第2話
パーティルームに入った太海が最初に感じたのは、押し返されるほどの熱気だった。
部屋の中には、反対の壁が見えない程の人がいた。
それも、全員が太海に負けず劣らずの体格を持った猛者(デブ)ばかり…!
高い天井に吊り下がったシャンデリア、本来であれば300人は優に入るであろう広い部屋、しかしそれを感じさせないほどの圧倒的な圧…!
太海は永倉に悟られないようにツバを飲み込んだ。
「ふふふ…。すごいでしょう。今回の参加者は総勢200名を超えております。もちろん、全員体重100kg超の方のみ。参加者が揃うまで、ぜひこちらのオードブルをお楽しみください。」
太海は、大量の料理が乗ったテーブルの前に通された。太海はごちそうを前にして、急激な空腹を感じた。(そういえば、三十分も何も食べてなかったな)太海は取皿を手に持ち、大皿から唐揚げとチャーハンとエビチリを盛り付け、勢いよく食べ始めた。
太海が目の前の料理に集中していると、突然隣から声をかけられた。
「ククク…。いい食べっぷりだな、兄ちゃん。あんた初参加かい?」
「…。」(´~`)モグモグ
「…。何も知らねぇみたいだな。だが、俺は親切だから教えてやるよ。今から開催されるのは、過酷なデスゲームさ。大方、常連だけが参加できるイベントがあるとか言われてノコノコ来たんだろうがな。」
「…。」(´~`)モグモグ
「実感がわかねぇよなぁ?てめえみたいな脳みそまで太っちまってる平和ボケしたやつには理解できないよなぁ?だが俺はてめえらみたいなタダのデブとは違う」
「…。」(´~`)モグモグ
「俺はプロレスラーとして体を作ってきた。てめぇらと違って、俺の100kgには筋肉が含まれている!それに俺は『デスゲーム』であることを承知して参加してる…!覚悟が違うんだよ!てめぇなんとか言えよゴラァ!!」
「そこまでデス。」
太海に話しかけていたプロレスラーのような体格をした男性の声を、恰幅の良い白人男性が遮った。
「いつまでも隣で聞いていればみっともないデスネ。本当に自信があるなら、黙って自分の脂肪(チカラ)を信じれば良いのデス。目の前の料理に集中している彼の方がよっぽど自信に溢れて見えるデスネ」
(コイツ…!ただものじゃねぇ…!)
白人男性の脂肪(チカラ)を感じ取ったプロレスラーの男性は、悔しそうに去って行った。
「大変だったデスネ、大丈夫デスカ?」
「…。」(´~`)モグモグ
(この男、これがDeathGameであると聞いてなお、1ミリも動揺していない…。これはとんでもない逸材が来てしまったかもしれないな…。)
白人男性は、一通り太海を観察すると、ゆっくりとその場を離れた。
…男たちが離れて数分後。
「ハッ!!美味しすぎて気を失ってた。誰かに話しかけられた気がするけど、気のせいかな」
太海はテーブルの大皿を平らげ、満足げにお腹をさすりながら独り言ちた。
※※※
角刈りにサングラスをした黒服の男が、会場前方のステージ上に、マイクを持って現れた。
「皆さん、大変長らくお待たせいたしました。先程、今回の参加者の皆様が全員揃いました。ただいまよりホテル永倉主催の『特別なイベント』を開催させていただきます。」
太海はフライドチキン片手に、黒服の男の話に耳を傾けた。
「招待状に書かせて頂いたように、今回のイベントはホテル永倉および弊ホテルの系列店の常連様だけをご招待させていただきました。こちらのイベントに参加頂いた皆様には、もれなく『一生分の食費を保証する権利』をプレゼントさせていただきます」
その言葉に、会場の人々から喜びの声があがる。
「ただし!生きて帰れるのは、1名のみです。」
黒服の声に、会場が静まり返った。
「皆様に今からご参加いただくイベントは、『デスゲーム』。このゲームを生き残った方のみ、『一生分の食費を保証する権利』を持ってご帰宅いただけます」
「ふ、ふざけるな!」「デスゲームなんて聞いてない。」「不参加だ、不参加!」「命をかけるなんて馬鹿馬鹿しい」「頭湧いてんじゃねーのか!」
会場中から非難の声が多数あがる。
非難の声を聞いた黒服は、ゆっくりと周りを見渡して、ため息をついた。
「…ファ○キュー!ぶち殺すぞ豚共が!」
黒服の怒鳴り声に、再び会場が静まり返った。
「お前たちは皆まるで養豚のようにこの世を自分中心に、求めれば周りが右往左往して世話を焼いてくれる。臆面もなくまだそんな風に考えてやがる…甘えるな!世間はお前らのお母さんではない!お前たちはシャバで甘えに甘え太りに太ってここにいる折り紙つきのデブだ!『一生分の食費を保証する権利』がなんのリスクも無しに手に入るわけ無いだろうが!生きることは食べること、そしてこの世界は弱肉強食だ!お前らが今為すべきことはただ勝つこと、勝つことだ!勝ったらいいなじゃない勝たなきゃダメなんだ!!勝ちもせずに食べようとする事がそもそも論外だ。これはデブを集めた最終戦。ここでまた負けるような奴、そんな奴の運命なんて俺はもう知らん、ほんっとうに知らんそんなやつなんてもうどうでもいい。勝つ事が全てだ!勝たなきゃゴミだ!!」
黒服の演説を受け、感動の涙を流すもの、デブと言われて傷つくもの、熱に浮かされたような表情を浮かべるもの、各々が様々な反応をしていた。
その中でも、ちらほら全く反応を変えないものがいた。
太海はフライドチキンを齧りながら、頭をフル回転させていた。
(元よりタダで『一生分の食費を保証する権利』が手に入るとは思っていなかったが、掛け金が『命』だとは流石に思ってなかったな。ここまで話したんだ、今更帰りますは通用しないだろう。さて、どうやって生き残ったものか。にしても、動揺してない人もいるんだな。何か知ってるのかな。もしかしてサクラとかか?)
久々に骨のある課題と出会えたな、と思いながら、太海はフライドチキンの骨を手放した。
デブ・デス・ゲーム:高度に発達したデブは真球と区別がつかない かきぴー @kafka722
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