第26話 続く冒険者生活
ゼストたちに襲われてから、ひと月ほどが経った。
あれからゼストたちがこの街に姿を現すことはなくなり、ギルドに貼られていたマシロの手配書もいつの間にか取り外されていた。
マルメさんづてに聞いた話だと、俺たちに放置されたゼストはあの後王都に戻ったらしい。
ただし、ルーフェにかけられた呪いにより、マシロの情報を喋ることもできないゼスト達は何も成果を持ち帰らずに戻ったことになり、依頼主の怒りを買ったらしい。それにより、Sランクだったゼスト達はAランクに降格になったそうだ。
マシロの捕縛依頼のように誰でも受けることができる成果報酬型の依頼では、降格になる理由などないはずだが、今回マシロを狙った人物はギルドのルールを捻じ曲げることができるほどの権力なり金なりを持っているということだろう。
(ま、今のところ俺たちには関係ないけどね……)
向こうから関わって来ない限りは、俺達から近づこうとも思わない相手だ。このままスルーできるといいな。
俺たちはと言うと、もとの生活に戻って相変わらずサポートパーティとして依頼に参加することを楽しんでいる。
これはこれで楽しいのだが、だんだんとルーチンワークのようになってきてしまって、俺は飽きを感じ始めていた。
それはマシロも同じようで、最近はいつにも増して集中力に欠けているように見える。
今もあくびをしながら、マシロはルーフェの話を聞き流している。
今日俺たちはBランクパーティのサポートとして参加している。今回の依頼は魔物の討伐ではなく、素材の探索がメインなので、はっきり言って俺たちがやることはほとんどない。
それでも、俺たちが呼ばれたのは幸運を呼ぶマシロ様のフォーチュンホワイトパワーによるものだ。
誰が言い出したのか、噂に勝手に尾ひれがついて、狙った素材を確実に手に入れられるなんて話になってしまっている。そんな力ないのに……。
「そろそろ別の町に行くのもいいかもなぁ」
ぼそっと、そんな言葉が俺の口から漏れた。
「レイトどこか行くの?」
俺のつぶやいた言葉にピクリと耳を動かしたマシロが、後ろを歩いていた俺に振り返る。
「あぁ、生活基盤も整ったし、この町を拠点にしていろんな町に行こうかなぁってな」
俺の話を聞いて、ふらふらとただ揺れていたマシロのしっぽが徐々に持ち上がる。
「マシロも行くだろ?」
「いいですね! 私海見てみたいです!!」
俺の言葉に反応したのは、ルーフェだった。
「海かぁ、それもいいなぁ」
きれいな海だったら見るだけでも楽しめるし、何より海産物を久しぶりに食べてみたいと考えただけでよだれが出てくる。
「マシロは? 何か見たいものあるか?」
「……ゆき」
「雪?」
「レイトがいってた『ゆき』、こおったあめ、みてみたい」
そういえば、マシロの名前を決めるときにそんな事言ったっけな。
あんまり興味なさそうだったけど、覚えてたんだな。
「そうだなぁ、それじゃあ、海の見える町に行って、それから北に行って雪の降る町にもいくか!」
「うん」「はい!」
マシロとルーフェが俺の言葉に賛同してくれる。
そうやって寄り道しながら、最後には魔王を倒すんだ!
……ん? そういえば、この世界って魔王いるのか?
いまさらながら、俺はそんなことを思う。
まぁ、いっか!
まだこの世界には来たばっかりだ、これから旅をしながら色々と知っていけばいい。
さてと、じゃあ次の町では、王族と知り合いになったり孤児院でも救いますかね!
おしまい
テンプレ通りの異世界生活 猫山知紀 @necoyama
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