第6話
その日の午後、ボッターズマジカルショップの気のいいおじさんで通っていたクーリン・ボッター氏が王立魔法学院の入試試験への不正行為を目論見、王立魔法騎士団に捕まるという大スキャンダルが起こり、城下町のニュースはそれ一色となった。
晴れて無罪放免で家に帰ったマリールとトムは、連れていかれるところを目撃した近隣の住人達に取り囲まれ、延々と同じ話をさせられるハメになったのである。
トムの事を心配していた母と妹は安心し、今度は嬉し泣きをすることになった。
その時、奉公に出かけていて家にいなかった弟は、一部始終を聞かされてとにかく驚いていた。
トムが帰ってきて安心したばかりの妹は、今度は、文房具とお菓子をくれたおじさんが悪い人だったと聞かされて、しょんぼりとしてしまった。
ただ今回の騒動のお詫びとお礼として、王立魔法騎士団が焼き菓子をたくさん持たせてくれたので、あっという間に落ち込んだ気持ちは飛んで行ったのであった。
マリールの方はうんざりとした顔で、近隣店舗の住人達に連れていかれてから男を捕まえるまでの話をし、隙あらば家に入ってしまおうとして引き止められるという攻防を繰り広げた。
そんな騒動が終わり、一カ月が経った頃、延期された王立魔法学院の再入学試験が実施されるという話が流れてきた。
トムはまた、まじないのかきいれ時が来たと喜んだ。
しかも今回は、一番の大手ライバル店であった『ボッターズマジカルショップ』がいないのである。
これは追加の給金を見込めるのではないかとトムは張り切り始めた。
それを見てマリールはうんざりしている。
前回よりも、もっと早起きして店を開けましょうよと言われているからだ。
そうでないと全員にお守りが渡せないからと。
出来るバイトくんが出来過ぎても困るなとひそかに思った。
しかし、これは良い面でもあった。
今まであまり勉強に熱心でなかったトムが、そこそこやる気を見せ始めたのである。
理由を聞いても何も教えてはくれないが、恐らく、良い人と思った人物に騙されていたことから知恵を付けたいと思ったようだった。
それから王立魔法学院や王立騎士団といった、普段は関わりのない人物達に出会い、何か刺激を受けたようであった。
理由はなんであれ、基礎学習がちゃんと終われば魔法使いの弟子としての修行も始められるなあと、マリールは喜ばしく思っている。
そんな準備をしていると、店の扉が開いた。
「やあ、こんにちは」
「あ、エドワードさん、こんにちは」
「明日の準備かい?」
「そうなんです。明日はきっとたくさんの受験生が来ますからね!早起きしないと」
「張り切ってるねえ」
にこにこと嬉しそうに話している。
あれから何故か時々、エドワードとドーレーンが店にやってくるようになった。
ドーレーンはエドワードが来るので仕方なくついてきている感じだが、エドワードの方は来てはとりとめのない雑談をして帰ってゆく。
これといった目的があるようではないが、騎士団長ともあろうものがそんなに暇とも思えない。
食えない奴じゃ、とマリールは思っている。
「今日は何の用じゃ?」
「うん、ちょっと近くに来たものだから。顔を見ようと思ってね」
「あいにくじゃが、本日はもう閉店しようと思っていたところじゃ。見ての通り忙しくての」
「邪魔しちゃ悪いねえ」
そう口では言うが、全然悪いと思ってる様子もなく、しかも帰るそぶりも見せない。
「なんじゃ?」
「いや、受験生達のもらうまじないって物に興味があってね。
私とドーレーンももらえないものかと」
「そんなもの必要ないじゃろう」
「いやいや、この間みたいな事があると困るから。国王に怒られてしまうしね。騒動が起こりませんようにって願掛けをしたくてね」
「うむ。団長がそう言うのでな。このように参ったのだ」
「えっ団長様と副団長様にお守りが販売出来るんですか?!すぐ準備しますね!」
トムが食いついてしまった。
「やめるのじゃ!あれは受験生以外には売らぬ!」
「えーいいじゃないですか。王立騎士団御用達って書けますよー」
「そんなものは要らぬ!」
だいたい、あのへんてこ踊りをこの2人の前で披露するなんてことは絶対にやりたくない、とマリールは思っているが、トムはお金に目がくらんでいる。
それならば、適当にまじないの小袋だけ売ればいいのだが、それはなんだか出来ない性分なのである。
にこにこと貰うまでは帰らないぞという圧を高めて、エドワードが居座っている。
「騎士団長というのは忙しいのではないか?」
「もちろん。これがなかなかに忙しくてね」
押し問答で時間を稼いだところで無駄なようである。
「トム、準備をするぞ…」
マリールは観念して、2人のためにまじないのパフォーマンスを行い、小袋を渡してやった。
エドワードはとても喜び、ドーレーンはぽかーんと口を開けていた。
魔法使いマリールのハッピー雑貨店 吉備田キビ @ooruri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます