つくでしょう。
でも、主人公は……。
言い表せる言葉がありません。
それだけ、繊細で、深く、うつろう感情なのです。
そして主人公は不治の病におかされています。
線は細く、顔は美しい……。
昭和初期の軍部の暗躍の影。
色濃いロマンス。
文学の香り。
繊細な感情表現。
隙のない話はこび。
満足の最終話。
夜のしとねの表現もありますが、不快にはならないでしょう。
だから、男性読者にも読んでほしいなあ。
実は随分前に序章を読んでいて、読んだ瞬間「これは一気に読みたい」と寝かせてしまっていたいち読者です。
日々の応援が作者さんの力になると分かっていれど、案の定あまりにもどっぷりと浸りつくしたい作品でありました……!
大正から昭和初期にかけての日本が舞台のこの話は、歴史上の事件も絡んできます。しかし、病弱な主人公故にそういった内容はずっとどこか遠い扉の向こうの話で、故にこそじっくりと内面の話に浸れます。
性差、惑い、そして大事だからこそ守りたいという登場人物たちの深い愛。主人公の雪代や主要キャラである正年だけに他ならず、皆が皆しっかりとした意志を持って「病弱で何も出来ないと嘆く雪代を、どうしてこんなにも想っているのか」が十二分になるほど伝わってきます。読んでるこちらも、雪代に魅了されてしまうくらいに。
作品どころか作者さん推しの読者でありますが、やはり変わらず「我慢強く高潔で優しさに振り切れている軍人」を描くのが上手すぎる。激情を押し殺しながらも理性的に相対する彼らの姿が、ぐっと胸に来ます。
全てを読み終わった後に読み返すと、「よくここ、こんなに冷静に対処出来たな!?」と思うこと山の如しで、かつ読みながらでもこのしんしんと静かな文体でするすると描かれる話の中に潜む、燃え上がるような情念の炎が垣間見えるのが、凄まじい筆力だなと感じ入りました。
優しさや愛の表し方にも千差万別あり、そこに正解も不正解もないのだと。苦しく、受け入れがたく、故にこそ離れがたい。
思いが深すぎて苦しいぐらいの作品を読みたい方、是非こちらの作品を。
圧倒的な解像度で描かれるこの世界に、私と同様にどっぷりと浸って欲しいです。
舞台は明治・大正期から太平洋戦争に至る戦前日本。その時代を指でなぞるように追いながら綴られる、病弱な男主人公と彼を見守り愛し通した軍人、そのふたりの物語です。
男同士の愛情が軸になったストーリーですのでBLという括りで捉えられる方もいるかもしれません。ですが、わたしは敢えてその言葉でこの物語を語りたくない、と読み通し思いました。たしかにここに書かれたのは愛ではあるけれど、そこには性愛ではなく、もっと精神的な関係性が描かれているように思われたからです。
でもプラトニック、というのも何か違う。
わたしはこのふたりをどう表せばいいか、いい言葉が見つからず、読み終わったいま、正直、ただ、戸惑っています。
しかし、戸惑いながらも、この物語には大きく「性」、特に「男性性」の持つ「矛盾や理不尽」が戦前日本という社会を通して色濃く描かれているのは間違いないと感じます。なにより、それを奪われそうになりながらも「男」という性のまま人生を全うした主人公の在り方に、それが現れているように思います。
うつくしく、はかなく、残酷で、でも確かに存在した魂の交流。時代という抗い難い流れのなかでも、ひとはかがやく。それがたとえ仄かな熱のやり取りであっても。その光を心に灯してください。
BLと称してしまうには、あまりにも清廉でプラトニックな物語です。
舞台は大正から昭和初期。生まれつき身体の弱い主人公・雪代と、その幼馴染で軍人となった青年・正年の関係性が、丁寧に綴られていきます。
家同士の力関係。時代の流れ。同性同士であること。そして雪代自身の病。
物理的に侭ならぬものにばかり翻弄され続けた二人が得たのは、明日の日の目も見えぬなか、互いに互いをよすがとする唯一無二の魂の結び付きであったように思います。
正年が雪代の鎖骨をなぞる指先は、雪代が文字をつづる指先につながっていたかもしれません。
二人して紡いだ物語をもどかしく、非常にしんどい思いで見届けさせていただきました。
全体的に白い色の際立つ描写に、時おり挟まれる赤の衝撃が印象的でした。
だけど最後に残った色は、やはり白だと思います。
何にも混じることのない、純粋で美しい骨の色です。
本当に素晴らしい物語でした。ありがとうございました。
ありがたいことに、はじまりから、最終話まで、ほぼリアルタイムで拝読させていただきました。
そして、今泣いています。
完成された物語を読めるということは、物語を愛するものにとって僥倖です。
書く物にとっては脅威でもあります。
いやしかし、すでにそんな次元のものではありません。
妬心となるどころか、ただただ、この凄まじさを仰ぎ見るばかりです。
主人公二人の物語は、その背後にいかんともしがたい時代を背負っています。
時代に翻弄され、生まれ持ったものに押しつぶされ、それでも長い時間をかけて二人の結論にたどり着きます。
それをずっと見守らせてもらえた、幸福で苦しくて堪らない日々でした。
ああだめだ。
だめだなあ。
今はもう、ただ哭くしかできない。
この凄まじさを自分の言葉では伝えきれんのです。
ほんとうです。無理ですよ。すごいんだもの。
時代というものは、我々の前にも後ろにも横たわっている。
これは確かにかつてあった時代。我々の後ろに横たわる時代のことだ。
今では治せる病を、治せなかった時代。
今では赦される生き方を、赦されなかった時代。
その中にありて、何をよすがとするか。
何を支えにし、何を選び、何を守るか。
揺らがぬことは美徳であるのかもしれないが、後戻りできぬことであるのかもしれない。
そうして彼らはある意味で時代に翻弄され、その波間へと消えていく。
そんなうねりの中の、ある一瞬にいた、そんな彼らの物語である。
どうか、彼らの生き様を見守って欲しい。きっとなにかあなたに残るものがあるはずだ。
ぜひご一読ください。