第1話
それからの一週間、太海は招待状のことで頭を悩まし、仕事が手につかなかった。
いつもであれば午前中には自身のタスクを終わらせ、周囲のタスクを巻き取るのだが、この数日は定時ギリギリまで自身のタスクを行っていた。
「丸山くん、大丈夫?最近、ぼーっとしてる時間が長いみたいだけど…」
2つ上の先輩の美輪美羽(みわみう)が、太海を心配そうに覗き込む。
「美輪さん、ご心配おかけしてしまってすみません。ですが、全然大丈夫です」
「嘘!いつもの丸山くんだったら、ランチでご飯5杯はおかわりするのに、今日は3杯しか食べてなかったじゃない!」
美羽は目に涙を浮かべながら、訴えかける。確かに、太海はいつもであればおかず3人前、ご飯5杯以上は食べるが、今週はその半分程度しか食べていなかった。
それにより、ズボンが緩くなるほど痩せて(本人比)しまっていたのだ。
太海は一瞬俯くと、努めて明るい声で続けた。
「美輪さんには隠し事は出来ないなぁ。実は実家で飼っていた亀が死んでしまって、落ち込んでいたのです。少し落ち着いて来たので、連休明けにはきっと元気になってます」
「そうだったの…。それなら、よ、よかったら、今日飲みに行かない??辛いことは吐き出した方が良いわよ!なんなら私奢るし!」
「ふふ、ありがとうございます。でも、俺に奢ったら、美輪さん破産しちゃいますよ」
美羽と太海は、そのまま仕事を上がり、夜の街に繰り出した。最初は太海のことを気遣っていた美羽だったが、次第にお酒が回り仕事の愚痴や、元カレの愚痴、友達が結婚し始めて遊んでくれなくなったこと、そのせいでGWな予定がスカスカなことなどを話始めた。
太海は、ビール一杯に対して、唐揚げ一皿とご飯大盛り一杯をチェイサーにするペースを守っていたため、あまり悪酔いすることは無く、ニコニコしながら美羽の愚痴を聞いていた。
酔い潰れた美羽の代わりに居酒屋の会計を済ませ、美羽をタクシーに乗せて美羽の自宅まで送った。太海自身は、そこから徒歩で家まで帰った。もちろん、途中で家系ラーメンを食べて帰った。
※※※
太海には一つ悩みがあった。そう、それはまさに食費のことだ。
太海はコンサルタントとして働いていることもあり、同年代と比べて収入が高い方だという自負がある。しかし、それでも自身の食欲を満たすことは出来ていなかった。
もっと食べたい。もっと美味いものを食べたい。誰にも気兼ねなく、お金のことを気にせず食べたい…。
太海は、自らが飢えていることを自覚してしまった。
「俺は…」
※※※
4月末日。GWの初日の朝、太海はホテル永倉の地下にあるパーティールームを訪れていた。
パーティルームの入口には、あの日招待状を渡してきた老紳士の姿があった。
「お待ちしておりました、丸山様。きっとお越しくださると思っていましたよ。さぁ、こちらへ」
老紳士―永倉徹は、ゆっくりとパーティルームの扉を開けた…。
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