デブ・デス・ゲーム:高度に発達したデブは真球と区別がつかない

かきぴー

序章

とある土曜日…


丸山太海(26)は、T都の高級ホテル「ホテル永倉」のホテルビュッフェに参加していた。


「やはり、永倉のバイキングは最高だな。どの料理も丁寧に作られている。白ごはん一つとってもこだわっているのがわかるよ。それに何より、全く遠慮のない高カロリー…。近頃は健康に配慮した料理が多くなってきてるが、ここのは違う。」


太海は、8皿目のプレートを平らげながら、ビュッフェへの感想をにこやかに述べる。

太海がビュッフェにきて、一時間半ほどが経っており、太海と同じタイミングで入ってきた人が入れ替り始めていた。


「ふふ…初心者の方々が多かったみたいだな…。永倉のバイキングでは常に料理の追加

が行われるが、それに加えて約一時間半でメニューの変更がある…。つまり、ここからが本番…」


太海が9皿目を取るために、席を立ったとき、後ろから「丸山様」と声がかかった。

太海が振り向くと、そこには黒い燕尾服を着た老紳士が立っていた。


「お食事中申し訳ありません。私、こちらのホテルのオーナーをしております永倉と申します。」


老紳士はそういうと、丁寧に頭を下げた。


「これはどうもご丁寧に。して、私に何か御用でしょうか?」


太海は丁寧に返すが、内心、早く9皿目を取りに行きたくて仕方がなかった。(料理が冷めてしまったらどうしてくれるんだ…)そんな、太海の内心を見通したように、永倉老人は笑みをこぼす。


「部下から才能がある方だと伺っていましたが、期待以上ですな。おかわりを引き止めてしまい申し訳ないが、もう少しだけお付き合いいただきたい。これを受け取って下さいませ。」


そう言いながら、永倉老人はろうで封した綺麗な白い封筒を一つ取り出した。


「これは…?」


太海は自身の内面を言い当てられたことに、わずかに動揺しつつ、封筒を受け取った。


「招待状でございます。」


「招待…?一体なんの…?」


永倉老人はニヤリとした笑みを浮かべたが、それには答えず、話を続ける。


「丸山様は、食費を抑えたいと思ったことはございませんか?丸山様ほどの食欲をお持ちの方であれば、食費も馬鹿にならないでしょう。私はね、丸山様のような『太る』の才能に恵まれた若者が大好きなのです。丸山様のような才能に溢れた方が、たかが金の問題でその力を伸ばせないことが悔しくてならない…。だからね、支援することにしたのですよ。真の才能に溢れた方を見出し、力をお貸しすること、それがこの老体にとっての最高の娯楽なのです。」


永倉老人は、熱にうかされたような表情でそう語った。


「は、はぁ」


太海は、永倉老人の勢いに飲まれ何も言えなくなっていた。


「ご自宅に帰られましたら、ぜひ、その招待状をお読みになってください。そして、また丸山様とお会いできることを、心より楽しみにしております」


永倉老人は、そういうと「残りのお時間も、どうぞお楽しみください」と言い残して会場の外に出ていった。


太海は我に返ると、封筒をカバンにしまい、いそいそと9皿目を取りに向かった。


※※※


その夜、太海は夜食のビッグマックを頬張りながら、招待状を読んでいた。招待状には、以下のように書かれていた。


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拝啓 丸山太海様


いつもホテル永倉をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。


この度、ホテル永倉はご来館いただいたお客様方への感謝の気持ちを込めまして、ホテル永倉から特別なご案内がございます。


このたび、ホテル永倉および当グループの常連様に、貴重な体験をご提供する「特別なイベント」を企画いたしました。

そして、この度、丸山様を特別なゲストとしてご招待いたします。


この特別なイベントには、ホテル永倉および系列店の常連かつ、100kg以上の体重をお持ちの方が参加できます。


貴重な体験ができるだけでなく、イベントの最後には特別なご褒美があります。

このご褒美とは、なんと一生分の食費を保障する特別なクーポンです。


私たちホテル永倉は、お客様にご満足いただけるサービスを提供することをお約束します。


皆様が忘れられない、貴重な体験を提供できることを大変光栄に思っております。ご参加いただくことを、心よりお待ちしております。


敬具

ホテル永倉

オーナー 永倉 徹


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