第二話 うふのしげきに
繁みのむこう、
兄上と女官の距離は近く、親しく囁きあい、人目を引く美しい顔立ちの
兄上が何かを懐から出し……、銀細工の
(うわ……。)
大川は息を呑んだ。
兄上は女官の耳もとに顔をよせて、何事が
(そんなに
あ、あれだと、
兄上は顔を離し、女官の耳上の
バッ! と兄上が鋭くこちらを振り向いた。無言で
(げ。)
見つかった。
「見世物じゃないぞ!」
兄上は冷たい顔で
顔を真っ赤にして
ガサガサ、ガサ……。女官が繁みをかき分ける音が充分遠くなったのを見計らってから、
「
たまたま
と大川は礼の姿勢をとり、謝罪した。
兄上とは、ほとんど関わらない。
大川が時々話しかけると、兄上は鬱陶しそうに、最低限だけ会話し、どこかへ行ってしまう。
そんな関係がずっと続いていた。
そして大川は、今。
好奇心に負けた。
「今のが、兄上の恋うてる
慎重に問うと、
「ふん! 遊びさ。」
兄上は酷薄に言い捨てた。
「………。」
大川は知らず、責めるような表情を浮かべてしまったのだろう。
兄上が
「は! この
おまえも好きに桃を
あまりの言いように、大川の頬が
兄上は十七歳。
大川は十五歳。
兄上の歳なら、
大川の歳では、まだ、早い。
早いが、知りもしないで決めつけられて、不愉快だ。
「私が
「おまえは
こともなげに兄上は断言した。
「遊びでも、
「兄上……!」
大川が驚くと、兄上は、じっとこちらを見た。
「
(狂った醜い翁の言葉が聞こえたが、愚かしく取るにたらない、あまりにも愚かさが甚だしいので、
蓮の葉にたまった水滴の行方が知れないように、
愚かさをかぞえることもできない。)」
大川が何も言えずにいると、兄上は、ドン! と
チッ、チッ……、 チッ、チッ……。
木立に
(兄上……。
五年前の
兄上も。)
あの亀卜のあと、皆に
「
と、兄上と大川に直接声をかけてくれた。
(───秋津島に妻はおらず、とは、どういう意味なのだろう?
私は
いくらでも、と言ったら言い過ぎであろうが、妻を何人だって持てる立場だ。
放っておいても、父上が縁談をいつか持ってくるであろう。
もしくは、いつか恋したら、その
妻はおらず、なんて状況になるわけがない。
そう考えると、あの
(なぜ、あんなおかしな
神とは、意味のない
もやもやと答えのでない、煙のような物が、ずっと、あの日から胸のどこかに、苦しげに居座っている。
喉に刺さってとれない魚の小骨のように、兄上の心にも、あの
冷たい風が吹き、
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093085859322930
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