ヤバイ恋人【5話完結】

kaigara3

第1話 いつもと違う帰り道

公園を出て、重たい足を前に進める。

コツコツという足音が僕の心臓を揺さぶる。

いつもと同じ道だが、安心できないのはなぜだろうか。

といっても、理由はわかっているのだが。

血のような鮮やかな夕日が、僕に鮮明に思い出させる。

あの日見たどす黒い赤色の血を。

「ゆーくん?どうしたの?」

自分の心が揺れ動くのを覆い隠すように、元気に声を返す。

「元気そうでよかった!心配したよ?」

桜島のように高い声が、耳の渦巻きを刺激するが、

そんなことを悟られないようにと、心の中の悲鳴を隠し、微笑み返してあげた。


僕の彼女はきっとおかしい。

いや、「きっと」なんて言葉で済ませないことは自分が一番わかっている。

彼女と話していながらも、僕の心は彼女のところにはなく

なぜ、こんな状況になってしまったのかを思い返していた。


彼女と出会ったのは、高校に入ってすぐのことだった。

当時、一人で、周りの視線におびえながら、文庫本を読んでいた自分に

「仲良くなりたい!」と、声をかけてくれた彼女に応えた。

今思い返せば、きっとこれが間違っていたのだろう。

もしかしたら、小学校・中学校と、友達という存在がいなかった僕にとって

「仲良し」という響きには憧れがあったのかもしれない。


その後彼女と仲良くなり、時が経ち、新しい学年へ進級する前に、

彼女に仲良しのさらに一つ上の段階に進む提案を受けた。

勿論僕に断る理由なんてなかった。


そこから僕の人生は、星のように輝きだした。

いや、夕焼けのように、というほうが正しいのかもしれない。


今まで僕のことを幽霊のように扱ってきたクラスメイトは、

ぼくに声をかけてくれるようになった。

大体はプリントを渡したり、授業についてだったり

みんなにとっては当たり前のことだったのかもしれないけど、

僕にとってはそんなことがたまらなくうれしかった。


彼女と「仲良し」ではなくなってから、

その枠を埋めるように、新しく「仲良し」といえる人も少しずつ増えてきていた。

新しくできたばかりの「仲良し」と他愛もない話をする。

そんな瞬間が僕の人生の中で、一番幸せだった。


しかし、そんな幸せが長続きするわけはなかった。

物事が壊れる瞬間というのは、頭ではわかっていても想像よりあっけなかった。

それは美しい夕焼けがすぐに沈んでしまうように。

彼女の僕への愛は気づかぬうちに膨れ上がり、

そこには、愛を超えた、憎しみとも取れる感情があった。

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