無題名の本棚
るあるな
美しい彼
こんにちは。
ここは過去の物語を集めた
ここにいらっしゃったということは、読みに来たのでしょう。
歓迎いたしますよ、お客様。
それでは早速、どうぞこちらへ。
物語は、すぐに始まります。
月が綺麗で、虫の声が煩かったあの日。僕は友人を殺しました。仕方なかった
んです。彼が死にたいって言うから。
僕はただ、手伝ってあげただけなんです。
あの日、彼は笑顔で、見えない月を眺めて、「死にたい」って。僕の目の前で呟いたんです。
月明かりの所為でしょうか。その時の彼が嫌に美しく見えて、君がそう望むならと、僕は痕が残るほど強く、彼の首を締め上げました。
彼がどんなに抵抗してもお構いなしに、煩い虫の音が聴こえないほど、夢中になって。
彼は思っていたよりずっと軽くて、僕が首を掴み上げると、その身体は容易に宙に浮きました。
自分の身体の重みで苦しくなるものなのに、あまりにも軽いものだから、彼は普通よりも長く苦しみもがき足掻いていました。
そんな抵抗も僕からすれば可愛いほどにか弱いものでしたが。
彼は死に際も美しかった。
抵抗を諦め、だらりと垂れる手。彼の目から光が消えていく瞬間。僕はこれ以上ないほどに惹かれました。
あれほど死人を美しいと思い惹かれたのは久々でした。
ですが、手伝いだったとはいえ、人を殺したことには変わりありません。
きっと僕は罪に問われるでしょう。でもそれは仕方ないこと。
美しい彼が美しく死にゆく様を、僕だけが見ていたんだから。
独り占めしてしまったのだから。
まぁ、人殺しなんて初めてじゃないし、今更なんですけど。
できることなら、もっと彼を沢山殺したかった。
あそこまで美しいと思う人は珍しいんです。
表情や身体を美しい姿のまま維持して死ねる首締めもいいですが、まだ他にも素敵な殺し方が沢山ありましてね。
様々な死に方をした彼の死体を想像するたび、惹かれるんです。
様々な宝石を見てどれも欲しくなるのと同じなんです。
いろんな殺し方で殺したかったなぁ。
きっとどんな殺し方でも美しく死ぬんだろうなぁ。
そう思うと、あの日彼を殺したことを少し後悔してしまいますね。
もっとちゃんと話して、彼がどんな人で、何が好きで、何が嫌いなのか。
彼の全てを知りたかった。
そうすれば、彼に一番合う殺し方で殺してあげられたかもしれないから。
きっと、どの死に際も美しいんでしょうけど。
あぁ、でもあの殺し方はきっと彼でも駄目でしょう。
爆死と焼死。それと溺死。
どれも死に際はいいものになるんです。ですが重大な問題がありまして…
爆死は美しい死体が残らないのでまず論外です。焼死も形は残りますがほぼ焼け溶けて原型が崩れるのでこれも駄目。
そして溺死。これは死んだ直後はまだ美しく見えるでしょう。ですが溺死は体内に水が残るため、死体が腐りやすいのです。
すぐに醜い死体になってしまっては元も子もないのでね。
この三つは僕がこの世で何よりも嫌うものです。
この死に方だけは死んでもしたくないものです。
ですが嫌いな殺し方があれば、好きな殺し方もあるわけでして。
僕は薬殺と刺殺が大好きなんです。
薬殺は身体の損傷が少なく、穏やかな顔のまま死なせれることが多いので、まだ生きているかのような美しい死体になります。
何より、相手が苦しまずに死ねる。いいものですよ、薬殺は。
刺殺は自分自身で手をかける際によく行います。
刺殺の際は致命傷となる位置は外して、苦しませながらじわじわと殺すんです。
たまに失血死で死ぬこともありますが、それもまた美しい。
それに、刺殺や落下死は死体に紅い血の華が咲くんです。
その華が死体の美しさを底上げするいいアクセントになるのですよ。
ね?素敵でしょう?
…美しいと思う人を何故殺すのかって?
確かに人が輝くのは生きているその瞬間。
ですが、それは生きる希望を持っていること前提の話。
今回僕が殺した彼は笑顔で、嬉々として死にたいと言っていたんです。そう言う彼に輝きは見られず、僕から見たら顔こそ笑顔なものの、その目は世界に絶望しているような。
彼は既に、希望という光を持ち合わせていなかったんです。
望んでない苦しい世界で醜く生きるより、笑顔でいられるうちに、美しく死んだ方がいいでしょう?
ねぇ、知ってますか?
人ってね、死ぬ瞬間が一番儚く美しいのですよ。
夢中になって長々と話してしまいました。
そろそろお時間のようです。
あ、くれぐれもこのことはご内密に。
もし誰かに話したりしたら、一番狂った殺し方で殺してしまうかもしれませんから。すぐに死ねない、どんなに足掻いても抜け出せない生き地獄を。
ふふ、冗談ですよ。
でも、もし本当に言ったなら、その時は覚えておいてくださいね。
それでは。もう会わないことを願って。
さようなら。
おかえりなさいませ。如何でしたか?
楽しんでいただけたなら幸いです。
またお話をご用意しておきます。
是非またお越しください。
それでは今日はこれにて閉店でございます。
無題名の本棚 るあるな @Nemunya417
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。無題名の本棚の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます