6 センチメンタル・ライフ

 学校からの帰り道――オレは近所のスーパーで買い物をした。

 今日の夜ごはんの材料を買うためだ。


 非常にトホホな話なのだが、オレには両親がいない。

 彼らはオレが小さい頃、二人とも病気で他界した。


 以降、オレは親戚内を転々と渡り歩くセンチメンタル・ライフを送ってきたわけだが、高校入学と同時に後見人から独立を許された。

 よって今、晴れて親たちが生まれ育ったこの鶯岬町に引っ越してきたわけである。


 独立の際、後見人から両親の遺産を毎月少しずつ入金してもらえることになった。

 彼女の話では、とりあえずオレが大学を卒業し、独り立ちできる程度のお金を彼らは残してくれているらしい。

 とっくに亡くなったとはいえ、両親には感謝しかなかった。


 しかしもちろん贅沢はできない。

 借りたばかりの古いアパートに帰ると、オレは早速料理を始めた。


 料理を作るのは慣れている。

 いつか独立した時のために、オレは各親戚んちの夜ごはんをすべて作らせてもらっていたからだ。


 あっという間にカレーを作り終え、オレは一人でそれを食べる。

 うん。我ながら実に美味いカレーだ。

 具のゴロゴロ感がなんとも素敵である。


 カレーを食べ終え部屋で寝転んでいると、オレは早乙女先輩のことを思い出していた。


 早乙女先輩は今、何をしているのだろうか?

 食事は終えたのだろうか?

 もしかして塾とかに行ってたりするんだろうか?

 そして――彼氏とか、いるんだろうか?


 たぶん、いるのだろう。


 なにしろあのルックスだ。

 いくらツァーリ・ボンバ級の地雷とは言え、周りの男たちが放っておくわけがない。


 学生時代の恋愛なんて、容姿とスクールカーストのポジションだけでほぼすべてが決まっていく。

 あれだけの美少女であればカースト上位であるのは明らかだし、そんな女の子にはそれなりの男がくっついているものだ。

 

『また部室に遊びにきてね!』


 彼女はそう言ったが、オレはもう鶯岬デンパ塔に行くことはないだろう。

 所詮オレは、彼女のような美少女とコーヒーを飲めただけでも超ハッピーな人類最下層あたりの人間なのだ。


 オレはたぶん、これからも一人だ。

 ずっと一人だ。

 おそらくそれはオレがこの世に生を受けた瞬間から決まっている。


 たまにオレは、両親もいない自分のロンリーな人生に泣けてくることがある。

 だけど不幸自慢はものすごくダサくて貧乏くさいので、オレは笑いながら生きていきたい。


 それにどっちみち、誰だっていつかは一人に戻っていくのだ。

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