第10話



「あ?なんやて!」


 デブ狸が目を釣り上げてシホに食って掛かる。しかし女子高生くらいの体格のシホにまるまるとした4足獣は弄ばれていた。


「あーそのへんで良いだろ。じゃこっちは気が重いけどちょっと行って来るわ」


 行きたくないんだが、行かない訳には行かないからな……としぶしぶ拠点を出発する。ハァ……世知辛い



◇ ◇ ◇



「おい、お前どうやったんだよ?俺にそのチカラをよこしな!」


────予測可能──回避不可能────

 俺は探協の近くでチンピラに絡まれていた。

 あ、探協ってのはまあそのまま農協とか漁協、生協とかあるやん?アレの冒険者版が探索者協会略して探協でさ。そこで「灰狼のキバいくつ欲しい」とか「赤スライムの核高価買取り」とかまあそういうのをやってるのよ。

 他にも銀行やら保険やら売店やらいろいろあって、今日はこのタヌキを使い魔として登録しに来たんだよね。登録されてないと街を歩けないからさ。


「聞いてんのかよ?昨日の陰陽師共が集まって偉い神様に祈るっつー儀式は配信されてたからな、知ってんだよ。」


「いやぁ、見てたなら分かるやろ。俺も欲しくてやった訳じゃ無くて押し付けられたんよ」


「口答えするんじゃねぇ!だったらてめぇは今日から俺の部下にしてやる!ついてこい!」


 …………俺様タイプかよ……しかもたぶん良くも悪くも注目されてる俺を使って名前を売ろうとしてるな?


「こっちよ」


 いきなり小柄な女が俺の手を掴み引っ張って行こうとする。俺は咄嗟にひねり上げて地面にドサッ叩きつける。

 女は何が起こったのか分からない顔をして俺を見上げていた。チンピラの方は固まっていて動けないでいた。


「あん「てめぇスリかァ?!」あんたを助け「にらみ合いしてる所に横からぶつかって来やがって!」わた「何の目的だ!」」


 ちょっと行儀が悪いけど、女のセリフに被せる様にして叫ぶ。じゃないと明らかに俺が悪者にされそうだしな。この女の立ち位置が分からないと助けて貰うつもりが罠にハマった。なんて事にもなりかねないし。


「チンピラの次は美人局かよ!てめぇらもほとんどがあの配信を見てたんだろ?俺はむしろ神様がエリート達への当てつけに選ばれた生贄みたいなモンなんだよ!俺をどうこうした所でたぶん何も変わらないしな!」


 すると人混みの中からイケメンが出て来た。スマートな鎧を着て男にしては長い髪を靡かせながら剣を抜いてこうのたまう。


「女性に攻撃する時点で君は悪だね。昨日の配信も何か裏があるんじゃないかい?そうだな……都市伝説の秘密結社の一員とか」


「バカ言え。男同士が言い争ってる所に割り込んで来る女にマトモなヤツが居るかよ!タイミング的にあのチンピラとグルのスリか美人局、よしんばそうじゃないとしても目的は俺じゃなくて“今俺が悪目立ちしているこの状況”だろ?」


 俺は得意げな顔でさも「これが事実だ。」と言う様なイケメンに反論する。だって俺を助けようって雰囲気をこの女からは感じないもんな。


 イケメンは女を背中に庇う様に移動する。あ、あの女何かイケメンに吹き込んでるな。


「君の様な疑心暗鬼に濡れた男を私は許しては置けないッ!訓練場に来いッ!俺が叩き直してやる!」


 あー……あのイケメンの中で俺が百パーセント悪者になったなこれは。どうしたもんかと考えていたら探協の職員がやっと現れて人混みが散って行った。




◇  ◇  ◇




「事情は分かりました。貴方も災難でしたね。これがその化け狸の登録タグです。」


 あの後、職員に別室に連れて行かれてトラクゥの登録は無事に終わった。そして職員に「彼に呼び出されてますが……どうしますか?」のセリフを背にダンジョンに挑むのであった。

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当てつけての逆張り行為は褒められたもんじゃ無いな コトプロス @okokok838

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