第八話 せむすべの たづきを知らに
大川さまは弾かれたように倚子を立ち、姉上──
その異様な速さに、三虎は驚き、声も出ない。
大川さまが姉上を詰問した。
「いつ! どこで!」
肩をつかむ大川さまの力が強いのだろう、姉上は顔を
「裏庭の池の、
「どうしてそこまでわかる!」
「大川さま付の
悲鳴をあげたら、
大川さまはみるみる真っ青になり、姉上の肩から手を離した。
姉上は、顔から力が抜け、は、と息をついた。
大川さまは、
「
と
「大川さま!」
三虎はあとを追う。
「
と
「大川さま!」
三虎は大川さまを呼ぶが、大川さまはこちらを見ず、返事もしない。
いつも穏やかな大川さまの目が血走っている。腰を抜かすほど驚いた
「大川さま!」
三虎は大川さまの肩をつかみ、力づくで自分のほうに身体の向きをかえさせた。大川さまの、半分おろした黒絹のような髪が、ぱっと散った。
大川さまは噛みつくように怒鳴った。
「離せ! 急がないと
「落ち着け! 闇雲に探す気か! 見つからないぞ!」
「………。」
「人を集め手分けして探そう。
三虎の兄上、
三虎は十二歳から卯団長として、卯団を任せられている。
「まさかとは思うが、昨日さ
「!」
言い当てたようだ。大川さまの気が立った顔がみるみる泣き顔のように歪んだ。
「そうだ。私の
「わかった! 始めからそう言え!」
三虎ははっきり言い、
* * *
暗い。
頭からつま先まですっぽり、大きな麻袋に覆われている。
身体が揺れる。
おそらくうつぶせに馬に揺られ、どこかに運ばれている。
(どうして……。)
「大川さまがお呼びです。人に知られないように、あたしと来てください。」
と言われ、
(とうとう来たわ!)
と胸を踊らせながら、あとをついて行ったのだわ。
(……さあ、どうやって、言葉の駆け引きをしよう。)
あの世間知らずな初々しい若さまを、焦らして、かと思えば、従順な笑顔を見せ、あたしに夢中にさせるのだ……。
(あたしを
あたしから離れられないようにしてやるわ……。
あたしを、絶対、
そう思いながら、屋敷の裏庭の、池のほとり、
でも誰もいなくて、
「大川さまは?」
と
悲鳴をあげる間もなく、腹をいきなり打たれた。
その後のことは覚えていない。
(恐ろしい……。あたしはどうなるの。)
何も見えないなか、比多米売は身体をぶるぶると震わせた。
馬が脚を止め、麻袋のまま馬から降ろされた。
震えが伝わったのだろう。
比多米売をおそらく肩にかついで運ぶ
「げへへぇっ。」
と嫌な笑い声をたて、また歩きはじめた。
(どうしてこんな目に。
なんであたしが。
あたしは、今頃、
きっと、大川さまは知らない。
あたしが賊にさらわれ、今、ここにいることを。)
比多米売は、縛られた口で、
「ああ、大川さま、大川さま、助けて!」
とうめいた。声は、うう、ううう、としか聞こえなかった。
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093085224280245
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