6 帰還


 翌日。

 中庭にはすでに地球へ帰る馬車が用意されていた。

「え? もう帰るの?」

「姫がそう言われたのでは?」

「それは、そうだけど……」

 イスンの言葉に、なんだかちょっぴり寂しい、ような。何も片付いていない、ような。中庭にはオイゼビウス王子とダナハンもいて、りんごが乗り込むのを待っている。

「この鈴を」

 オイゼビウス王子がりんごに小さな金色の鈴を渡す。りんごはそれを受け取って聞いた。

「これは?」

「この鈴を鳴らせばわがフロレスタン王国は、いついかなる時もすぐに姫をお迎えにあがります」

「……そう」

「ではいきましょうか、姫」

 イスンが促す。りんごは馬車に乗りこんだ。すると遠くからかけてくる人影が見えた。


「くそ遅れた! おーい、りんご姫! 俺はお前のこと諦めたわけじゃないからな!」

「リヒャルト王子!」

 りんごは叫ぶ。その声はどこかうれしそうな困ったような響き。リヒャルト王子は言葉を続ける。

「なんならお前を迎えに行ってもいいんだぜ! 地球にいけば兄さんたちとの年の差も縮まるっていうからな! 好都合だ!」

「……。そのときは僕も! 僕も地球に行きます!」

 少し迷っていたが、やがて強く意思を決めたようにオイゼビウス王子が叫ぶ。

「お? お前、俺とやる気か?」

「はい、正々堂々、勝負です!」

「良い度胸だ。ではりんご姫、必ず迎えに行くからな!」

「とりあえずは、よい旅を!」

 二人の王子の言葉を背に受けて、イスンが馬車を出す。

 走り出した馬車からりんごは窓から後ろを見た。

 名残惜しそうに手を振る二人の王子たちが見えた。そんな二人の王子をダナハン卿はどこかはまぶしそうに見つめている。


 目を覚ます。熱はすっかり引いていて、いまは心地よさが全身を包んでいる。まるで長いお昼寝をしてようやく目覚めたかのように。

「あれは……、夢?」

 りんごはつぶやく。でも確かにオイゼビウス王子から渡された小さな鈴は手に握られていて、あの旅が嘘ではないと物語っていた。そっと握る。

「夢じゃなかった……」

 握りしめる。フロレスタン王国で起きた出来事は本当にあったことなんだ――。感慨深げに思っていると、階下から母の声がする。

「りんごーお友達よー。なんだかどこかで見たような男の子が二人ー」

「はーい」

 鈴を置いて起き上がる。誰だろう。男の子の友達が二人だなんて。……もしかしたら。

 そんな期待とわずかの不安を胸に、りんごは玄関に向かって歩いて行った。

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第七王子の花嫁 remono @remono1889

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