ハンター辞めたい

 特に何事もなく、ハンター協会の前に着いたところでセレネに声を掛けられた。


「あ、あの、マスター?」

「ん? どうしたの?」

「えっと……何故、ハンター協会に?」

「僕がニコーラさんに呼び出しを受けたからだよ」


 何を今更言ってるんだろう。……あ、もしかしてまだ言ってなかったっけ? 


「め、メロンを食べに行くんじゃないんですか?」

「帰りにね」

「ほ、ほんとですか? ほんとにそれだけですか?」


 ……僕ってそんなに信用ないかな。……まぁないよね。僕は自分が無能ってことを理解してるから、良いんだけどさ。


「そうだよ」

「わ、分かりました」


 僕達はハンター協会に入った。

 僕は受付の人の元へ行き、ニコーラさんに呼ばれたことを伝えた。

 するとすぐにニコーラさんの元へ案内してくれた。……僕だけ。

 セレネも連れてってくれるように粘ろうと思ったんだけど、もしかしたら僕の必殺技の土下座を炸裂させることになるかもしれないから、やめておいた。

 僕にもプライド位はあるんだよ。……だってセレネは唯一僕を慕ってくれてる後輩……のはずだから。


 そんなわけで僕は支部長室に来た。もちろんセレネには待ってもらっている。


「来たか」


 支部長室に入ると、どっしりと腰を下ろし座っているニコーラさんがいた。

 

「……僕は何もしてませんよ?」


 僕はすぐにそう言った。……仮に僕の幼馴染達が何かやったんだとして、今はこの王都に居ないんだ。僕は関係ない。知らない! そういう意図を込めて言った。


「ん? あぁ、今日はそういう目的で呼んだんじゃねぇよ」


 思わず僕が反射的に土下座をしそうになるような声でそう言うニコーラさん。


「え、違うの? それならそうと言っておいてよ。まったく」


 やれやれ、と僕はニコーラさんの前に座った。

 怒る目的じゃないのなら、怖いものなんてないよ。こんな筋肉ダルマみたいな見た目してるけど、何もしてない人を殴ったりするような人では無いから。……まぁ、人間かどうかが1番怪しいけど。


「お前は……まぁいい。取り敢えず今日呼び出した目的は、お前一年以上仕事を受けてないだろ」

「そうでしたっけ?」

「あぁ、このままじゃお前のハンター資格を剥奪しなきゃならない。お前は表に出てる功績が少なすぎる」


 え、何それ最高じゃん。

 そんなことを言われて僕が依頼を受けるはずがない。

 ただ、バカ正直にそんなことを言ったら、絶対に受けさせられる。

 ん? というか、表に出てる功績が少ないってなに? まるで僕が裏で色々してるみたいじゃん。……ニコーラさんなりの冗談かな? だとしたら、顔に似合って下手な冗談だ。


「ハンターを辞めなきゃなのは困るけど、僕だって忙しいからなぁ……」

「そういうルールだ。ハンターになる時に説明を受けたはずだろ」


 ……いや、知らないけど。……まぁ、僕が覚えてないだけで、きっと受けたんだろうな。

 

「まぁ、仕方ない。そろそろ引退時だと思ってたんですよね」

「おい、ちゃんと受けてもらうからな?」


 あ、不味い。ニコーラさんがキレかけてる。

 頭が赤いメロンになりかけてるから、間違いない。


「いや、僕だって受けたくなくて言ってるわけじゃないんですよ。予定が空いてないんですよ。だから、仕方なくなんですって」


 僕がそう言うと、ニコーラさんの赤いメロンになりかけてた頭が元に戻る。


「チッ、だったら特別だ。三ヶ月は待ってやる。それ以内にやれ」


 ……やりたくない。ハンター辞めたい。でも、これ以上変なことを言って三ヶ月の猶予が無くなるのも困る。……仕方ないか。


「……分かりましたよ。じゃあ、適当な依頼を見せてください」


 まぁ、三ヶ月もあれば、僕の幼馴染達も帰ってくるでしょ。

 別に僕が一人でやらなくちゃならないなんてルールはないしね。


「あぁ、この中から選べ」


 そう言ってニコーラさんは、何枚かの紙を取りだした。

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違う、強いのは僕じゃなくてこのスライムなんだ〜だから祭り上げるのはやめてくれ〜 シャルねる @neru3656

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