第5話

 取り押さえられた男はどうやら、魔法抑制剤を飲むチェック係をしていたということだった。

 男はある人物から、粉を渡されて、それを指定通りに入れる代わりにお金をもらったそうだ。朝渡されたリストに従って、指定された学生が飲むときだけその粉は入れなかったのだそうだ。

 そのリストの学生というのが、マリールの店でまじないを受けた者達ということだった。

 その男に依頼した人物というのが

 「クーリン・ボッターじゃろう」

 「えっどうして分かるんですか?」

 自信満々に答えるマリールが不思議でトムはたずねた。

 「『ボッターズマジカルショップ』の店長じゃないですか。そんな人がなんで」

 ボッターズマジカルショップは3年前に出来たお店で、ちょうどトムがハッピー雑貨店で働き始めた頃だったのでよく覚えている。

 恰幅のいい、いかにも商人といった感じのおじさんで、山高帽に蝶ネクタイにサスペンダーという可愛い恰好で風船を配っていた。

 派手なまじないをやったり、流行りのグッズを売ったりしていてとても若者に人気があるお店で、行くだけでわくわくするのでトムも大好きで、意味もなく妹や弟を連れて遊びに行っていた。

 そのうち、ハッピー雑貨店の店員と分かると、「同業者のよしみだ」と言ってお菓子や文房具をくれるようになった。トムの生活はいつもカツカツだったので、贅沢品をプレゼントしてくれるおじさんは妹と弟のヒーローになっていた。なので、流行っているお店の店長は気前がいいなあと、トムもとても好きになり、そのうち恩を返そうと思っていたのだが。

 「どうなんじゃ?」

 「う、そのとおりだ」

 苦々しい顔でドーレーンが答えた。

 「どうして分かったんだ?あの犬はなんだったんだ?」

 ショックを受けてるトムの横で、淡々と話は進んでいく。

 「去年、うちの店の悪いうわさが流れたのじゃ」

 「そういえば、そんなことがありましたね。そのせいでお師匠様、今年は全然やる気がなくて…」

 「そこはいいのじゃ。とにかくわしはそのうわさの出所を調べていたのじゃ」

 「えっそんなことしてたんですか?」

 「うむ、落ちた者が苦情を言いに店に来ることはたまにあるが、わざと広めようとしているフシがあってな。その前から時々変なうわさが流されておったので、作為的なものかどうか確かめなくてはと思ってな」

 「へえ、それは大変だったね」

 まるで他人事のように、にこにことエドワードが相槌を打つ。

 「おぬし、まったく他人事で聞いているようじゃが…」

 「いやいや、それで?」

 「まあとにかくそれで、ボッターが根も葉もない話を客に吹き込んでいることが分かったのじゃ」

 「えええーそんなぁ…いい人だと思ってたのに…」

 「残念じゃったな。大方、おぬしに良くしていたのもこちらの情報を聞き出すためじゃろうな」

 「トム君、辛いね。それにしてもボッター氏は何故そんなことを?」

 「ライバル店を貶めるためか?」

 ドーレーンが言う。

 「そうじゃ。城下町の魔法やまじない関係の店をすべて潰してしまえば、値段を上げ放題じゃからな。今まで商売をしてた町でも同じことをしてきたようじゃ」

 「ひ、ひどい」

 「しかも嫌がらせを分からないようにやって、閉店した店舗の在庫を安く手に入れてまた販売していたようじゃな。愛想が良いから、閉店した店主達は気付いておらんかったようじゃ。むしろ在庫を引き取ってくれてありがたいと言っておった」

 「めちゃくちゃに悪人じゃないか」

 「そのとおりじゃ。それに気付いたから変な罪を着せられたようじゃな」

 「いつ気付いたんだい?」

 「ここに来てからじゃな。話をしていくうちにどうも学生同士のいざこざではなく、わしを狙ったものではないかと思ったのでな」

 「なるほど。しかし大講堂で魔法を使えたのは何故だ?結界があったはずだろう」

 うーん、と難しい顔をしながらドーレーンが聞いた。

 「あ、そうですよ。とっても綺麗でしたけど、不思議だったんです」

 トムも不思議そうな顔をする。

 「それに関してはわしよりそっちに聞いた方がよいのじゃ」

 そっち、とエドワードを指す。

 「え?団長どういうことですか?」

 「うん、実は大講堂に行く前、飲み物に混ぜたと思われる薬品を頼まれたんだけど、その時に魔法を使わせてほしいから結界を一部解いて欲しいってお願いされたんだよ」

 「そういうことじゃ。無理に破っても良いが、それだと犯人に気付かれるのでな」

 「えーなんだぁ、そういうことでしたか」

 分かってみれば単純な事に、トムとドーレーンは脱力する。

 「はは。無理すれば破れるというのもとんでもない話なんだけどね」

 3人に見つめられて、マリールは居心地が悪そうな顔をする。

 なんじゃ早くボッターを捕まえてわしらを家に帰してくれとぶつぶつ言いだした。

それを聞いて、ドーレーンがはっとする。

 「大変だ!向こうが監督官が捕まったと知る前にボッター氏を抑えなくては!」

 大声を出して慌てだしたところをエドワードがのんびり制した。

 「大丈夫。もう向かわせているよ」

 今回の事件中、最初から最後までいいところのなかったドーレーンは、すっかり落ち込んでしまった。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る