第一話 いわがねの
折り返し ひとりし
人の
私はどうすれば良いのか、その
岩がごつごつと出た道を、床のように平らな岩が広がる
朝には出て嘆き、
夕方には門を入り
涙で濡れた
一人、ぬばたまの黒髪を敷いて寝床に横たわれば、他の人のように満ち足りて甘く眠ることもなく、
大船の、ゆらゆらと揺れるように、
心は揺れて
そうやって私が寝床で過ごす夜たちを、
万葉集 作者不詳
* * *
大川、十五歳。
冬。
───十二月。
身を切るような寒さ。
大川と三虎が、鉾の稽古をしている。
二人とも背が伸びて、そこらへんにいる
主も、従者も、よく鍛えられた、すらりと若木のような身体つきだった。
「ハァ………!」
大川は気合を発し。
右足を踏み込み、腰を低く、右脇に挟んだ鉾から、目にも止まらぬ速さで刺突をくりだした。
胸、首、左肩、次々と狙い、三虎は、長柄で防ぎ、
三虎は猛攻をしのぎつつ、トッ、トッ、トッ、
大川は
三虎は長柄で大川の鉾を、ガヂィン、と上に思い切り跳ね上げたが、
「くっ!」
大川は三虎が腕を戻すより早く、ピタリと三虎の首元に、鉾の
「うッ……!」
三虎が片膝をついた。
「そこまで!」
大川は弾む息を、冬の冷気に白く吐きながら、
「また勝ったな。」
にっこり笑って、鉾をおろした。
同じく、荒い息を白く吐く三虎は、むっと不機嫌そうな顔で立ち上がり、
「だあッ!」
天を仰いだ。悔しいらしい。
「はは……。」
大川は上機嫌に笑う。
「せっかく雪もないし、風も穏やかだ。午後は遠乗りをするか。」
* * *
すらりと背の高い二人の若い男が、
「大川さま……、大川さま……。」
若い
大川が声に気が付き、振り返る。
後ろから、三人の
「またか……。」
従者である三虎は小さくつぶやき、
あっという間に大川を取り囲んだ女官達は、頬を赤く染め、互いに目配せしながら、
「これをどうぞ……。」
真ん中の女官が、
「
大川がちょっと笑って木の枝を受け取る。
その大川が匂い立つように美しい。
薄墨で丁寧に描いたような眉。
切れ長の涼しげな目。
雪のように白く輝く肌。
半分だけ下ろした黒髪が、絹糸のように胸下までまっすぐ垂れている。
清らかな月の、白い光のような美貌。
恐ろしいことに、三人の若い女官に囲まれても、大川のほうが格段に美しいのであった。
三人の女官は、
「ほぅ……。」
とため息をもらし、大川に見とれている。
「さっそく
大川は、
女官たちは、がっかりした顔をする。
「ンン! ンンン!」
三虎は強く咳払いをして、じとっとした目で大川を見た。大川が、
「あ……。」
と三虎を見ながら
「それと私の部屋にも。」
と女官達に、にこっ、と笑いかけた。
三人の
「さあ、もう行かせてくれ。」
と
「あら、いたのね……。」
と女官の一人がつぶやき、しらーっと
三虎の眉が、イラついたようにピクリと動く。
だが、それ以外の変化はなく、無表情。
女達はすぐに三虎に興味をなくし、笑顔で大川を見て、
「それでは大川さま……。」
「たたら濃き日をや(さようなら)。」
「たたら濃き日をや……。」
と口ぐちに礼の姿勢をとり、さらさらと
そして
「キャー!」
「やったわ!」
「ふふふ……。」
と華やかな笑い声をあげた。
「丸聞こえだぞ。」
三虎はあきれたような声で、無表情のまま、言った。
大川は苦笑しながら、
「母刀自に。半分は私の部屋に。」
と、三十本はあるであろう、
「はい。」
三虎は頷き、美貌の
* * *
三虎は
(
そこまで考えて、ぷるぷると三虎は頭を振り、しょうもない考えを頭から振り飛ばした。
ちょうど大川さま付きの女官が
「おい、おまえ。これを
大川さまが女官から捧げられた物だ。
半分は大川さまの部屋へ飾れ。良いな?」
「はい。」
三虎は吊り目の女官に、山橘を全てバサリと手渡した。
すぐに来た
* * *
大川が一人で
(何だ?)
と不審に思い、繁みの向こうをそっと
繁みの向こうには、兄上がいた。
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