第二章  霜結ふ檜葉

✤登場人物一覧✤

 乙巳きのとみの年(765年)において。



 ◆上毛野君かみつけののきみの 大川おおかわ──主人公。大領たいりょうの次男。幼名は加巴理かはり。十五歳。



 ◆上毛野君かみつけののきみの 広瀬ひろせ──大川と広河の父。上野国かみつけののくに大領たいりょう。三十八歳。


 ◆上毛野君かみつけののきみ意弥奈いやな──毛止豆女もとつめ(正妻)。広河の母。三十六歳。

 

 ◆上毛野君 広河ひろかわ──長男。大川の兄。幼名は竹麻呂たけまろ。十七歳。

  

 ◆上毛野君 宇都売うつめ──大川の母。宇波奈利うはなりめかけ)優しく控えめ。三十五歳。

 



 ◆石上部君いそのかみべのきみの 八十敷やそしき──鎌売のつま上毛野衛士団長大佐かみつけののえじだんちょうのたいさ。妻にメロメロ。


 ◆石上部君 鎌売かまめ──八十敷の妻。宇都売うつめ付きの女嬬にょじゅ(えらい女官)。大川の乳母ちおも。三十五歳。



 ◆石上部君いそのかみべのきみの 日佐留売ひさるめ──三虎の姉。おっとりした微笑みの美女。宇都売付きの女官。十七歳。

     

 ◆石上部君 布多未ふたみ──三虎の兄。上毛野衛士酉団長少尉かみつけののえじとりのだんちょうのしょうい。十六歳。

     

 ◆石上部君いそのかみべのきみの 三虎みとら───大川の乳兄弟ちのとであり、従者。上毛野衛士卯団長少尉かみつけののえじうのだんちょうのしょうい。十五歳。









 ※(特別出演)獲売えるめ───遊行女うかれめ荒弓あらゆみ吾妹子あぎもこ


「ふふっ、荒弓ったら、衛士になったら美女と酒飲み放題って言ったの? 田舎の純粋なわらはたぶらかして。悪い人……。」



 ✤上毛野衛士卯団かみつけののえじうのだん



 ◆荒弓あらゆみ──大志たいし。三十五歳。


「ははは。それだけ、相撲すもうの才が目を引いた、ってことさ。実際、良い衛士になったよ。」

     


 ◆老麻呂おゆまろ──少志しょうし。三十歳。ここだけの話、ちょっと腹がでてる。


「酒飲み放題は言いすぎだ。荒弓は口がうまい。おっ、このきじの塩焼き、旨いぜ。浄酒きよさけがすすむ。」

     


 ◆薩人さつひと───ひょうきんな細長いお兄さん。二十一歳。


「ん、旨い。もぐもぐ。荒弓は口も上手いが、采配も上手いぜ。卯団うのだん大志たいしは、荒弓以外考えらんねえよ。

 おっ、来たのかよ、葉加西はかせ

 ───呑もうぜ。」

     


 ◆川嶋かわしま───寡黙で真面目、武芸に励むおのこ。二十一歳。


 きっと今頃も真面目に訓練してる。

「……よしっ、今日の素振り、終わり!」


     

 ✤上毛野衛士酉団かみつけのえじとりのだん

 

 ◆土屋つちやの 葉加西はかせ───相撲が強い鼻ぺちゃ。多胡郡韓級郷たごのこほりからしなのさと出身の衛士。二十一歳。

     


「ほ、本当だ。群馬郷くるまのさとには、美女がっ、美女がぁぁ……!」


 

 ✤女官


 ◆秋萩児あきはぎこ───宇都売付きの女官。


 ◆大路売おほちめ───宇都売付きの女官。


 ◆比多米売ひたらめ───宇都売付きの女官。十七歳。

    

 ◆於屎売おくそめ───大川付きの女官。



 


 ✤その他


 ◆伊可麻呂いかまろ───広河の乳兄弟ちのとにして従者。魚顔。十七歳。


 

 ◆木羅もくらの宇都志うつじ──韓級郷からしなのさとの郷長。宇都売の父。

     

 ◆是迩ぜに───上毛野君かみつけののきみの屋敷の下人のおのこ



 ✤この物語独特の用語。


 ・いも──たった一人の運命の女。


 ・吾妹子あぎもこ──愛人。ただし、卑下するニュアンスは無く、愛人の美称。

 宇波奈利うはなりとの違いは、


 《宇波奈利うはなりめかけとして、まわりに認められ、立場がしっかりしている。》


 《吾妹子あぎもこは、まわりに認められるかは関係ない。》




 ・言寄ことよせ──ナンパ。


 ・歌垣うたがき───田舎の郷においては、祭りの夜、成人した男女(十六歳以上)がはっちゃける夜。歌をうたってお誘いするのが礼儀。


 ・金羅真十キンラーマァソ───韓級郷からしなのさとにのみ伝わる言葉。心に輝く、誰にも汚されぬくがねの誇りのこと。




   *    *   *



 おまけ。




「だあッ!」


 三虎、十五歳。


「おおッ!」


 葉加西はかせ、二十一歳。


 上毛野君かみつけののきみの屋敷で、酉団とりのだんの衛士舎近くを歩いていた三虎は、葉加西はかせを見かけ、相撲を申し込んだ。


 がっぷり組み合うが。


 どーん。


 葉加西はかせにふっとばされる。


「はーい、葉加西はかせの勝ち。」


 布多未ふたみが宣言する。


「くっそ、勝てねえな……。」


 三虎は憮然とした表情で立ち上がり、尻についた土を払った。


「はは……。そうだな。」


 葉加西はかせは鼻ぺちゃの顔で、明るく笑う。


「次はオレとやろうぜ!」


 目をギラッギラに輝かせた布多未が、ぱん、と自分の腰をはたいた。


「よっしゃ、いけ、葉加西はかせー!」

「布っ多っ未! 頑張れー!」


 やんや、やんや、見物の酉団衛士とりのだんえじが手を叩いて盛り上がる。

 あとはなし崩しに、酉団とりのだん達の相撲大会になるので、三虎はさっさと、その場を離れる。


 三虎は卯団長うのだんちょう、大川さまの従者。

 忙しいので、なかなかこういった遊びに割く時間はない。

 別にそうと決めているわけではないが、一年に三回か四回ほど、こうやって葉加西はかせと思い出したように相撲をとる。


 いつか、相撲で負かしてやる。


 そう思っている三虎なのであった。







     ───完───

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