第33話 すり合わせ
ヒュオトレは、僕が一緒だから疑う余地は無いと言った。それが、どうにも気になったので聞いてみる。
「なあ、ヒュオトレ。何で、僕が一緒だと信用出来るってことになるの?」
「だって、ジョウは人間族と敵対してるじゃないか。今、俺たちがメインで相手にしているのは人間族だからな」
何を今更言っているのかといった表情のヒュオトレに、僕の開いた口が塞がらなくなってしまう。
「何を言っているんだい。僕がいつ人間族と敵対したって?」
「そっちこそ何言ってるんだ。ジョウは、西の魔王と一緒にアクトリンドを滅ぼしたのだろ。人間族を護ろうとした将軍諸共、多くの人間族を殺した大犯罪人って話は聞いてるぜ」
当たり前の事のように、つらつらと説明するヒュオトレの言っていることは、僕には一切身に覚えの無いものだ。
「待ってくれ、大罪人って、僕は何もしてないよ。何だよ、その将軍って。会ったことも無いし、勿論殺してもいないさ」
「はあっ、そんな筈ないだろう。少なくとも会ってはいる筈だ。だってよ、元お仲間の一人だったってのは有名な話じゃないか。人間族のビルトゥス将軍ってな」
頭の中に、あの人好きのする笑顔が浮かんでくる。
「ビルトゥスを、僕が、殺したって!」
思わず、ヒュオトレを睨んでしまう。
「ああ、そう聞いているぜ。違うのか?」
「当たり前だ!」
そんなことをする筈が無いではないか。友との旅の時間が思い出されて、怒りが沸々と沸き上がる。
「あっ、ごめん」
しかし、ヒュオトレが僕達のことを詳しく知っている筈もない。この怒りをヒュオトレにぶつけるのは、ただの八つ当たりだ。
「あっ、いや、そういうことになっているからなあ。何か、すまん」
「いえ、気にしないで。こっちも説明が足りてなかった。僕が地球へと帰ったのは、西の魔王から転移の宝珠を取り返してすぐなんだ。ヒュオトレ達と会ってから、大体4カ月後といった感じかな」
そうなのだ、僕がウゾルクを去った時は、まだアクトリンドも栄えていたし、ビルトゥスは勿論、アリマススにノルクッディも見送りしてくれた。
「だとしたら、ジョウはどうして大犯罪人なんて事になっているんだ?」
「それは、僕の方こそ知りたいよ」
ウゾルクに戻ってみれば350年経過しているし、アクトリンドが廃墟になったことに僕も絡んでいるみたいな言われようだし、本当に困惑したんだよ。
「あれ、待てよ。それだと、聖女教が出来た時にはジョウはウゾルクにはいなかったってことになるな」
「そうなんだよ。どうして僕が知りもしない聖女教から、大罪人認定されなければいけないのか分からないよ」
冤罪だと訴えを起こしたい所だが、生憎ウゾルクに裁判所はない。仮に似たようなものが有ったとしても、僕的にも無罪の証拠を出すことは難しいのだ。
「そんな事は無いと思うわ。聖女教という位なのだから、当然率いている者は、聖女と名乗っているのでしょう。恥ずかしげもなく聖女なんて名乗れる馬鹿は、私は一人しか知らないわ」
仮に東の魔王に心当たりが有るというのであっても、そもそも僕は知らない。
「その人が僕のことを知っているって? 僕はそこまで有名人ではないつもりだけど」
「何言っているの知っているに決まっているじゃない。ていうか、大いに関わっているじゃないの。そもそも、大賢者なんて名乗れる厚顔無恥な女なのだから」
東の魔王の言葉に、僕よりも先にヒュオトレが反応する。
「馬鹿言うなよ。大賢者様は、アクトリンドに掛けられた呪いで、お亡くなりになったのだぞ」
僕の頭にアクトリンドの碑文の言葉が浮ぶ。
『大犯罪人ジョウの呪いによって人の住めぬ地と化した』
「待ってよ。その呪いって確か、僕が掛けたことになっていたよね」
「あっ? あれ?」
ヒュオトレも、前提が可笑しいことに気付いてくれたようだ。
「西の魔王って、そういうことはあまり得意そうではないよね」
僕の中では西野先生のイメージが強いから、余計にそう思えてしまうだけなのだろうか。
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