第2話 悪い思い出

「仲良し」から、一歩進んだあの日から、何日がたったのだろうか。

彼女の様子がおかしいことに気が付いた時には、もう、すでに遅かった。

僕が、自分と違う性別の「仲良し」と関わっていると、

彼女の鋭い目線が僕の心を突き刺した。

僕の周りの人に対する嫉妬、僕に対する憎悪は

すでに僕への愛を大きく上回っているようだった。

彼女の心はもう完全におかしくなっていた。

そして、もう二度とあの頃の彼女は帰ってこない。

それは、一度割れてしまったガラスが戻らないように。

そんな彼女の視線に気づいたみんなは少しずつ、僕から距離を取っていった。

きっと、よからぬ嫉妬を買いたくないのだろう。

僕たちは「仲良し」と言えど、あって一年もない僕らの友情なんてそんなものだった。


そして、気づいた時には、元の状態に戻っていた。

元に戻っただけなのにも関わらず、一度手に入れたものを失うことは、

とてもとても辛かった。

それからのというもの、僕は今までと同じ人生に戻っていった。

僕は、初めて手に入れた幸せを失ったのだ。

思い返してみても、僕の人生は彼女に狂わされた。

彼女がいなければ、「仲良し」なんて、出来なかった。

彼女がいなければ、幸せ、なんて感じられなかった。

彼女がいなければ、大切なものを失い、喪失感を感じることなんてなかった。


「別れよう」


これが、理性をほとんど失った僕が唯一、理性的に導き出せる回答だった。

感情的になってもよいことなんて、何もない。それが生まれてからの16年で

学べたことだった。

しかし、彼女と出会っての1年で、その考えは簡単に塗り替えられてしまった。

実際、この1年は、今までの人生で一番感情を露わにしたし、一番楽しかった。

でも、僕は、そんな自分が嫌だった。

人と関わって、喜ぶ自分が嫌いだった。僕は、一人狼でクールな奴なんだから。

そう考えないと、失ったものを思い出し、胸が切り裂けるように痛むのだった。

やっぱり、別れるしかない。その意思はだんだん強固になっていった。

しかし、一筋縄で、別れることはできないだろう。

そのことも見越して、僕は様々な作戦を用意していた。

ここで、僕は隣にいる彼女に声をかけた。


「明日、屋上に集合しよう」

いきなりしゃべったからか、内容が衝撃だったのか、

どちらが理由なのかはわからないけれど、

彼女は驚いていた、でもすぐに笑顔になって

「楽しみにしとく!」

と返事をしてくれた。

「ありがとう」

そう伝え、僕は家についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤバイ恋人【5話完結】 kaigara3 @kasaki_0928

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ