5 第六王子の求婚
「俺を呼んだか?」
突然声がして。りんごは振り返った。そこにはいたずらっ子のように笑うリヒャルト第六王子が立っていた。リヒャルト王子はずかずかと二人の間に割っていき、オイゼビウス王子に
「これがお前の嫁か?」
と聞いた。
「えっと……まだ決まったわけじゃないんだけど」
りんごがオイゼビウス王子の代わりに言うとリヒャルト王子はりんごをあちこちから見る。
「ほうほう、めちゃくちゃ可愛いじゃないか」
そしてリヒャルト王子はりんごの顔をまじまじと見つめ、言った。
「なあ君、俺と結婚しないか? というか、俺のものになれ」
「ええ?」
突然のことに驚くりんご。
「俺の方が君を幸せにできるぞ。それは間違いない」
「兄さん!」
オイゼビウス王子がやや鋭く言う。
「ふん、事実だろうに」
しかし鼻で笑うリヒャルト王子。それでオイゼビウス王子は言葉に詰まってしまう。
「それは……」
「なあ、どうだ、君、考えてみないか?」
「……えっとそもそも、王子と結婚するか決めてないのに、そういわれても、困るって言うか……」
りんごはつっかえながら、自分の意思を言う。
「そうか、まだ決めてないのか」
「うん……、私まだ十一才だし……」
「りんご姫」
目線を合わせてリヒャルト王子はりんごに向き直る。
「君を困らせるつもりはないけど、俺は君がほしいと思う」
「どうして……?」
「一目惚れって奴だ!」
愉快そうに笑うリヒャルト王子。
「ほ、本心ですか?」
「本心だとも」
「オイゼビウス王子……」
「……」
助けを求めるようにりんごはオイゼビウス王子の方を向くがオイゼビウス王子は目をそらしてしまう。リヒャルト王子は言う。
「おいおい、オイゼビウスの方を見るな。姫は俺の方だけ見てればいい」
「でも……」
「ダナハンに、無理矢理連れてこられたんだろ。それで無理矢理結婚させられるんだろ? それってひどいことじゃないか」
「それはそうだけど……」
「君には自由に生きる権利がある。ダナハンの言われたとおりにする理由はない」
「それと結婚はちょっと違うというか……」
「なんだ歯切れが悪いな。もしかしてオイゼビウスに惚れちまったか?」
「そんな、ことは、ない、けど」
「けど?」
「悪い人じゃないな………、って」
りんごの言葉にリヒャルト王子は立ち上がると言った。
「いいか姫。結婚は悪い人じゃないからってするものじゃない」
そして一歩踏み出す。
「好きな人とするものだ」
さらに踏み出す。
「そして俺は君のことを一目惚れした」
座り込み両手でりんごの頬をそっとすくう。
「君はどうだい? りんご姫」
「私は……」
オイゼビウス王子、何か言ってよ。りんごは心の奥で叫ぶ。そうすれば……。
そうすれば?
あれ、私、ちょっと変だ。
もしかして本当にオイゼビウス王子のこと、好きになってる?
でも、でも……。
「関係を無理矢理迫るのはよくありませんよ、リヒャルト王子」
唐突に救いの声がして、りんごは解放された。
「イスン!」
「はん、お前らがそもそも無理矢理りんご姫をオイゼビウスと結婚させようとしてるんだろうが」
「そうですが、決めるのはりんご姫です。今のは脅迫に近いですよ王子」
「脅迫がダメなら誘拐もダメだろうが!」
「悪いことをしている自覚はあるのですね。ではやめることです。リヒャルト王子?」
「くっ……、覚えておけよ、必ず俺は姫と結婚する!」
旗色が悪くなったリヒャルト王子はそう言い捨てるときびすを返して去って行った。
「では、私もこれで」
イスンも一礼すると去っていく。後に残されたのはりんごとオイゼビウス王子。りんごはオイゼビウス王子に聞く。
「王子はどうして何も言わなかったの?」
「……」
押し黙るオイゼビウス王子。りんごはさらに尋ねる。
「ねえ、どうして?」
「僕よりリヒャルト兄さんの方が、姫にふさわしいのかなって思ったら、動けなくなってた。しゃべれなくなってた!」
吐き出すようにオイゼビウス王子。りんごの方を向く。その顔には涙すら浮かべている。
「王子……」
「ごめんなさい。僕は姫の護衛失格です」
「……」
「けれど、約束した以上、今日は姫にいやだと言われるまでお仕えいたします」
「……うん、ありがとう……」
「さあ、どこへなりとも……」
気を取り直してオイゼビウス王子は言ったが、その言葉はどこか弱いものだった。
そのあとは、どこかよそよそしげに二人は城を見て回った。
与えられた部屋に帰って、りんごはベッドに横たわる。
「求婚なんかいきなりされても、困っちゃうよね」
リヒャルト王子の強引さにあきれながらも、りんごはまんざらでもなさそうに頬を染める。
それにあの弱気のオイゼビウス王子。なんだか放っておけない。そんな気持ちもある。
私これからどうなっちゃうんだろう? りんごは少し不安と期待が入り交じった感情を持て余しながら眠りについた。
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