4 兄様たち
高くてあたりが見回せる場所。りんごはそう王子にリクエストした。すると鐘楼を案内するとオイゼビウス王子。鐘楼に続く廊下を歩いて道を曲がる。すると五人の立派な身なりをした若い男性が話し合っているのが目に入った。するとオイゼビウス王子の顔がぱぁっと明るくなる。
「兄様たち!」
オイゼビウスは『兄様たち』に駆け寄っていく。りんごも慌てて後を追いかけた。そういえば、たしかにあの人影たち、ロケットで見たことがある。
「よう、オイゼビウス。と、りんご姫」
五人のうちで一番背の高い、がっしりとした体格の王子――オーギュスト第一王子が、二人に気づくと挨拶する。
「わ、私のこと知ってるの?」
小走りで追いついたりんごは驚いて言った。
「まあ、ね。君は今、王宮、いや王国中の話題を独り占めさ」
賢そうなアグノライア第二王子が言う。
「え……。どうして?」
りんごが聞くと笑顔でオーギュスト王子が答える。
「結婚するんだろ、オイゼビウスと」
「えっと……」
りんごが言葉に詰まっていると、オーギュスト王子は笑った。
「まだわからんか、はっはっは」
「でもまだ決まってないとはいえ、僕たち六人を差し置いての婚姻だからね、そりゃみんな驚くさ」
快活そうなラーガルド第三王子が言う。
「あれ、みんなお嫁さんいないの?」
「はっはっはっは、うむ、いない! みなフリーだ!」
「オーギュスト兄さん!」
生真面目そうなカイメルン第五王子が笑う長兄をたしなめる。するとオーギュスト王子も真面目な顔をして、
「ま、この婚姻、父には何か考えがあるのだろうな」
そう言った。
「ダナハンに何か吹き込まれただけじゃないかなぁ」
今まで黙っていたおとなしそうなコンストラリア第四王子が口を挟む。
そして今度はオイゼビウス王子の方を向いて言う。
「しかし、オイゼビウスもまだまだだね」
「は、はい? 何のことでしょう?」
何のことかわからずオイゼビウス王子。コンストラリア王子は言った。
「姫を一人置いてこちらにきては、いけませんよ」
「す、すみません!」
慌ててりんごではなく王子たちに向かって謝るオイゼビウス王子。
「まあ、今まで、守られている側でしたから、守る側になるのも良いかもしれません」
そう取りなすのは、ラーガルド王子。
「そうですね、案外そのための婚姻かもしれませんね」
カイメルン王子が手を顎に当てて言うが、そんな二人をアグラノイア王子がたしなめた。
「ラーガルド、カイメルン、一方的に守られる側と決めつけるのは、りんご姫に失礼では?」
「確かに……。申し訳ありませんでした、りんご姫」
「このカイメルンも、りんご姫に謝罪いたします」
そう言って、りんごの前でまじめな顔で一礼する二人の王子。
「別に良いけど……」
りんごはといえば、五人のイケメン王子にただただ圧倒されていた。なにこれ。なにこれ! 心臓がばくばくする。頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。そんな中、オイゼビウス王子と兄たちの雑談は続いている。
「りんご姫、いかがなされましたか? ご気分でも?」
「はい! いいえ!」」
唐突にアグノライア王子に尋ねられ、りんごは飛び上ってしまった。そんなりんごを見て、アグノライア王子は悟ったように言った。
「オイゼビウス。私たちの会話に夢中になるのも良いですが、姫も楽しませて上げなさいな」
「わわわわ、私は別に!」
いろいろ妄想して楽しんでますから! とはさすがに言えず、りんごは口ごもった。
「そうだな、すまなかったな。長話をしてしまって。りんご姫も申し訳ない。我々はこれで失礼するよ」
オーギュスト王子が兄たちを代表して言った。そして一礼。ほかの兄たちもそれに続く。
「はい、こちらこそすみませんでした、兄様方」
オイゼビウス王子も兄たちに頭を下げる。
あとは笑いながら去って行くオイゼビウス王子の兄五人。
「なんか、すごかった……」
行ってしまってからりんごが感想を言う。
「どうです、あれが僕の自慢の兄たちです」
反対にオイゼビウス王子はどこか自慢げだ。
「あれ?」
けれど、あることに気づいて、りんごは首をかしげる。
「一人いない。たしか第六王子?」
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